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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第五楽章:亡き王女のためのパヴァーヌ」

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「家に着くまでずっと」

 ~~~クロード視点~~~




「ああー面白かったっ、美味しかったっ。今日は朝から一日最高だったーっ。ね、クロードっ?」


 オペラを観劇し、眺めのいいレストランで食事をとって感想を述べ合った。

 感想の9割9分はテレーゼのものだったが、たしかに楽しかった。

 音楽にも芸術にも素養の無いクロードであったが、コロコロ変わるテレーゼの表情を眺めているだけでも十分に楽しめた。

 

「おっともうこんな時間だ、帰ろうか。明日は学校あるし、授業中に居眠りするとリリゼットにめっちゃ怒られるしね。いやあーしかし、楽しい時間は過ぎるの早いってあれホントだねっ」


 ウキウキと弾むような足取りで歩き出しかけたテレーゼが、ふとクロードの方を振り返った。

 首を傾げ、気づかわしげな表情を浮かべると……。


「……ホント、ありがとね? 今日は一日、わたしのわがままにつき合ってもらっちゃって」


「いえ、そのようなことは……」

 

「ホントは嫌だったよね? わたしなんかと腕を組んで、色々ひっついて、気持ち悪かったらごめんね? 消毒とかしとく? あはははは……」


 顔の前で両手を合わせて片目を閉じて、いかにも申し訳ないという感じだが……。


「そのようなことはございません。とても光栄でございました。貴重な社会経験を積ませていただき、人間としてひとつ大きくなれたような気がします」


 本当はもっと気の利いたことが言えればいいのだろうが、クロードにそのようなセンスはない。


「真面目かっ!」


 色気も何もない率直な返答に、テレーゼは思い切りツッコミを入れた。


「ま、そこがクロードのクロードたる所以ゆえんなんだろうけどね」


 そう言うと、薄く笑った。

 

(……まただ)


 クロードはハッとした。


(……お嬢様がまた、あの表情(・ ・ ・ ・)を浮かべている)


 いつも明るく朗らかなテレーゼだが、ふとした拍子に寂しげな表情を浮かべる時がある。

 どこか遠くの世界から来た客人まれびとのような、儚げなその笑みを見るたび、クロードはいつも胸を締め付けられるような気分になるのだ。

 

 なんとかしたいのだが、そこは朴念仁のクロード。

 そんな気持ちになったとしても、どうしたらいいのかがわからない。どう言っていいのかわからない──いつもだったら。


 今日はわかった。己のすべきことを正しく理解出来た。

 それはたぶん、先ほどから妙に軽く感じる肘のせい。


「お嬢様、失礼いたします」


 クロードはテレーゼの肘をとると、そっと組んだ。


「え、え、え……クロード……?」


 自らの腕とクロードの腕を見比べ、戸惑うテレーゼ。


「家に着くまではまだ、わたしどもは恋人同士でございますので。恋人が腕を組むのは、当然のことですので」


 口では当然と言いつつも、内心ではひどく焦っていた。


 なぜだろう、鼓動が早い。

 なぜだろう、胸がモヤモヤする。

 なぜだろう、テレーゼの顔がまともに見れない。


「う、うん。そう? そうかもね? あ、あはははは~……」


 テレーゼはテレーゼで顔を真っ赤にして狼狽うろたえている。


「う、うわ……っ。まさかそっちから来るとは思ってなかったから心の準備が……。てか心音ヤバい……っ」


 じっと足下を見つめ何事かつぶやいているところからして、クロードの動揺と表情の変化には気づいていないはず。

 それがせめてもの救いだった。

 こんな様子を見られたら、きっとからかわれ、いたずらっぽく笑われるだろう。

 それ自体は嫌ではない。嫌ではないが……。

 

(理由はわからないが、まずい。とにかくよくない。そんな気がする)


 そうこうしているうちに、突然ウィルの相談が脳裏に浮かんだ。


 ──ボクその……最近悩んでいることがあって……。

 ──成功……祝福……それってつまりは感動、みたいなことですか……?

 ──それなら納得ですね。よかった、ボクは病気じゃなかったんだ。


 幼いウィルの声が、頭の中で反響する。


(成功ではない。祝福でもない。……ならば感動? いったい何に対して……? ……ひょっとして、本当に病気なのか?)

 

 得体の知れぬ感覚に悩まされながら、病気かもしれぬと怯えながら。

 クロードはふわふわと、浮わついたような気分で歩いていた。


 テレーゼもテレーゼで緊張しているのだろうか、ひと言も言葉を交わさなかった。

 家に着くまで黙っていた。

 その間ずっと、早鐘はやがねのように胸が鳴っていた。

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