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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第五楽章:亡き王女のためのパヴァーヌ」

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「もう止まらない」

 ~~~アンナ視点~~~




 家が近所の幼なじみということもあって、アンナとウィルは小さい頃から一緒だった。

 よく遊び、よくケンカをし、どこへ行くにもずっと一緒。

 それが普通で、当たり前だと思ってた。


 幼年学校に通うようになってから初めて、女の子は男の子と遊ばないものだということを知った。

 一緒にいればからかわれ、恋人だねお熱いねだのとバカにされることも。

 それが嫌で、一時期距離を置いたことがある。

  

 再び一緒にいるようになったのは、ウィルの母が死んでからだ。

 放心状態になり、幼年学校にも通わなくなったウィルが心配で、アンナは毎日バルへと通った。

 テオと共に代わる代わる、辛抱強く話しかけた。 

 しかしウィルは心を閉ざしたまま、ずっとピアノを見つめ続けた。


 半年が過ぎたある日、唐突に状況は変った。

 客席にいたはずのウィルが、その日を境にピアノの前に座るようになった。

 かつて母親が座っていた位置で、今度は自分が代わりになるのだと。

 

 何がきっかけとなったのかはわからない。

 テオの言葉が、あるいは自分のそれがウィルの中の何かを揺り動かすことができたのか。

 あるいは超自然的なものの啓示か、単に時が解決しただけなのか。

 

 ともかくアンナはウィルと一緒にいるようになった。

 また以前みたいにならないように、ウィルの心がぽっきりと折れてしまわないように。

 傍からずっと、眺めてた。


 時おりからかわれ、バカにされることはあったけど、そんなものは全部無視。

 アンナはウィルと共にいた。


 ──そうこうするうちに時は過ぎた。


 必死に努力をして音楽院に入ったウィルは、しかしそこで伸び悩んだ。


 どれだけ練習しても上手くならない。

 アンナのように正確に弾けず、ミスばかり。

 拳を握って悔しがり、唇を噛んで苦しみ、時にこっそり泣いていたことがあるのも知っている。


 だけどアンナの方から助け船を出すのはためらわれた。

 その頃にはすでに彼女は、男の子には譲れないプライドがあるのだということを知っていた。

 

 ──そうこうするうちに時は過ぎた。


 突如としてテレーゼが現れ、ウィルの悩みのすべてを解決してくれた。


 それは悔しいことではあったけれど、同時に喜ばしいことでもあった。

 ウィルが顔を輝かせて笑う姿は、アンナにとってこの世で最も心和む光景であったから。


 ──そうこうするうちに時は過ぎ、そして今。 


 ウィルはテレーゼとの四手連弾よんしゅれんだんに臨んでいる。

 己のこれまでを試される、本番を戦っている。


「がんばれ……」


 会場の端で、アンナはずっと祈っていた。

 胸の前で腕を組み、神さまに祈るように、ずっと。


「がんばれ……っ、がんばれ……っ」


 ウィルの願いを叶えてくださいと。

 ウィルの頑張りに報いてくださいと。

 

 ウィルが今までどれだけ頑張ってきたかを知っているから。

 ウィルが今までどれだけ苦しんできたかを知っているから。


 アンナは必死に祈り続けた。


「お願いっ、神さまっ、音楽の神さまっ」


 祈って、祈って──


「ウィルを勝たせてやってくださいっ。あいつはホントに頑張ったからっ、頑張ってきたんだからお願い……っ」


 祈って、祈って、祈って、そして── 


 ワアアアアッと、会場が歓声に包まれた。

 聴衆が総立ちとなって拍手した。

 口笛を吹き鳴らし、賞賛の言葉を口にした。

 

 それはジルベール・ハーティア組に倍するほどのもので──勝敗の行方は明らかだった。

 

「勝った、勝った……やったっ!」


 ハンネスが拳を握って喜び。


「やったね!」

「うんやった! やった!」


 アイシャとミントが抱き合って快哉を叫んだ。


 そんな中、アンナは──


「うう……うわああああ~……っ」


 こみ上げた感情を抑えきれずに泣き出した。

 神さまに祈る格好のままでひざまずいた。


「ああ、あああ~……っ」


 今までのウィルとの日々が、走馬灯のように脳裏をよぎった。

 辛かった日々が、苦しかった日々が、楽しかった記憶と一緒に。

 涙と共に、一気にどっと、溢れるように。


「ああああああああ~……っ」


 泣くのなんて嫌いだった。

 泣く女の子は弱いと思ってたし、泣く男の子はさらに弱いと思ってた。

 自分はそんな人たちとは違うと思ってた。

 自分は強いんだって。

 いつだって前を向いて、胸を張って誇り高く、どんなに辛いことがあっても泣かないんだって。


 でも──

 ああ、ダメだ──


 彼女の涙は、もう止まらない。

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