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「ベートーヴェンは異世界だって最強です? ~"元"悪役令嬢は名曲チートで人生やり直す~」  作者: 呑竜
「第八楽章:ラプソディー・イン・ブルー/アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
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「楽屋にて」

 さて演奏終了後。

 わたしは単身、女性陣の楽屋に怒鳴り込んだ。


「もう! なにやってんのよリリゼットー!」


 楽屋はピアノ弾きもホステスさんも共用で、狭いスペースでみんなが押し合いへし合いしながら着替えをしていた。 

 鏡台に向かって化粧を落としていたリリゼットはわたしに気づくと……。

 

「あら、いらっしゃい。っていうかあなた、来るの早すぎない? まだ二週間しか経ってないんだけど……」


「そんなのリリゼットが心配だからに決まってるでしょ! ああもう! ほら、ここ腫れてるじゃない! ここも血が出てる!」


 いくら強いと言ったって、リリゼットは女の子だ。

 ガテン系の男性たちとケンカして、無傷で済むわけが無い。


 現に頬が腫れ、眉毛の下には切り傷がある。

 しかしリリゼットは、まったく動じていない。


「ふん、こんなのツバ付けとけば治るわよ」


 あまりに平然としたその態度に、わたしはふと疑問を覚えた。


「……ねえリリゼット。その慣れっぷり……あなたまさか、こうゆーのこれが初めてじゃないんじゃ……?」 


「ああ、ケンカ? それなら今週に入ってもう3回目かしらね」


「ちょっとおおおーっ!?」


 恐ろしい事実に、わたしは頭を抱えた。


「え、じゃあそのつどツキカゲさんとコウゲツさんが仲裁に入って!? そのつど演奏が中止になって!?」


「まあそうね。放っておいたらどっちかが壊れちゃうし。わたしはその辺、加減ができないから」


「ちょっとおおおおおーっ!?」


 とてもじゃないが、ピアノ弾きの発言ではない。

 リングに上がる格闘家か何かのセリフだ。


「ホント、そのコは見た目によらずケンカっ早いんだから」

「でもいいじゃない。わたしは好きよ? 何せスカッとするもの」

「そうそう。あいつら金払い悪いくせに態度デカいし、あたいらの扱いも雑だしさ。たまには喰らわしてやればいいのよ。こうガツーンってさ」


 一緒に控え室を使っていたホステスさんたちには意外と好評だ。

 あの蹴りは良かったとか、もっと拳を胃にねじり込むように打つべしとか。

 格闘技の試合でも観戦したみたいな感想を、楽しげに話している。


 いやまあ、この世界って男尊女卑が当たり前みたいだから、そうゆー意見の人もいるんだろうけどさ……。


「でもダメだよ、リリゼット。なんたってあなたは女の子なんだから」


「わかってるわよ」


「しかもピアノ弾きが素手でケンカとか、絶対あり得ないからね? 商売道具が傷ついたらどうするつもりよ」


「はいはい悪かった、悪かったってば。もう、あなたって、こーゆー時はお母様みたいになるんだから。ホントにわたしと同い年?」


 微妙に痛いところをつきながらも、口をすぼめて謝るリリゼット。


「でもさ、しかたないじゃない、あそこまで真っ向から演奏を否定されたらさ。しかも別に、わたしは下手じゃないのに……」


「うーん……」


 わたしは唸った。


 実際、先ほどのリリゼットの演奏は見事だった。

 コンクールに出れば間違いなく賞が取れるレベルの、水際だったものだった。


「まあたしかにね、あそこまで言われる筋合いはないというか……」


 リリゼットの言い分にも一理ある。

 お客さんたちの評価は明らかに不当だった。

   

 しかもその理由がわからないのだ。

 演奏は見事で、選曲にもミスがないのなら、あとはどうすればいい?

 どうすればちゃんと聴いてもらえて、認めてもらえる?


「きっとあいつら、わたしのことを妬んでるのよ。西地区で活躍してた女がお高くとまりやがってとか、そんな感じでさ」


「ああー……そういうの(・ ・ ・ ・ ・)あるの?」


 聞けば、南部の人は貧しい肉体労働者が多いらしい。

 働き口を探して遠くからやって来たせいで言葉も人種も宗教もバラバラ。おまけに南部在住というだけで差別され、迫害されるということすらあるらしい。

 そのおかげである種の村社会感というか、よそ者をつま弾きにしたがる傾向にあるらしいのだ。


 西部出身のリリゼットが、しかも血統書付きのお嬢様が我が物顔でピアノを弾いていたりしたらムカつくということはあるのかもしれない。

 しれないんだけど……。


「そう考えると説明がつくでしょ?」


「うん、たしかに」


「そしてムカつくでしょ?」


「うん、まさしく」


「だからわたしは、絶対に逃げないの。あいつらが折れてわたしのことを認めるまで、戦い続けるの。ピアノでも、殴り合いでもね」


 そう言うと、リリゼットはニカッと男の子みたいな笑みを浮かべた。

 

「ううむ、リリゼットってば相変わらず覚悟完了してるわねえ……」


 感心しちゃいけないんだろうけど、感心してしまった。

 このコ絶対、性別間違って生まれてきたわ。もしくは前世が女騎士とかそうゆー感じのやつだわ。

   

「ねえ、それよりさ。今日は泊まっていけるんでしょ? わたしの新居へ案内するわ……と、その前にご飯にしましょうか。ひとしきり暴れたらお腹減っちゃった」


 ぐうと盛大にお腹を鳴らせたリリゼットに連れられて、わたしたちは夜の繁華街へと繰り出した。

150話到達!


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