「面接開始!」
実技試験の当日は、空に雲ひとつない大快晴だった。
気温も湿気もほどほどで、まさにピアノ日和というべきだろう。
生徒数2000人を誇るクラウンベルガー音楽院の敷地内は、1000人はいるだろう子供たちとその親御さんであふれ返っている。
みんなかしこまった格好をして、面接のエア練習や実技のエア練習に余念がない。
親御さんたちがそんな子供たちを見守る光景があちこちで見られ、緊張感がヒシヒシと伝わって来る。
「あれだけ練習したんだから、自信を持っていきなさい。あなたの場合、実技自体は完璧なんだから、問題は態度と受け答えだけなんだから」
試験会場である赤レンガ造りの演習棟(演奏室がたくさん入っている)の入り口で、リリゼットは少年みたいにニカッと笑って送り出してくれた。
「あ、ここ後ろちょっとハネてる。ほら、ちょっとしゃがんでっ」
わたしの後ろ髪の乱れを目ざとく見つけたアンナが、マイブラシでスッスッと梳いてくれた。
「うん、これで大丈夫。普段のあなたからは想像つかないぐらい整ってるわ」
「言い方っ。でもありがとねアンナ、リリゼットも」
ふたりに礼を言うと、わたしは壁にかけられている鏡を覗き込んだ。
そこに映るのはいつものテレーゼ……ではない。
襟もとに白い小花柄の刺繍がある以外はさしたる装飾も無いライトグレーのシュミーズドレス。
足元はこれまた飾り気の無いパンプス。
ウエーブがかっていた金髪はストレートパーマをかけている。
普段と違うこの格好は、いままでの受験合格者の傾向からふたりが割り出した面接用びしっとスタイルなのだ。
「んー、いいわねいいわね。落ち着いてて素敵だわ」
その出来栄えに、わたしは思わずうなずいた。
テレーゼのそもそもの顔立ちの良さや金髪の華やかさが損なわれているわけではまったくないのだが、地味に装おうという努力が感じられる。
イコールあなたの組織に所属しても悪目立ちはしませんよ問題は起こしませんよという意思表明でもあるというわけで、その辺の事情は日本でも異世界でも変わらないのだろう。
長いものに巻かれろ、ひっそり目立たず会社の歯車になりなさいと。
もちろん今日受けるのは会社じゃなく学校なんだけど。
「じゃあ行って来るねっ。ふたりとも、応援しててねっ」
手をひらひら振ると、わたしは面接及び実技試験に臨んだ。
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