「明日から本気出す」
さて、当面の問題が解決した今、次にすべきは情報収集だ。
何せこれは没落悪役令嬢のエクストラシナリオ。いったいどんな破滅フラグが待ち受けているかわかったものじゃない。
ことにテレーゼはゲーム制作陣に蛇蝎の如く嫌われているみたいだし、悪意マシマシのイベントに圧し潰されないよう、一刻も早く状況を把握する必要がある。
てことで、クロードに色々聞いてみた。
テレーゼの今の暮らしぶりとか、家計含めた財政事情とか(社会人としてね、気になるからね)。
結果的にわかったのは、次のようなことだった。
ひとーつ。食事や掃除、買い物や洗濯はすべてクロードが行っていたこと。
ふたーつ。ここまでの旅費や食費、部屋代などはすべてクロードが自費で賄っていること。貯金はすでに底を突き、今は建築のアルバイトで生計を立てていること。
みーっつ。テレーゼはお屋敷から高価な衣服や宝石類を持ち出していたが、どれだけ困窮しても売り払ってお金にしようとはしなかったこと。そういやこの期に及んでもお高そうなネグリジェとか着てるもんなあーって……。
「ホン…………っとうにすいませんっしたああああー!」
事情を聞いたわたしは、たまらずその場に土下座した。
「そんな状況なのにも拘わらずううううっ、生活に文句を言ったりしてすいませんっしたああああー!」
「ちょ、ちょっとお嬢様……っ? 顔をお上げくださいっ」
突然主人が土下座したことに、慌てるクロード。
「お嬢様は何も悪くありませんっ。悪いのはすべてこのわたしですっ。このような事もあると予測してもっと入念な準備をしておくべきでしたっ」
「そんなん出来るわけないじゃんかあ~! あんたはよくやってくれてるよおぉ~!」
この期に及んでなおも自責の念にかられているクロード。
そのあまりにもな忠実ぶりに感極まったわたしは、ガシッとその手を掴むと胸元へ引き寄せた。
「ホントにありがとね~っ、ホントに感謝してるからあ~っ」
号泣、大号泣である。
中身は36歳女であるにも拘わらず、いやむしろ、36歳女であるからこそ世間の厳しさを知ってるというか、人の優しさが身に染みるというか目に染みるというか。
「だけどもういいからねっ? 明日からわたしも働くからああ~っ」
「えっ……お嬢様が働く……っ?」
涙ながらのわたしの言葉に、クロードは顔を強張らせた。
「そんな恐ろしい……ではなくっ」
ぶんぶんと首を横に振ると、クロードは言い直した。
「お嬢様にそのような真似はさせられません。このクロード・ハルムホルト。先祖代々バルテル家に仕えてきた執事の家系の末としてそれだけは、誇りにかけてもさせられません」
たしかにクロードの家は代々続く執事の家だし、なにがしかのプライドがあるんだろう。
でも無理だ、絶対無理、これだけは譲れない。
だって、考えてもみてよ。
外見がテレーゼとはいえ、中身は36歳の女が倍近く歳の離れているクロードに養われている光景を。
炊事に洗濯に掃除はもちろん、肉体労働やご近所つき合いまで任せっ切りで惰眠を貪るその姿を。
ああ^~いいっすね^~……ってそうじゃなくっ!
「だ、だだだダメよそんなの! たしかに心は癒されるし全人類カッコ女の夢だけど! ずっと続けてたら本気で人間として劣化する! ニート街道まっしぐらで、どこにも出せない人の形をしたクズになる! ねえクロード! あなたはわたしをそんな風な女にしたいの!?」
「え、ええー……と?」
怒涛の勢いでまくし立てるわたしにどう反応していいかわからず戸惑うクロード。
ここぞとばかりにわたしは押した。
「とにかくわたしは働きたいの! 明日からハロワに通うから!」
ふんすと鼻息荒く、お仕事探しを宣言した。
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