「眠れぬ夜」
こちらはこちらで悶々とするクロード視点のお話。
~~~クロード視点~~~
テレーゼが布団にくるまり悶々としている中、クロードも似たような状況にあった。
いや、テレーゼのような自覚がない分、より深刻な状況にあった。
どうして胸が痛むのかわからないし、どうしてテレーゼの顔が脳裏をチラつくのかわからない。
以前はこうでなかったということだけはたしかだ。
以前はもっと平常心でいられたし、そもそも胸など痛まなかった。
「なんらかの臓器の異常……あるいは心身の成長に伴う痛みか……?」
十代の少年少女たちが抱く共通の痛みとして、そういったものがあると聞く。
だが、自分は無縁だと思っていた。
体は頑健で、精神の働きにも一切のブレが無い。
そういった人間なのだと思っていた。
「やはり病院に行って診てもらったほうがいいか……しかし、どうやってこの状況を説明する?」
テレーゼがいなければ発生しない痛みなのだから、再現性を考えるなら当然本人を連れて行かなければならないだろう。
医務室に共に入り、医者に症状を説明し……。
「……バカな、出来るわけがない」
クロードはすぐに否定した。首を横に振った。
自分のために病院に同行してもらうなど、たかが執事の身としてあまりに畏れ多い。
それに、自らの存在のせいでクロードが苦しんでいるなどと知ろうものならテレーゼは……。
「きっとご自身を責めるだろう。ここを捨て、もっと部屋数の多い居宅を構えることすら提案するはずだ。いや、それ自体は問題ないのだが……」
もちろんそれがベストなのは知っている。
この痛みがテレーゼに由来するものならば、距離を離して生活するのが最もわかりやすい対策だ。
元々プライバシーの問題を抱えた長屋暮らしではあったし、これを機に大きなアパートメントに移動し、別々の部屋に住むというのは大いにあり得る話だが……。
「……なぜだ」
クロードは驚いた。
テレーゼと共にひとつ屋根の下、カーテン一枚を隔てた距離で寝起きするこの生活を続けたいと考える自分がいる。
狭い室内を苦労してすれ違い、時に体が触れ合うことすらある今の生活を失うのが寂しいと感じる自分がいる、そのことに。
「これも病気のせいか……? そうだ、きっと心因性の何かに違いない」
痛みの強まる胸を押さえると、クロードは目を閉じた。
今度、暇を見つけて病院へ行こう。
テレーゼを連れて行くことは出来ないから自分ひとりで赴こう。
そのためにはどんな症状がどんな状況で発生するかをきっちり説明する必要がある。
そうだ、始まりはたしか、デア・マルクト文化通りの交差点で……。
今日のデートを思い起こしながら、自らの心の変化を客観的に分析して心のメモに書きとめる。
ほとんど自傷に等しいその行為を、クロードは大真面目に始めた。
当然の結果として痛みはさらに強まり、悶々として眠れぬ夜は過ぎていくのだが……。
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