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「決闘開始!!」

 東地区最強の『鍵盤の魔女』ことわたしVS西地区最強の『舞姫』リリゼット。

 東西恥ずかしいふたつ名対決(違う)は、当然ながら注目を集めた。


 出会ったその日の夜の決闘だというのに、噂を聞きつけた人でバルは満員御礼となった。

 店内に入りきらない人たちが路上に溢れ、都の兵隊さんたちが交通整理をしなければならない状況に陥った。


 バル側は当然、嬉しい悲鳴。

 テオさん始め料理人さんたちがフル稼働して、店内店外含めた見物客に酒食を提供している。

 酒場の息子であるウィルはもちろんその場に居合わせたアンナまでも、忙しく給仕に走り回っている。


「お嬢様、大丈夫ですか? いつもとピアノの種類が違うようですが……」


 ステージ脇で出番を待つわたしの傍らに控えるクロードが、心配そうに眉間に皺を寄せる。


 クロードの言う通り、今日のピアノはいつものアップライトではない。

 リリゼットの意向により、お屋敷からグランドピアノを運び入れている。


 アップライトとグランド。

 バネの有無とかペダルの違いとか響板の狭さとか、両者の違いについて細かく説明するとキリがないが、要約するならよりダイナミックに、かつ繊細に曲のニュアンスを表現できるのがグランドピアノだ。


「大丈夫よ、むしろわたしはこっちの方が慣れて……ええと、好きだから」


 通常、コンクールなどで用意されるのはほぼ100%グランドピアノだ。

 普段の練習から本番環境に近づけるためという理由で、わたしの家には最初からグランドピアノがあった。

 転生してからはアップライトばかり弾いてきたが、実際にはこっちの方がホームグラウンドに近い。


「そうですか、よかった。では指の調子は? 食事は十分に摂られましたか?」


 一番最初の決闘のことを思い出してだろう、クロードはひたすら気を揉んでいる。

 たしかにあの時は左手が全然動かなかったし、右手もだんだんもつれるようになった。最後なんかは青息吐息の有り様だった 

 あの時に比べれば、今はずいぶんマシだ。

 全盛期の半分ちょっとといったところだけれど、体力がつき、左手も使えるようになっている。


「もう、クロードったら。心配症ね」


 クロードを安心させるべく、わたしはパタパタ手を振りケラケラと気楽に笑った。


「ありがとう、でも大丈夫よ。わたし、強いから」


 そんな風に過ごしていると、ウィルとアンナが走り寄って来た。 


「あら、お手伝いのほうはもういいの?」


「はい、おとーさんがいいって。おまえらの将来のためになりそうな決闘だから、傍で聴いて来いって」


「そもそもわたしは酒場の娘じゃないし……」


 給仕に慣れてるウィルはキラキラと目を輝かせ。

 慣れていないアンナはズタボロになっている。


 見れば、厨房の方からテオさんが顔を覗かせ、こちらにぱちりとウインクして見せた。

 息子の将来を思いつつも無理をさせない父親と、父親と共に店を盛り立てることを夢見る少年。

 うーん、理想的な親子関係だなあ。


「ホント、うちとは大違い……」


 どこまでも一方通行だった自らの母子関係を思い出し、肩を竦めていると……。


 ──さあ、旦那がた! 『音楽決闘ベルマキア』の始まりだ! 賭けかたどっちだ!? 東か西か! 『鍵盤の魔女』ことテレーゼ嬢か、それとも『舞姫』リリゼット嬢か! 空前絶後の決闘に乗らなきゃ男がすたるぜ!? さあ張った張った!


 賭けを取り仕切っている胴元が、通りに設置された木のボードの前で声を張り上げ、掛け金を回収する役割の子供たちが大きなバケツを持って観客の間を走り回っている。

 賭けをする人は自分の名前と賭ける対象の名前を書いた紙にお金を包んでその中に入れるという仕組みだそうだ。


 バケツは瞬く間にいっぱいになり、子供たちは本部と観客の間を何度も往復し、そのつど大量の賭け金を回収していく。


「あ~あ、わたしも自分に賭けたいなあ~……」


「ダメですよお嬢様、賭けごとは許されません。例え籍から取り除かれているとはいえ、あなたは誇り高きバルテル家のご令嬢で……」


「へいへい、わかってますよ~だ。まったくクロードはお堅いんだから」


 勝てるギャンブルに乗らないのは損だと思うのだが、クロードが許してくれない。

 このコはまだ、わたしがバルテル家の戸籍に復活出来ると信じて疑わないのだ。


「ふん、くだらない」


 こちらも賭けには興味がないのだろう、リリゼットがツインテールを揺らすようにしてこちらを振り返った。

 

「それじゃあ、約束通り先に弾くわよ? 覚悟はいい?」


 両腕を腰に当て、自信満々といった様子だが。


「へいへい、いいですよ~。ご自慢の演奏をどうぞお聴かせくださいな」


 わたしはひらひら手を振ると、気楽に答えた。

 余裕な態度が気にくわなかったのだろ、リリゼットはむっと唇を尖らせた。


「ふん、見てなさい。すぐにほえ面かかせてあげるから」


 そう言うと、リリゼットはピアノの前に座った。

 椅子の高さを調整し、背筋をピンと伸ばすと、しなやかな両手を鍵盤に伸ばした──

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