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「ちょっと苦手な人」

 その日わたしは、クロードとウィル、アンナにカーミラといういつもの面子でいつものように登校していた。

 音楽院の巨大な門をくぐり、長い長いアプローチを抜け、玄関前の馬車止めには今日も多くの馬車が停まっていた。

 生徒の中でも特に裕福な家庭に生まれ育ったお坊ちゃんお嬢ちゃんたちが次々に降ろされていく中に、見知った顔があった。


「あ、ハンネスだっ。おーっす、ハンネスおはようーっ」


「あ、テレーゼ……っ」


 わたしがぶんぶか手を振りながら声をかけると、ハンネスはパアっと顔を輝かせた。

 

「おはようテレーゼ。ふふ、テレーゼは今日も元気だね」


 体重が落ちて以来すっかり繊の細い系イケメンになったハンネス。

 高原に咲く小花のような笑顔には思わず守ってあげたくなるような成分が含まれていて、周りの女生徒たちがきゃあきゃあ騒ぐのもうなずける。


 人間見た目がすべてではないというけれど、こういう男の子とデュオを組んで戦えるというのは嬉しいし誇らしい。ピアノ弾きやってて良かったなあと素直に思える瞬間だ。


 などとにんまりしていると──


「おはようございます、テレーゼ様」

 

 ぬうっとばかりに姿を現したのは、最近ハンネスのお付きになったメイドのエマさんだ。


 このエマさん、女性にしてはめちゃめちゃ背が高くて、銀縁メガネをかけたキャリアウーマン的な感じの人で、いかにも頭が良さそう。

 それだけならいいのだが……。


「本日も宅の坊ちゃまを、どうかよろしくお願いいたします」


 どこからどう聞いても普通のセリフなのに、頭を下げるしぐさも綺麗なのに、ものすごい威圧感を感じるんだ。

 眼光の鋭さもちょっと尋常じゃなくて、敵意すら感じるレベルというか……うう、なんだか苦手だなあこの人……。

 

「は、はいわかりました! ハンネスをよろしくですね! 了解であります!」


 今日も今日とてエマさんの迫力にビビったわたしは、思わず背筋を伸ばし、軍人みたいな敬礼をしてしまう。


「ちょっとテレーゼ、そんなことしなくていいからっ! お願いだからエマも普通にしてっ!」


「あら、わたくしは普通にしているつもりですが……テレーゼ様、わたくしの発言もしくは所作に何か問題がありましたでしょうか?」


「いいえ! まったく問題ありません! サー!」


「もう! テレーゼやめてったら! と、とにかくもう行くからね! じゃあね! エマ!」


「はい、坊ちゃまもお気をつけて。所定の時間にはお迎えに参りますので」


 馬車の脇で綺麗に頭を下げるエマさんをその場に残すと、ハンネスはわたしを促しクラスへと向かった。


「もう、テレーゼはエマの前だとどうしてあんな風になっちゃうの?」


 道すがら、ハンネスはぶつぶつとつぶやく。


「うう~ん、これはねえ~……。前世から染みついた苦手意識とでも言うか~……」

 

 ぶっちゃけ、前世で似た感じの上司がいたんだわ。

 あんなに美人じゃなかったけど、万事につけ厳しい人でね、わたしは怒られてばかりで……うう、今思い出しても胃がキリキリする……っ。 


「前世? それってどういうこと?」


「いやその……なんでもないです……」


「え、なんで急に敬語?」


「おっととと、わたしとしたことが、こいつはとんだミステイク。あは、あは、あはははは~……っ」


 変にツッコまれても困るので、適当に笑って言葉を濁した。

 上手く誤魔化せたとは思えないが、なんとかかんとか流してみせた。

 

 やあしかし、カーミラといいエマさんといい、最近濃ゆ~いキャラが身の回りに増えて来たよねえ~。

 こんなに普通なわたしなのに、いったいどうしてなのかしら?

 

 なんてことを考えながらも、わたしなりに楽しんではいた。

 おかしくて賑やかなこの日常を。

 前世のわたしの鬱屈としたそれとはまるで違う、希望に満ちたこの日々を、わたしは大層気に入っていた。


 だけど一方で、恐れてもいたんだ。

 偶然から得られた第二の人生が、同じように偶然から壊れてしまうことを。

 何かの拍子で失われ、すべてが水泡に帰してしまうことを。


 そしてそれは訪れた。

 何の前触れもなく、唐突に。

 クラウンベルガー音楽院に、秋の嵐が吹き荒れたのだ──

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