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「わたくしは犬党です」

 ~~~ハンネス視点~~~




 デア・マルクト文化通りの裏路地を、ハンネスは歩いていた。

 もちろんひとりではない。つい最近お付きのメイドとして復活した、エマも一緒だ。


 エマが先に立って歩き、ハンネスが後ろからついて行く。

 180センチを超える高身長のエマは歩幅が大きく、またせかせかと歩くため、163センチしかない背の低いハンネスとしては、ついて行くのがやっとだ。


「は、早いよエマ~……」


「わたくしが遅いのではありません。坊ちゃまが遅いのです。いいですか坊ちゃま、時は金なりです。グラーツ一の紳士たらんとする者がそんなもたもたとした足取りでどうします」


「そうは言うけどさあ~……」


 ハンネスは小走りになってエマを追い続けた。

 追いかけて追いかけて、ようやく追いついた……と思った時には目当ての店の前にいた。


「ここです坊ちゃま」


「ハア……ハア……やっと着いたあ~……」

 

 その場に座り込んだハンネスを、エマはじっと見下した。


「しかし坊ちゃま、よくついて来られましたね。以前の坊ちゃまなら途中で転んでくじけて泣いていたでしょうに」


けなしてるんだか褒めてるんだかわかんないんだけど……まあ最近は走ったりして鍛えるようにしてるんだ。ピアノ弾きには体力も重要だってテレーゼに言われたからさ」


「なるほど、くだんの娘の調教済みということですね」


「言い方っ!」


「しかし坊ちゃまをここまで仕込むとは……同じ坊ちゃまテイマーとして負けてはいられませんね」


「エマは僕をなんだと思ってるの!?」


「可愛らしい小動物と」


「あああーもうっ!」


 ツッコみ疲れたハンネスは頭を抱えた。


「ハア……もういいや。ここで言い合っててもしかたない。とにかく店に入ろう」


 ため息をつくと、ハンネスは改めて店を見た。

 看板にダックスフントの描かれた、どうやら犬グッズ専門店のようだが……。


「ウィルの猫グッズに対抗して犬ってことか。なるほどねえ~」


「ええ、もちろんそれもありますが」


 エマはメガネの奥の目をキラリと光らせると。


「わたくしは生粋の犬党ですので」


「犬党?」


「ええ。あの愛らしいフォルム、従順な態度に強い仲間意識。人が見習うべき素晴らしい部分がたくさんあるじゃないですか。それに引きかえ猫はどうですか。気まぐれで容易に懐かず、他人にペースを合わせない」


「……エマ?」


「統計的にも犬党の人間は外交的でルールに厳しく、堅実で信用に足るそうです。ちなみに猫党の人間は内向的で非現実的で、自制心が低く信用に足らないそうです。つまり猫党の人間は〇〇」


「ちょっとちょっとエマああああー!?」


 人通りの多い道端で世にも危ないことをつぶやき出したエマを、ハンネスは慌てて止めた。


「そういう思想的に偏った発言するのやめよう! ね! やめよう! あっ、みなさんこれは演劇の練習ですから! 特定の趣味嗜好を持った人を攻撃するような意思はひとつもありませんから!」


「わたくしは犬党の人間として、ここに猫党への宣戦布告をおぉー……っ!」


「エマあああああああああ!?」


 犬党の過激な思想を演説しそうになったエマを引っ張り、ハンネスは慌てて店内に入った。




 □ ■ □ ■ □ □ ■ □ ■ □ ■ □




「やれやれ、ひどい目に遭った……」


 店内に入ったハンネスは盛大なため息をついた。


「エマ、もうああいうのはやめてよね。心臓に悪いから……」


「坊ちゃまがどうしてもというならやめますが、しかしこの信条だけは変えません。件の娘が猫党ならば、このわたくしが洗脳してでも犬党に変えてみせます」


「いちいち発言が過激すぎるんだよなあー……」


 とはいえ、猫から犬に宗旨替えするぐらい喜んでもらえたのならそれに越したことはない。

 ここは頑張ってプレゼントを選ぼうと、ハンネスは気合いを入れた。


「さて、じゃあ犬党のエマに聞きたいんだけど、女の子はどんな犬グッズを選んだら喜ぶもんかな? テレーゼはちょっと普通の女の子とは違う感性をしてるんだけど、可愛いものに関しては普通なんだ」


「では首輪を」


「なんで!?」


「これをハメて俺様のものになれよという意味です」


「違うよ! どうやって使うかを聞いてるんじゃない! なんでそんなものを選んだのか聞いてるんだよ!」


「それはもちろん所有権が誰にあるかをハッキリさせるためで……」


「発言がいちいち過激すぎる!」


 ぎゃあぎゃあとわめきながらのプレゼント選びはなかなかはかどらないが……。


「あ、これなんかどうかな?」


 ハンネスが選んだのは、店の看板であるダックスフントの描かれた万年筆とインクのセットだった。 

 

「テレーゼってけっこう作曲するし、インクの消費も激しいと思うんだ」


「なるほど、これを使うたび俺様のことを思い出せというメッセージですね。いいと思います」


 エマはこくりとうなずいた。


「向こうのレターセットは使えば無くなってしまいますが、こちらのはいくらでも補充が可能。さすがは『ジングライヒ社』の未来を背負う男。坊ちゃま、ご立派です」


「メッセージについては色々異論があるけど……でもそうか、いい感じなら良かった。うん、これで行こう」


 いいものが選べて良かった、ハンネスはホッと胸を撫で下ろした。


「さて、あとはこれをどのタイミングで渡すかなんだけど……」


「坊ちゃま、それについてはわたくしに作戦がございます」


 眼鏡をキラリ光らせたエマの提示した作戦は……。

わたしは犬猫どっちも好きですよ。


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