「男子会①」
~~~クロード視点~~~
リリゼットがテレーゼに大胆な告白(?)をした、そのちょっと前のことだった。
クロードはツキカゲとコウゲツの部屋に招かれていた。
間取りはリリゼットのそれとまったく同じ。
凝った装飾の暖炉があり、ソファがあり。
絨毯は毛が深く、横になったらそのまま眠れそうで。
その他にも広い書斎やキッチンがあり、浴室があり、ベッドルームも複数ある。
リリゼットのそれとの違いは生活感が強いところだろうか。
キッチンには調理器具があり、食材があり、酒類なども豊富に並んでいる。
ローテーブルにはチェスボードがあり、互いにナイトを飛ばし合った局面で止まっていた。
「驚いたか? 向こうより生活感があって」
「というか、向こうが無さすぎるんだよ。お嬢は本気で音楽にしか興味ねえからな。それ以外のものは服ぐらいしか置いてねえの」
クロードを部屋に招き入れると、ツキカゲとコウゲツは上着を脱いで寛いだ格好になった。
リリゼットを護衛してる時とは打って変わった気のいい兄ちゃんといった風情で、盛んに話しかけてくる。
「なんだクロード、そんな固い顔すんな。もっと寛げ、寛げ」
「そうそう、せっかくの機会だ。執事同士、主人には絶対わからねえ苦労を語り合おうぜ」
「あ、はいっ。日々の苦労を語り合って後の仕事の糧とするっ。それは誠にいい試みですねっ」
クロードは声を弾ませた。
王都を出て以来、こういった執事同士の交流はひさしぶりだった。
しかもハルムホルト家の鉄の規律と比べて、ふたりはいかにも緩い。
年下の自分を弟のように扱ってくれるのが心地よく、クロードはリラックスした気持ちになっていた。
「おふたりは、料理もされるのですね」
L字フックに掛けられた調理器具類は、年月を経ることによってのみ生み出される光沢を放っている。
自身も料理が趣味なクロードにとって、それはいかにも親近感の湧く光景だった。
「そりゃそうよ。向こうでも俺らは自炊だったし。なあ、知ってるか? ペルノー家の従業員宿舎ってのはさ、アパートメント三棟ぐらいあるんだ」
「そうそう、そんでもって屋敷の料理担当以外は食事は自分で用意しなきゃいけなくてな。そりゃあ自然と作れるようになるってわけよ。つってもお菓子作りはさすがに最近だがな。これが意外と酒に合うんだ」
たしかにさきほど食べたお菓子は美味しかった。
普段から料理をしているからだろう、習い立てでは出せない味わいがあった。
しかし、だとすると疑問が残る。
「ならば、おふたりがリリゼット様の食事を作ればいいのでは?」
自分がテレーゼに対してしているのと同じことをすればいいのではないかと思ったのだが……。
「こっちはそれでもいいんだがな、あまり生活スペースを共有するなとの旦那の仰せでよ」
「主従関係であっても男女には違いないってわけだ」
ふたりは共に三十代。
リリゼットの16歳と比べると離れてはいるが、たしかに恋愛対象にはなり得る。
なり得るのだが……。
「おい、変な顔するなよ。俺らからすればおまえらのほうがおかしいんだぜ?」
「そうだよ。18の男と16の女がひとつ屋根の下で暮らして、しかも聞いた話じゃカーテン一枚隔てた向こうで寝てるんだろ? よくおかしなことにならねえなと思ってるぐらいだ」
おかしなこと、というのはつまりは男女関係のことだろう。
自分とテレーゼの距離が近すぎるがゆえに、そんな疑いを持つのだろうが……。
「執事は主人を守る盾。それ以外の何ものでもありません。ましてや懸想するなどもっての他です」
教科書通りの返事を返すクロードだが……。
「おうおうおう、思った通り固えなあー、おい。まさに執事の鑑ってとこだが、ホントにそれでいいのかい?」
「へっへっへ、まあすぐには本音は言わんだろ。だがいい機会だ。今夜はとことん問い詰めてやろうじゃねえか」
口元を歪めたツキカゲが酒のボトルを持ち出し。
コウゲツがキッチンに向かうと、酒のつまみを作り出した。
女子会の向こうでは、男子会が開かれていたのでした。
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