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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第六楽章:月光ソナタ」

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「襲撃」

 音楽院での授業を終え、バルでの演奏を終え、クロードとふたりで帰宅中のことだった。

 暗い夜道を歩きながらわたしは、今日起こった不満なことをひたすらクロードに聞かせていた。

  

 内容は主にリリゼットのことだ。

 といっても彼女本人がどうとかではなく、彼女の放った言葉について。


「誰が悪女だって言うのよ。ねえ、おかしいと思わない? こんな善人……とか自分で言うとあれだけど、わたしって別に悪さなんてしないし。ちょこっとマナー知らずなだけで、基本的にはいい人間でしょ?」

「もちろんでございます。お嬢様は品行方正で教養豊かな、素晴らしい女性でございます」

「いやいや、そこまで言われるとさすがに持ち上げ方がエグすぎるというか……」


 どんな状況であれ必ずわたしを持ち上げようとするクロードの意見は参考にならないにしても、そんなに悪い人間ではないはずだ。

 にも関わらずリリゼットはわたしのことを『悪女』だと言う。

 いったいなぜ……わたしの何が悪いというのだ……。


「……う~ん、それともあれかな。他に何か意味があってのことなのかなあ~?」


 一般的に言って、『悪女』って性格の悪い人のことを差すと思うんだ。

 それこそ悪役令嬢的な、自身の立場を使ってヒロインや周りの人間に被害を与える存在。

 あとは楊貴妃みたいな? 自身の女としての魅力を存分に生かして王様をたぶらかして国を傾ける感じの? 知らんけど。

 

 さすがに後者は無いにしても、ちょっとでも悪役令嬢に近づいてると思われてるんだったら嫌だなあ~。

 第二の人生、今度はちゃんと生きていきたいよお~。


 などと、心の中でぼやきながら歩いていると……。


「──お嬢様」


 クロードが、さっとわたしの前に手を出した。

 これ以上先へ進んではならない、という感じの緊張を含んだ仕草だ。 


「え? え? どうしたの急に?」


 辺りをきょろきょろ見渡すと、脇道から懐かしい人物が姿を現した。


「え……ミゼル? え……アルゴ?」


 あの双子だ。あの双子だが、一瞬別人かと思ってしまうほどの変わりようだった。

 伸び放題の髪、げっそりとこけた頬。

 目はやたらと血走ってるし、制服もよれよれだし……え、制服? こんな夜に?

 

「え、ええとええと……お久しぶり? 最近見なかったけど、どうしてたの? 学校には来てなかったみたいだけど……」


「おまえがっ……おまえさえおらなんだらなあっ!」


「そうやおまえっ……女如きがっ!」


 双子はしかし、わたしの問いかけなど全無視で走り出した。

 目をギラギラと光らせ手を伸ばし、わたしを捕まえようとして来た。


「……ひゃっ?」


 わたしが悲鳴を上げしゃがみ込むのと、肉を打つ鈍い音がするのは同時だった。

 

下郎げろうが、お嬢様に近づくな」


 クロードは突っこんで来たミゼルを蹴り飛ばすと、アルゴの片腕をとってねじり上げた。

 そのまま地面に組み伏せつつ、油断なくミゼルを見やる。


「ぐう……なんやこいつバケモンか……?」


 腹を蹴られたミゼルは苦しげにうずくまっているが、その目はまだわたしを追っている。

 獲物を狙うハイエナの目というか、クロードに隙が出来たらすぐにでも飛びかかって来そうな感じ。

   

「なんなのよあんたたち……なんでわたしをそんなにまでして……」


 レイプ未遂の次は暴行?

 音楽決闘ベルマキアで負けて学内での地位を失った腹いせにしても、これはあまりにひどくないか?

 

 わたしが双子の底知れぬ悪意に怯えていると……。


「なんだおまえら、こんなとこにいたのかあー」


 緊迫した状況にそぐわない、明るい声がした。

 

 声の主は、身長190はあるだろう大きな男の人だった。

 歳は30半ばから40ぐらい。

 顔立ちは彫りが深く精悍で、黒髪とあごヒゲは正確の几帳面さを表すかのように綺麗に整えられている。

 服装はショートコート、ズボン、ブーツと見事なまでに黒一色。肩から下げているずだ袋は異常に大きく、大人ひとりぐらいならすっぽり入ってしまいそうなサイズだ。


「いやあー、おじさん探しちゃったよー」


 男の人はうずくまっていたミゼルをひょいと抱え上げると、後ろから首に腕を回すような体勢で拘束した。


「な……なんや離せっ、離さんかっ」


 ミゼルは足をバタバタさせて暴れるが、男の人の力は強くてビクともしない。

  

「えっと……初めまして。あなたはこのふたりの関係者で?」


 恐る恐る話しかけると、男の人は体格に似合わない子供みたいな笑顔で微笑んだ。


「うん、そうなんだぁ。俺が叔父さんで、こいつらは甥っ子。んでさ、こいつらの親がさ、息子どもが家に寄り着かずに悪い奴らとつるんでるって愚痴ってたから代わりに探してやってたんだ」


「ああ、なるほど……」


 それはありそう、すごくありそう。

 そしてこんな時間まで(夜十時ぐらいかな?)双子を探してあげてたこの人ってものすごくいい人なのでは? 実の子供ならともかく、ただの甥っ子のために。

 なんて人間が出来てる人なんだろうと、わたしは素直に好感を持った。


「君、テレーゼちゃんって言うんでしょ? こいつらから聞いてるよお。色々と因縁があるんだって?」


「え、ええまあ……」


「でも大丈夫、俺がきっちり更生させるからさ。二度と君を追っかけたりしないようにするから。な? そうだよな?」 


「誰がおまえの言うことなんぞ……っ」


 反論しかけたミゼルはしかし、男の人に顎を腕でグッと挟まれ喋れなくなった。

 プロレスラーがするヘッドロックみたいな感じ? とにかく超パワフル。


「おーい、そっちのもそれでいいよな? これからはテレーゼちゃんに迷惑をかけないようにするよな?」

 

 男の人が声をかけると、クロードに組み伏せられていたアルゴはビクッと震えた。

 よほど男の人が怖かったのだろう、「わかった、わかったから許してくれっ」と情けない声を出した。

 

「というわけで、このふたりは回収させてもらうわ。お兄ちゃんもありがとな。そいつ、もう離していいからさ」


「……わたしはお礼を言われるようなことはしておりませんが、ここは頼みます」

 

 クロードはアルゴを解放すると、慎重な足取りで後ろへ下がった。

 

「……お嬢様、決して油断なさらぬよう」


 アルゴが再び襲って来るのを警戒してだろう、わたしを後ろにかばうようにして立った。


「わかってるよクロード。ありがとう」 


 わたしはクロードにお礼を言うと、今度は男の人に向き直った。


「おじさんもありがとうございます。あの、お名前聞いてもいいですか?」


「ああ、いいよ。俺の名前はザムド」


「じゃあザムドさん。このお礼はまた改めてさせてもらいますので。今度三番街の三叉路の、『酔いどれドラゴン亭』っていう名前のバルに来てください。わたし、そこでピアノ弾きをしてるので。顔を出していただけたらお食事をご馳走させていただきます」


「ちょ、お嬢様……っ?」

 

 クロードが慌てて止めようとするが、放ってしまった言葉はもう取り戻せない。


「……へえ、そいつは嬉しいお誘いだね。じゃあ今度お邪魔させてもらうわ」


 ザムドさんは再び子供のように笑うと、双子を連れて去って行った。


 その後ろ姿を見送りながらクロードは、「過ぎてしまったことはしかたありませんが、あの男にはくれぐれもお気をつけを。どう見てもまともな手合いではありませんので」と何度も念を押して来た。


「もおー、大丈夫だってば。ザムドさんめっちゃいい人そうだったじゃない。いかにも気は優しくて力持ち、な感じでさ」


「しかしお嬢様……」


「もおー、クロードはホントに慎重さんなんだから~」


 クロードの杞憂を笑い飛ばしながら、わたしはちょっと得意になっていた。

 だってほら、最近バルで弾く機会が減ってたからさ。

 ザムドさんが常連さんになってくれたら、お店の売り上げに繋がるじゃない。

 顧客の新規開拓というか。

  

「ほら、そんなに難しい顔しないの。これもお店の宣伝活動のうちだよっ」


 ピアノ弾き兼広報宣伝担当、みたいな役職を勝手に作って、ひとり満足していた。 

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