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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第八楽章:ラプソディー・イン・ブルー/アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
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「男子会③」

 ~~~クロード視点~~~




「わが家は、ハルムホルト家はバルテル公爵家に仕える執事の家系で……」


 クロードがテレーゼ付きの執事になったのは彼が7つ、テレーゼが5つの時だ。

 初めて会った日の事を、彼は未だに覚えている──




 □ ■ □ ■ □ □ ■ □ ■ □ ■ □ 




 とある春の昼下がり。

 お屋敷の一角の、陽光差し込むサロンに彼女はいた。

 背の高い椅子にちょこんと座っているところへクロードが挨拶すると、本を読む手を止め振り返った。

 胸に片手を当てひざまずくクロードを値踏みするように見つめると、歳に似合わぬ傲岸ごうがんな調子で言った。


 ──おまえがわたくしの執事ですって? ふん、子供には子供をつけておけばいいだろうということ? バカにされたものね。


 ──申し訳ございません。


 ──謝ってどうするの。そこは無言で受け止めるところでしょう。執事は主人に求められるまで言葉を発してはならない。そんなこともわからないの? 


 ──……。


 ──今度は謝るべきところでしょう。 わたくしが訊いているのよ? その違いすらわからない? まったく、ハインツはどんな教育をしているのかしら。


 ──……申し訳ございません。


 幼き主人との会話は、万事がこんな調子だった。

 傲岸な彼女がクロードを気遣うことはなく、どんな無茶な命令をこなした後もねぎらいの言葉をかけられたことはなかった。


 だが、それでもいいとクロードは思っていた。

 家柄、滅私奉公めっしぼうこうの精神が根付いている彼にとって、主人とはただただ崇めるべきものだった。

 言うならば神のような存在であり、逆らうことも不満を持つことなども許されない。


 懸念けねんがあるとすれば、それこそクビをげ替えられることだ。

 他の年上の執事をと望まれれば、自分には行き場がなくなってしまう。


 仕えるべき主人が見つかるまで、来る日も来る日も過酷な訓練を受け続ける。

 そんな無機質な日々がまた訪れることになる。

 それはさすがに嫌だった。


 しかしある日、彼女はこう言ったのだ。


 ──おまえの代わりに誰か他の執事をという話を以前したでしょう? あれはナシにします。考えてみれば、小さな子供が大人を連れて偉そうにしているのは印象が悪いでしょうし。逆に子供が子供を連れている光景を大人は愉快に思うものらしいし。だったらわたくしにとってはおまえのほうが都合がいいというわけ。


 子供ながらに頭が良く打算的だったテレーゼは、改めてクロードを自らの執事として認めた上で、こう告げた。


 ──いい? わたくしはただの貴族令嬢で終わる器ではないの。狙うは王族、この国の頂点に立つの。愚鈍ぐどんなおまえにもわかるように言うと、王様のきさきになるの。これは本気よ。そのためだったらなんでもするわ。クロード、おまえはわたくしに全力で尽くしなさい。それが出来るなら、いずれおまえをこの国でも最も貴き女のお付きにしてあげる。誇りに思いなさい。


 わずか5歳の少女が語るにしては壮大な夢。

 だがクロードは、それを笑いはしなかった。

 それほどにテレーゼの瞳には力があったし、確信に満ちた口調には人を従わせる何かがあったから。

 

 実際、彼女は上手くやった。

 園遊会に社交界、幼年学校など多くの場で第三王子アベルの目に留まり、親しく過ごし、とうとう婚約者の座を射止めることに成功した。

 そこまでは良かったのだが……。

  

 テレーゼは突如として現れたレティシアという少女にアベルの寵愛を奪われた。

 王位継承権第三位のアベルを王位につけるべく様々な策を練っていた彼女は、まさかの伏兵の登場に大いに焦った。

 そのせいだろう。

 それまでの冷静さがウソのような、数々の愚かしい行為に走った。


 そしてそれを、クロードは止めることが出来なかった。

 そのうち妹であるバーバラから密告され、とうとう──




 □ ■ □ ■ □ □ ■ □ ■ □ ■ □ 




「……すべてわたしの力不足です。わたしがもっと上手くやれていれば……」


 クロードはギリと奥歯を噛みしめた。


 あの時テレーゼに適切な助言が出来ていれば──

 バーバラの悪意に気づき、しかるべき忠告が出来ていれば──


「そうすればきっと………………うん?」


 クロードは不思議な感覚を覚えた。


 もしそうすれば、テレーゼはアベル王子の妻となっていただろう。

 今頃王都で花嫁修業のまっただ中のはずで、ドレスや結婚式の準備でてんやわんやの毎日だったはずで……。


(……なんだ、この感覚は?)


 アベル王子の隣に立つテレーゼの姿を想像したら、なんだか気持ちが悪くなった。

 花嫁衣裳を着た彼女が幸せそうに笑う姿を想像したら、どうしようもなく胸がムカついた。


「なんだ、どうしたクロード?」


「気分でも悪いのか? 呑みすぎたか?」


 心配そうに訊ねるふたりに、今自らの体に起こった現象を説明すると……。


「……おまえそれ、本気で言ってんのか?」


「冗談だろ? え? 本気?」 


 ふたりは顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。


「わかってないようだから教えてやるよ。おまえのそれはね、嫉妬だよ」 


「そうそう、ご主人様を盗られたくなくてムカついてんのさ」


「というか、もっとハッキリ言うとだな」


「これもたぶん、わかってないんだろうけどな」


 クロードの顔を覗き込むようにしながら、ふたりは異口同音で──


「「おまえ、テレーゼ嬢に恋してんだよ」」 

決定的な事実を指摘されたクロードは?


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