「バーバラは諦めない」
~~~バーバラ視点~~~
「なんなのよなんなのよなんなのよもう! あいつらは!」
グラーツの大通りを、バーバラは叫びながら歩いていた。
「わたくしが親切心から言ってあげてるのに無視して! テレーゼなんかの肩を持って! それどころかこのわたくしに……か、か、帰れだなんて!」
さきほどの光景が脳裏に浮かぶ。
安っぽいバルに出来た凄まじい人だかり。
その全員がバーバラをにらみつけて来た。
罵声を浴びせ、石を投げつけて来た。
満場の帰れコールと、そして──
「クロード……クロードまでもがわたくしを……!」
クロードはテレーゼを抱きしめると、鋭い眼光でバーバラをにらみつけて来た。
まるでバーバラを敵と認識しているようなあの目──
「あれはわたくしのものなのに! わたくしのものになるはずだったのに!」
怒りのあまり、目の前がチカチカする。
腹の底から衝動がこみ上げて、止まらない。
「お嬢様、お怪我は……っ?」
「一度止まってお見せくださいっ! 玉の肌に傷がついては……!」
「ああ、もうしそうなったら公爵殿下になんとお詫びしていいのか……」
執事たちが口々に心配してくる。
公爵にねだって揃えてもらった十代後半から二十代中盤までの、長身でそこそこに見栄えのする男たち。
だが、クロードとは比べ物にならない。
見た目、強さに気の利き方。
どれひとつ何ひとつ、勝っているところがない。
むしろ数が多ければ多いほどにむなしくなる。
「ああもう! このままで終わらせてなんてやるもんですか!」
バーバラが声を張り上げると、執事たちが驚き背筋を伸ばした。
通行人がぎょっとして足を止め、道端でタバコを吸っていた男が吸いかけをポトリと取り落とした。
アパートの窓からは赤ん坊の泣き声と、猫の悲鳴。
奇異の目で見られながらも、バーバラは叫ぶのをやめない。
こんな辺境の住民にどう思われるかなど、知ったことじゃない。
とにかく許せないのはテレーゼだ。
クロードに抱きしめられた時に浮かべた安堵の表情。
クロードがバーバラに反抗した時の驚きの表情。
クロードが決意を表明した時の陶然たる表情。
全部、すべて、許せない。
ぐちゃぐちゃに叩きのめして、ひざまずかせてやる。
「カントル! 宿に連泊の届けを出しなさい! あの女を叩きのめして! 庶民と貴族の格の違いを見せつけて! クロードをものにするまで! 絶対家へは戻らないから! ほら、ぐずぐずしてないで動きなさい!」
バーバラがパンパンと手を打ち鳴らすと、執事たちは慌てたように駆け散った。
「……ふん!」
ひとりになってから、バーバラは腕を組んだ。
大通りの真ん中で脚を広げて立ち、強く強く決意した。
「絶対絶対、負けてなんてやらないんだから!」
第二楽章終わり、第三楽章に突入です!
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