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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第六楽章:月光ソナタ」

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「お迎えにあがりました」

 ~~~カーミラ視点~~~




 テレーゼとの出会いから二日を、カーミラは死んだように過ごしていた。


 自室に引きこもり、ベッドの上で過ごすのはいつも通り。

 ネグリジェ姿のままなのもいつも通りだが、日課だったスクラップブック作りもせず、テレーゼのことを描いた詩の続きも書かず、100体作ることを目標としていたぬいぐるみも53体で止まったまま。


 テレーゼに会えたことで浮かれていた気分は、すでにしぼんでしまった。

 天にも昇るような気持ちは消え失せ、今はただただ、みじめなだけだ。

  

「……あ~あ、なんでこんなことになっちゃったんだろう」


 念願かなってテレーゼに会うことが出来たのに。

 赤毛のツインテールのお嬢様が終始憎々し気な目で睨んで来ていたけど、憧れの人の手の届く範囲に身を置いて、あれこれ楽しくおしゃべり出来たのに。


「写真や絵でしか見たことのないお姿を目に出来て、お言葉を耳に出来て、ちょっとだけど触ることも出来て……なのになんでこんな気分に……って。あ、あ、あ、あああああーっ?」


 そこでカーミラは気づいた。

 肝心要の演奏を聴けていないことに。

 今まで想像でしか楽しむことの出来なかった演奏を生で聴く機会をみすみす逃がしてしまったことに。


「ああああああたしのバカぁ……。もおぉぉーっ、何やってんのよぉーっ……」


 拳を振り上げてベッドを叩き、叩き、叩き……やがてそれもむなしくなると、力なく崩れ落ちた。

 テレーゼの等身大ぬいぐるみを抱きしめながら、がっかりとつぶやいた。


「もう一度来てくれないかなあ~……。ああ~でも、あんな塩対応したらもうダメかなあ~……」


 引きこもりをやめて音楽院へ通わないか、なんだったらどこかで待ち合わせて一緒に登校しないか。 

 そうまで言ってくれたのに、カーミラは「努力します」とか「あはは、それいいですね」とか「ウケるぅ~」というような感情ゼロの反応しか出来なかった。


 カーミラにはわかっていのだ、

 素晴らしい栄誉ではあるが、それが絶対にかなわないことだというのが。

 部屋から出るのは勇気がいる、庭へ出るのはさらなる勇気がいる、そこから先に行くには崖から飛び降りるぐらいの勇気がいるのだ。少なくとも、彼女にとっては。


 かつて味わった無力感。

 嘲るような視線、鳴りやまぬひそひそ声。

 それらを二度と味わいたくないと、心が訴えてくる。

 胸を締め付け、冷や汗を流す形で、体が訴えてくる。

 

 だからしょうがないのだ。

 自分はこの部屋で、一生を過ごすしかない。

 醜く老いさらばえるまで、ずっと、ずっと。


 ──コン、コン、コン。


 部屋の外で物音がした。

 ゆっくり三回の、小さなノック音──伝言がある時の合図だ。


「カーミラ、これ。ついさっきテレーゼ君が置いていった手紙だ。暇があったらあとで読んでおきなさい」


 簡単に用件だけを告げると、父はトントンと足音を立てて去っていく。


「……手紙? テレーゼ様が、あたしに? え、え、え、今っ?」


 あんな対応をした自分に、あのテレーゼが、あの綺麗な指で手紙をしたためてくれた?

 なおかつわざわざ持って来てくれた?


「ちょ、ちょっとっ! それってホント!? ホントにっ!?」


 カーミラはがばりと起き上がった。

 布団を跳ね除けながらドアに突進し、床に置いてあった封筒を慌てて回収した。

 中身を傷つけないようペーパーナイフで慎重に開封し、素早く目を走らせるが……。


「……今夜演奏会を開くので、予定が合うようでしたらお越しください? 小さな音楽堂だけどひとつ借り切ってやるのでどうかっ? あああああたしの席も用意してあるうーっ!?」


 手紙の後半に行くにつれカーミラは興奮し、いつの間にか頬を赤らめ叫んでいた。 


「そんなの行くに決まって……いや、行けないかっ! というかパパっ、テレーゼ様がついさっき(・ ・ ・ ・ ・)置いて行ったって言った!? てことはまだその辺にいらっしゃるの!? もしかして、急げば会えたりするの!?」


 ネグリジェの上にガウンを羽織ると、カーミラは慌てて部屋を飛び出した。

 廊下を駆け、リビングを抜け、玄関のドアを開けると勢いのままに飛び出した。


 外は闇に包まれていた。

 びゅうと寒気が肌を刺し、カーミラは思わずガウンの前を合わせた。


「え、え、え……っ!?」


 目の前にあったのは一台の馬車だ。

 金細工で豪華絢爛に飾り立てた馬車の入口を守備するよう、ふたりの護衛がついている。

 大男と小男のその二人組は、間違いない、赤毛のツインテールの憎たらしいお嬢様を守っていたあのふたりだ。


「あんたたち……もしかして……っ!?」 


「「カーミラ様、お迎えに上がりました」」


 ふたりは腰を折り慇懃いんぎんに礼をすると、カーミラを馬車へと誘った。


「えっ? えっ? なんてっ!? なんでっ!?」


「「わたくしどもはカーミラ様を、演奏会にご案内するために参ったのです。さあどうぞお乗りください」」


「え? でもあたしまだその……っ」


「「会場でテレーゼ様が、お待ちでございます」」


「ててててテレーゼ様があたしのことをっていうかこここここ心の準備があああぁーっ!?」


 悲鳴じみた声を上げるカーミラだが、不思議と断ることは出来なかった。

 次々に舞い降りた驚きと、テレーゼからの招きと。

 おとぎ話の一場面のような雰囲気に背中を押されるように、馬車に乗り込んでしまった。

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