「テレーゼの策」
イリスちゃんを加えて7名という大所帯になったわたしたち一行は、ぞろぞろと『ジョシュの店』の裏口から中に入った。
バックヤードで食材の仕入れを確認している店主のジョシュさん(銀髪お髭のイケオジだ!)に挨拶しつつ、ずんずん奥へ入って行く。
事前にシャイアさんに伝えて集めてもらったおかげで、フロアにはすでに20人ほどのホステスさんたちが集まっていた。
営業まではまだまだ時間があるので例の華美な衣装は身につけていないが、注文通りの動きやすい格好をして来てくれている。
「はーい、あんたたち。注目ちゅうもーく。本日の主役が来たよー」
わたしたちの姿を認めたシャイアさんが、パチパチと手を叩いて注目を集めた。
「もう知ってると思うけど、こちらリリゼットの友達のテレーゼちゃん。東部のピアノ弾きで、音楽決闘の東西部チャンピオンよ。わずか16歳にしてなんと50連勝中の、伝説的なピアノ弾きなんだから」
「いやいやいやまさかまさかまさかっ、それほどの者では……っ?」
紹介のハードルが高すぎて、逆に恐縮するわたし。
連勝記録はホントだけど、その半分近くがエメリッヒ先生とのものだし。
「わたしはただのピアノ弾きなんでっ、それ以外の何者でもないんでっ」
そんなにたいしたもんじゃありませんよと否定するが、一度上がったハードルはなかなか下がってくれない。
むしろ謙遜することこそが本物の実力者の証だなどと感心されてしまう始末。
追放系の主人公もかくやと言わんばかりの持ち上げられぶり。
ええい、こうなったらしかたない。
この期待感と熱気に、このまま乗っかってやれ。
そんな風に腹を括ると、わたしはゴホンと咳ばらいをした。
「ええと、ただいまご紹介に預かりましたテレーゼです。リリゼットとは友達です。とっくにご存知だと思いますが、このコけっこう難しい性格してるもんで、みなさんにも多大なご迷惑をおかけしていると思います。大変申し訳ございません」
「ちょっと、何を勝手に謝ってるのよ……」
自分をネタにされたのが心外なのだろう、鼻白むリリゼット。
「はあー? そりゃああんた、お客さんと罵り合ったり殴り合ったりみたいなことしたら謝るでしょ。母親として」
「誰が母親よ誰がっ」
「いいからいいから、あんたは黙って聞いてなさい。ここはわたしに任せておきなさい」
オカンと娘みたいなわたしたちのやり取りがウケたのか、小さな笑いがホステスさんたちの間から起こる。
よしよし、雰囲気は最高。このまま一気にいってやれ。
「ゴホンゴホン。ええーしかし、このままというわけにもまいりません。来たお客さんたちをもてなし気持ちよく帰っていただき、ついでにがっぽり稼ぐのがみなさんのお仕事。ならばここは、ひとつ策を講じましょう」
人差し指を一本立てると、わたしは一気にまくし立てた。
「ただしそれには、みなさんのご協力が必要不可欠です。ただお客さんをもてなすだけでなく、もう一段階上の接客をしてみませんか? といって、それほど難しいことじゃありません。ただちょっと、お姉さんたちの綺麗な顔と体を駆使していただければいいのです。というとピンときた人もいるんじゃないでしょうか? リリゼットのピアノとお姉さんたちの顔と体を駆使したその策とは、そう──ショーダンスです」
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