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「嵐は突然に」

 その日は朝からおかしかった。

 空気が重く、学校全体がピリピリと不穏な気配を漂わせてた。


 廊下のそこかしこで、教室の片隅で、みんながひそひそと噂話をしていた。

 何かを恐れるような視線が、教室へ向かうわたしへと向けられていた。


「……いったいみんな、どうしたんだろうね?」


 隣を歩くハンネスが、不安を漏らす。


「うん、ホントになんだろ……やだなあ……。わたし、また何かやっちゃったのかなあ……」


 やだなあ、怖いなあとびくびくしながらクラスに入ると、みんなのひそひそ話がぴたりと止まった。

 紛れもない好奇の視線が、一斉にわたしに突き刺さった。

 

「うううう……っ? みんないったいどうしちゃったのよお~……?」


 教室の入口で立ち尽くしているわたしのところへ、アイシャとミントがやって来た。

 いつもは愛らしい子リスみたいなふたりが、しかし有無を言わせぬ勢いでわたしの両肘を掴むと教室の外へと連れ出した。


「「テレーゼさんテレーゼさんっ、知ってますっ? 例の件っ」」


 綺麗にセリフをシンクロさせながら、ふたりはわたしに聞いて来る。


「例の件? いや全然……いったいなんのこと?」


 わたしの答えを聞いたふたりは互いに見つめ合うと、真剣な表情でうなずいた。


「「あのあのあの、落ち着いて聞いてくださいね? 実はリリゼットさんが、今度の四校対抗戦の出場を辞退するそうなんですっ」」


 衝撃の内容に、わたしはフリーズした。


「………………は?」


 理解出来ない。

 さっぱり意味がわからない。


「え、え、え? なに言ってんの?」


 四校対抗戦って、わたしとハンネスが二台四手にだいよんしゅで、リリゼットがソロで出るやつでしょ?

 もう期限だってないのに、今さら辞めるとかありえないでしょ。

 ふたりがウソをつく理由はないけれど、タチの悪い冗談なんじゃないかと疑ってしまう。


「「もちろんわかります。信じられない気持ち。こんな土壇場での出場辞退なんてあり得ないって、前代未聞だって。だからこそいま大騒ぎになってて、リリゼットさんは学院長に呼び出されてて……っ」」


 しかしふたりは、それが紛れもない事実なのだと訴えて来る。

 これ以上はないほどの緊迫感を保ちながら、口々に。


「ええーっと、それってあれ? リリゼットが怪我したとか、あるいは病気にかかっちゃったとか?」


「「それが……全然ピンピンしてるんです」」


「はああああああああ~?」


 あのリリゼットが、四校対抗戦を辞退する。

 それだけでも驚きなのに、しかもまったく理由がわからないときたもんだ。


 そしてそうだ。そんなことをしてただで済むはずがない。

 だって、わたしたちは音楽院の生徒なのだから。

 四校対抗戦の代表なんて、音楽院の伝統そのものを背負う最重要な立場なのだから。

 やりたくないから辞めますだなんて、そんな自分勝手が許されるはずがない。

 お小言で済めばいいけど、最悪の場合もっと重い処分を下される可能性もある。


「ちょっとちょっと、リリゼットをぉ~……っ?」


 まさかの展開に驚いたわたしは、慌てて学院長室へと向かったのだった。

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