「ゲイルの思惑」
定期的悪役回。
次から新楽章突入です。
~~~ゲイル視点~~~
「……ウソだろ、なんで合格させてんだよ」
合格者の名前が記された木製のボードの前で、ゲイルは呆然と立ち尽くしていた。
そこには紛れもないテレーゼの名があったからだ。
あれほど方々を駆け回ったのに、悪意の限りを尽くしたのに。
「音楽院一の堅物で偏執狂って聞いてたから情報を流してやったのに……なにやってんだよあのメガネっ」
歯ぎしりし、ボードの足を蹴飛ばしてみるが、それで何かが解決するわけではない。
足が痛み、音楽院の衛兵にジロリと怪しまれただけだ。
「……あ、すんませんすんません。ちょっと足が滑りまして……へ、へへへへへ……」
女子供ならともかく、ちょっと強そうな男相手には何も出来ないゲイルだ。
腰にサーベルを佩いた衛兵がふたりこちらにやって来るのに気づくと、真っ青になった。
これはたまらんと、せかせか慌てて退散した。
音楽院の敷地を出て、ひとまずどこかに身を潜めようかときょろきょろ周囲を確認して……。
パチリ目が合ったのが、ひとりの女だ。
「あら、あなたは……?」
女の名はバーバラ。
つい先だってまで情報交換をしていた間柄だ。
今日も今日とて執事3人後ろに連れ、うちひとりに日傘を差させている。
「こ、これはバーバラ様。ご機嫌麗しゅう」
慌てて平伏するゲイルを、バーバラは汚物でも見るような目で見た。
直接喋りたくないのだろう、ぼそぼそと執事に何事かを言っているが……。
「お嬢様は、貴様のような汚物の顔を見たくないとおっしゃっておられる。早くどこかへ立ち去れ」
カントルとかいう名前の背の高い執事が、ゲイルを見下ろしながら言った。
獅子のたてがみのような黒髪、びっしりと顎に生えた髭。
鍛え抜かれた肉体はまるで彫刻のよう。
腰に佩いたサーベルを使うまでもなく、ゲイルぐらいなら拳のひと振りで殺せるだろう。
「ひっ……?」
ゲイルは思わず悲鳴を上げた。
直接話すことすら不快だというバーバラの態度には腹が立ったが、なんといっても命あっての物種だ。
慌てて逃げようとして──ふと、足を止めた。
そうだ、やられっぱなしではいられない。
あのテレーゼに思い知らせてやるために、この女を利用するのだ。
「そ、そのですね。もしよろしければ、バーバラ様のお耳に入れておきたいことがあるのですが……」
揉み手をしながら振り返ると、ゲイルはテレーゼのことを教えた。
音楽院に入学したこと、コネを作り、バーバラに対抗しようとしていることまでも。
バーバラの反応は劇的だった。
拳を握り目を吊り上げると、必ずテレーゼの学生生活を滅茶苦茶にしてやると誓いを立てたのだった。
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