1話 サービス開始前
お待たせしましたー!
「イナリ…」
「アマテラス…」
「明日からサービス開始だし早く帰って課題を終わらせるぞ。」
「「はーい…」」
高校の授業が終わり三人で帰り道を歩く。ロキゲームスからのメールが届いて五日後、『Your World Online』は発売された。告知が直前だったにも関わらず予約は殺到し、発売日の前日から並んでも買えない人もいたという。『Your World Online』と『VRヘルメット6』は発売日の翌日に届いた。ネットワークへの接続などの作業はもう終えてあり、あとは明日のサービス開始を待つだけだ。
「明日の正午でしたっけ?」
「ああ、だから課題とかやらないといけないことは今日中に終わらせておけよ。特に紬。」
「終わる気がしない…」
「ゲームは宿題を終わらせてからって葵さんに言われてるだろ。」
「小学生ですか?」
「精神年齢的には間違ってない。」
「失礼な!…手伝ってください。」
「わかった。帰ったらすぐ始めるぞ。奏はどうする?」
「うーん…自分はしたいことがあるので大丈夫です。」
「そうか、じゃあまた明日の朝に俺の部屋に一回集合してくれ。」
「わかりました。また明日。」
「ああ、また明日。」
「また明日!」
マンションの部屋の前で別れてそれぞれの部屋に入る。
「さっさと課題を終わらせて明日に備えましょう。」
鞄を置いて課題を開く。
一時間ほどで課題を終わらせて時計を見る。
「五時半ですか…どうしましょう。」
夕食を作るにはまだ早い。
「…情報でも調べていましょうか。」
サービス開始前に大まかな世界観ぐらいは発表されているだろう。
『そこは現代には存在しない妖精や幻獣たちの住む世界。あなたは異界から訪れた異邦人として目を覚まします。ここはあなたたちの世界、何をするのも自由です。あなたも新しい世界でもう一つの人生を歩みませんか?』
ロキゲームスの公式ホームページにはこのようなことが仰々しい言葉遣いで分かりづらく書かれていた。
「ロキゲームスのホームページって全部こんな感じなんですかね?」
正直わかりづらい。
「・・・これって実際妖精や幻獣がいることしか書かれてません!?」
結局何も分からない。
「・・・明日を待ちますか。」
その日は夜更かしをすることなくベットに入って早々に寝た。
ピピピッピピピッピピピッ
目覚まし時計の音で目を覚ます。時間は六時。
「ふわあ~」
軽く伸びをしてベットからおりる。
「眠いです…」
眠い目をこすりながらキッチンに移動する。
「適当でいいですよね。」
食パンをトースターに入れてお湯を沸かす。
「早いこと終わらせてしまいますか。」
パジャマを脱いでパーカーにジーンズといういつもの格好に着替える。
ピッ
顔を洗ってパジャマやタオルを洗濯機に放り込む。髪が短いと寝ぐせもできづらい。
「そろそろ集合時間ですね。」
朝食に使った食器を片付けて玄関に向かう。
「行きましょうか。」
スニーカーを履いて眼鏡をかける。
ガチャリ
外に出て鍵をかけると隣の部屋に向かう。
コンコン
「誰だ?…ってなんだ、奏か。」
「その言い方はひどくありませんか?それに集合って言ったのは颯人君でしょうに。」
隣の颯人君の部屋に入れてもらおうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ片付けが終わってなくて――」
「いつもは気にしませんし、むしろ手伝わせてくるじゃないですか。」
「えっと、あ!手伝ってくれるなら郵便物を確認してきてもらってもいいか!?」
「はあ、わかりましたけど…」
階段を下りながら何があったのか考える。
「人に見せられないものでもあるんでしょうか?」
同性の友人にも見せられない物…?
「…想像もつきませんね。」
自分と颯人君の部屋のポストを確認する。
「新聞だけですか。…紬ちゃんの分も持っていきましょう。」
三部屋分の郵便物をもって階段を上る。
「何があるのかは分かりませんけど今度こそ入れますよね?」
そうつぶやきながら廊下を覗く。
「頼むから早く帰ってくれ、奏が来る前に!」
「ふわ…わかった…」
「…紬ちゃん?」
「あ…」
自分が見たのは颯人君の部屋から紬ちゃんが出てくる光景だった。
「紬ちゃん、コレ、新聞です。」
「ありがと…眠い…」
目をこすりながら部屋に帰る紬ちゃん。
「なるほど…わかりました。」
「…何がだ?」
「今更とぼけても無駄だと分かっているのでしょう?」
「…お前の推理を聞こうか。」
「まず、颯人君は不自然に部屋に入られるのを嫌がりました。そして、先ほど颯人君の部屋から紬ちゃんが出てくるのも見ました。」
「…紬は朝食を作るのが面倒で来ただけだ。」
「それは違います!」
論破!
「紬ちゃんは昨日着ていた服のままでした。そして、昨日は颯人君の部屋で勉強をしていたはずです。」
つまり!
「これが示すのは昨日紬ちゃんは颯人君の部屋に泊まっていったということ!」
「頼むから大声で言うな!」
「それらの事実から自分が予想した颯人君が部屋に入れてくれなかった理由は!」
「もう言ったろ!まだあるのかよ!?」
「颯人君が紬ちゃんの寝顔を誰にも見られたくなかった、です!」
「…は?」
「?違ったんですか?」
(もうこれそういうことにした方がいいな。)
「…その通りだ。」
「あってました!よかったですね、紬ちゃん。」
「…え?紬?」
「…」
颯人君の後ろには顔を赤くした紬ちゃんがいた。
「い、一体いつから…」
「自分が理由の予想を始めたあたりです。」
『これが示すのは~』のあたりからだ。
「こ、これは奏を納得させるための嘘であって…」
「え、じゃあ何が理由なんですか!?」
「奏は黙ってろ!」
廊下で騒がしい会話をしていると、
「廊下で騒ぐな!」
ドギャ
「痛いんですけど。」
「かなり痛そうな音してなかったか?」
振り返るとほうきを持ったこのマンションの管理人、『桜田光一』がいた。
「とりあえず廊下で騒ぐのはやめろ。ほかの住民の方の迷惑になる。」
「…ほかの入居者の方っていたんですか?」
まだこのマンションに入居して三週間ほどたっているが見たことがない。
「…一人、引きこもりが一つ下の4階にいる。」
「…その人だけですか?」
「…さて、今日から楽しみにしていたゲームが始まるんだろう?早く帰りなさい。」
ごまかされた。
「じゃあ、一回帰って三十分後に集合しましょう。」
「…うん。」
「おいていかないでくれ!」
赤い顔をした紬ちゃんと捨てられた子猫のような顔をした颯人君を置いて部屋に帰った。
駄作その1ですー。ぜひ読んでくださいー。
https://ncode.syosetu.com/n2211hp/
…どうやってリンクを貼るんですかー?
…語尾はお気になさらずー。