「そこそこのお給料でいいのです」
「え!? テレーゼさんうちで働いてくれるんですか!?」
わたしの言葉に食いついてきたのはテオさんではない。
店内に入るなり駆け寄ってきた、息子のウィルだ。
相変わらずふわふわ栗毛で女の子みたいに可愛くて、ライトグレーの半ズボンとブレザーという組み合わせが神がかって似合っている。
音楽院帰りなのだろう、譜面が入りそうな大きなカバンを背負っていたりして超絶可愛い(語彙)。
いったいどうしてこんなお父さん(失礼)からこんなコが産まれたのか、よっぽどお母さんの遺伝子が優秀だったのか……。
わたしが生命の神秘について思いを馳せていると、テオさんがぱちくりと目を瞬いた。
「お嬢ちゃんがうちで働く? まさか料理人やら給仕志望じゃあるまいし、てことはピアノ弾きとしてか? あれほどの腕を持ちながら、こんな店で?」
「お父さんなに言ってるの! 働いてもらおうよ! こんな機会ないよ!」
「いやだっておまえ、昨日の演奏聞いてただろ。このお嬢ちゃんは上手すぎるんだ。はっきり言ってうちの店にはもったいない」
「それはそうだけど……!」
「あの腕前に見合った給料を払うなんて、うちには出来ねえぞ?」
「そうだけど……! そうだけど……! ううううう~……っ!」
わたしをこの店で働かすのは難しいと考えているテオさんと、それを知って顔を真っ赤にして悔しがるウィル。
あー、なるほどね。
考えてみればドミニクとかいうチョビ髭のおっさんがあの腕前でプロだったわけだし、わたしぐらいの腕があればもっとお高い給料のところで使ってもらえそうってことね。
まあたしかにそれ自体は魅力的だけどなあー、でもなあー……。
ブラック派遣企業に努めていた反動というのもあって、わたしはもう頑張って働きたくはないのですよ。
始発で出勤して終電で帰宅して月の残業は200時間超。冠婚葬祭以外での有給は認められず、台風だってインフルだって気合いで出勤。そこまでして無理やり高いお給料をもらうよりは、ほどほどの職場でニコニコ働いてそこそこのお給料をもらって細々と生きていきたいのです。
「あの~……」
わたしは手を挙げ、はっきりと告げた。
「メモ通りのお給金でいいので、わたしをここで働かせてください」
自分が護った店への愛着もあるし、これは秘密だけど、天使みたいなショタっ子と合法的に戯れたいという願望もあるんだけどね。
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