救われなかったひと
「はは……お腹すいたな」
そう言って彼女はかつてと変わらない笑みを浮かべた後、静かに深い眠りについた。傷だらけの身体はピクリとも動かず、地面に赤が染み出して空から降りしきる雨に打たれていた。彼女の冷えきった身体を抱えあげる。サラリと垂れる白銀の髪は砂利と血にまみれ、美しかったその輝きを失っていた。眠りについた愛おしい彼女の顔を見つめて、自分の胸が締め付けられるのを感じた。彼女はこの世界を愛し、その身を削って世界を救った。だが彼女に全てを押し付け、傷つけたこの世界を呪う。
たった一つの大切を奪っていったこの世界を呪う。
たとえ彼女がそれを望んでいなくとも。この世界を殺したい。