「即オチ2コマとふたりの提案」
淑女化計画などと大げさなことを言ったが、要は普段と違ってお嬢様っぽく振る舞えばいいだけの話だ。
しゃなりしゃなりとおしとやかに。ホワイトピンクのバラのように。
方向性としては、音楽院に入学する時に学んだ面接における動作から快活さを抜き、そこに女性らしさを加えたものと考えればいい。
つまりは一度歩んだ道とほぼぼぼ同じなので、二度目はそこそこスムーズにいけた。
わたしの変化に、周囲は驚いた。
中にはわあと歓声を上げてくれた人もいた。
何せ元公爵令嬢のテレーゼだ。中身はともかく元はいいのだ。
これを続けていけば、相当な数のファンを確保することが出来るのは間違いない。
バーバラと対抗することだってそう遠くないうちに出来るはず。
ただし、続けていければ……。
「あああああ上手く喋れないようううう……。緊張しすぎて呼吸することすら苦しくなるよううううう……」
お昼休み。
朝から続けていた淑女的振る舞いに疲れたわたしは、大食堂のテーブルに突っ伏していた。
「てか笑う時に手元で口を隠すとかなんなの? 楽しかったら思い切り口開けて笑えばいいじゃん。そしたら相手にもこっちが楽しいの伝わるしさ。そしたら当然嬉しくなるし。それがウィンウィンってことでしょ? 裾が乱れないようにちょこちょこ歩くのもおかしいよね? 歩幅を大きくとって歩くと、足やら股関節周りの筋肉が鍛えられていいんだからね? 足腰は健康の基本だから、女性共通の悩みであるお通じだってよくなるんだからね?」
普段しない行動ばかりとって来たものだから、ストレスのあまり食欲が爆発してしまった。
おばちゃんおススメの日替わりフライセットを大盛で喰らい、定番メニューであるプリンを喰らい、チーズケーキを喰らい、パフェを喰らい。
ガツガツと喰らい続けた結果、淑女のしゅの字も無いぐらいにお腹がパンパンになってしまった。
「……ま、こうなるような気はしてたけどね」
即オチ2コマぐらいの勢いで剥がれ落ちた淑女のメッキ。
アンナはジト目で眺めた。
「ま、まあほら。先生のいいところは何よりもその快活さですし」
「お、いいねーウィル。さすがは我が弟子。いいとこに目を付けたねーっ」
わたしに気を使ってだろう、ウィルがナイスなタイミングでフォローをしてくれる。
「僕も、テレーゼはそのままでいいと思う。大きく口を開けて笑って、勢いよく歩いて、見てる人が元気になれるのがテレーゼなんだと思う」
「お、いいねーハンネス。さすがは我が相棒。一心同体っ」
すかさずハンネスが追いフォロー。
気が合ったのだろうか、ふたりはその後もわたしのいいところを挙げてくれる。
ピアノに対する真摯な姿勢であるとか、人にものを教えるのが上手いであるとか、なんでも美味しく食べるので見ていて空腹になるとか、基本正直だけどたまにつくウソがモロバレでほっこりするとか、居眠りするとつられてこちらも眠くなるとか。
後半はなんだか微妙だが、ふたりが思うわたしのいいところは淑女のそれとは異なっているようだ。
つまりあれだ、みんな違ってみんな良い。わたしはわたしのままでいい。そんな感じのあれだ。
アンナにリリゼット、アイシャやミントの女性陣が「うわーこいつ……」みたいな目で見て来るが、わたしはもう構わなかった。
だって他人に褒めてもらうの気持ちいいんだもん。それがたとえ優しいウソでも、承認欲求は満たされるんだもん。
「いいよいいよー。ふたりとも、もっとわたしを褒めておくれ」
もはや承認欲求ジャンキーと化したわたしは、カムカムとばかりに手を動かした。
ウィルとハンネスはわたしの要求に答え、何度も何度も褒めてくれた。
語彙を駆使し、手を変え品を変えて。
顔を赤くし、拳を握りながら。
「ね、ね、クロードはどう思う?」
長年のつき合いである執事なら、さらに詳しくわたしのいいところを述べてくれるだろう。
わたしはさらなる褒めを求め、鼻息を荒くしながらクロードの方を振り返った。
「お嬢様のいいところ……ですか?」
ふむとうなずくと、クロードは目を細めた。
「少し長くなりますが……構いませんか?」
時計を眺めながらのひと言に、わたしはゴクリと唾を吞み込んだ。
昼休みは半ばが過ぎ、残りは30分ほど。
ここから教室までは走って5分ほどで……それを考慮した上でなおも気にするほどの褒めとはいったいどんなものなのか?
「か、構わないわ、始めなさい」
「ダメに決まってるでしょ」
「あ痛あーっ」
じゅるりとよだれを拭いながら言ったわたしの頭を、リリゼットが容赦なくチョップした。
「あなたね、さすにが状況を考えなさいよ。バーバラに勝つためにみんなで色々方法を模索してるのに、承認欲求に舵を切ってどうするの」
「うう……それはそうだけどぉ~……。淑女化は短時間しかもたないし、どうしたらいいのかわかんないしぃ~……」
涙目になりながら主張するわたし。
やがて、見るに見かねたのだろうか。
アイシャとミントがおずおずと手を挙げた。
「あの……わたしたち、ちょっとわかったことがあるんです」
「そうそう、いかにも完璧みたいに見えるバーバラさんが、ふとした拍子に見せる隙というか……。業というか……」
え? あのいかにもお嬢様然と振る舞って隙がないみたいに見えるバーバラに、そんな弱点が?
そう思って身を乗り出したわたしにふたりが示したのは、なんとも意外な提案だった。
「「テレーゼさん、クロードさんとデートしてみませんか?」」
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