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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第五楽章:亡き王女のためのパヴァーヌ」

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「袋男②」

 ~~~ザムド視点~~~




 テレーゼ一行が去った少し後、ドミトワーヌ夫人の屋敷。

 深夜まで残る常連組を除いた客がそれぞれの馬車に乗って家路に着く中、ザムドはひとり植込みの陰に潜んでいた。


「やあれやれ、今日のはまた往生際の悪い奴だったなあ」


 傍らには大きなずだ袋がある。

 中にはサロンに参加していた紳士がひとり。

 妻に内緒でギャンブルにハマって大量の借金を作り、家はすでに抵当に入り、あとはもうその身を代償にするしかないというところまで追い込まれたのが入っている。 


 命のぎりぎりまでしぼり取るため殺しこそしていないが、もう暴れる気力が起きないぐらいに痛めつけた上で気絶させている。 


「最後のツテを頼りに来たんだろうけど、誰ひとり貸してくれないとか。世の中無常だよねえ~。まあ、俺の商売にゃ関係ないけど……と、そろそろ頃合いかな」

 

 帰りの人ごみに紛れて屋敷を脱出しようかと腰を上げたところ、近くの植え込みから声が聞こえた。


(……ん、誰だ?)


 見ればそこには、猫背の貧相な男がひとり。

 ザムド同様に隠れていたらしいそいつは屋敷の使用人の服を着ているが、どうも様子が尋常ではない。

 髭はボウボウ、髪も整えられておらず、目を血走らせながら親指の爪を齧っている。  


「くそっ、くそっ、くそっ、なんだあのハーティアとかいう小娘っ。優秀だとかいう兄貴と束になってかかった上でテレーゼなんかに負けやがってっ。あっちはコブ付きだったってのに……っ。ちくしょう、これじゃ計画が台無しじゃねえかっ」


(……へえ、テレーゼちゃんの悪い知り合いかい)


 最近気になっている少女の名が出たことに興味を覚えたザムドは、音を立てないように気を付けつつ、再びその場にしゃがみ込んだ。


 男はザムドの存在には気づかぬまま、ぶつぶつと呪いめいた口調で自らの悪事を口にする。

 

(ふんふん、バーバラってのが黒幕で? そいつがハーティアとかってのを使ってテレーゼちゃんを倒そうして返り討ちにあって? そうするとこの男はバーバラからお駄賃が貰えないと。なるほどねえ~、どこの世界も下っ端は辛いねえ~)


 どうやら相当に腹を空かしているらしい男は、このまま厨房に忍び込んで会場から下げられた料理をたらふく食べて帰ろうと考えているらしい。

 

 よほどテレーゼに恨みがあるようなのに直接仕返しをすることはせず、他の者が失敗したら悪態をつくだけ、あげくのはてには目先の食事の方が優先と。

 あまりにも人間くさい行動に、ザムドは思わず苦笑した。


(邪魔なら始末しようかと思ったけど……まあいいか、このぐらいなら。テレーゼちゃんにはあの危なそうな執事ちゃんもついてることだしね)


 テレーゼの脇に付き従い常に油断なく目を光らせているクロードが、自分に勝るとも劣らない体術の使い手だということをザムドは見抜いていた。

 よほどのことが無い限り、この男に危害を加えられるということはあるまい。


(テレーゼちゃんに関してはまだまだ知りたいことがあるしね、死んでもらっちゃあ困るから)


 胸中で言い訳のようにつぶやくと、ザムドはその場を去った。

 大きなずだ袋を抱えたまま帰りの人波に乗って、屋敷からの脱出に成功した。


 そのまま高級住宅街を速やかに抜けると、大通りの裏路地に入った。

 コンパスの長い足で歩いて、歩いて、歩いて──ピタリと足を止めた。


 ふっと何かが頭をよぎったのだが……。


「……あれ、そっか。そういうことか。てことはあの双子も同じで……?」

 

 現在のところ、音楽院の教師べノンの子飼いの双子、ミゼルとアルゴを補足出来ずにいる組織だが……。


「もしかしたら、過去の女に恨みを持って危害を加えようとしているのかも? てことはテレーゼちゃんを張っていれば自然と出くわす? そんで臨時報酬がっぽり? いいねえ、いいじゃんそれ。いやあ、テレーゼちゃん様々だわ」


 素晴らしい閃きを得たことですっかり嬉しくなったザムドは、珍しく口笛などを吹き鳴らした。

 調子っぱずれなそのメロディーは、以前テレーゼが弾いていた曲を真似たものであった。

ひさしぶりの袋男登場、この男もけっこう重要な役割を担ってます(*´ω`*)

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