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「ほとんどそれは」

 音楽堂でコンサートを行った、その翌日のことだった。

 生徒たちの情報網は早く広く細大漏らさず、わたしの初コンサートだけでなく、わたしとエメリッヒ先生の間に怪しい噂が立ったこともしっかりと拾ってた。

 当然、大騒ぎだ。

 

 ──テレーゼ様、聞きましたわよ!?

 ──エメリッヒ先生と結婚するんですって!?

 ──あの『鉄血の麗人』と!? どんな風におつき合いしてらっしゃるの!?

 

 昼休みになった瞬間捕まった。

 大食堂の一角が、同じクラスはもちろん他のクラスや下級生・上級生までも含めた女生徒たちによって占拠された。

 基本男子ばかりの学校なので総量としてはそれほどでもないのだが、一か所に集まるとけっこうえげつない光景になっていた。

 きゃーきゃーとやかましくて、香水の香りがすごくて。

 慣れない恋話コイバナも相まって、わたしはひたすらくらくらした。


「あのね、みんな聞いて? お願い聞いて? わたしと先生はあくまで生徒と先生の関係でしかなくてね? そういう浮いた感じの話は一切なくてね?」


 なんとかして先生との関係性を否定しようとするのだが、みんなはなかなか納得しない。


 ──ええー、ウソウソ! そんなこと言ってホントはつき合ってるんですよね!?

 ──厳しいように見えて優しいところがあるって、あの先生実はけっこう人気だったんですよー!

 ──ああー、いいなあー! わたしも恋がしてみたーい!


 わたしと先生がつき合っている方が盛り上がるからだろうか、とにかくなんとかしてくっつけようとはやし立ててくる。


 ううむ、女子の圧力マジで半端ないな……。

 そして先生のあだ名かっこよすぎでしょ。なんだ『鉄血の麗人』って。モビルスーツにでも乗るのか? 今は宇宙世紀か?


 いちいち真面目に相手してらんないのでくだらないことを考えてやり過ごしていると……。


「だ、大丈夫です。テレーゼ様はもう16歳、結婚可能年齢ですから」


 女子の輪をくぐり抜け、カーミラがひょっこりと顔を出した。


「か、カーミラ?」


 息を荒くし、髪をほつれさせているのは頑張って登校して来たからだろう。

 さらに上級生たちの輪をくぐり抜けるのに消耗したせいで制服はヨレヨレで顔色は真っ青で、そこらのベンチでひと休みした方がいいように見えるが……。


「ハアー……ハアー……。もう疲れた、もう死にたい……。でもダメよカーミラ、今がチャンスなの、ここで一気に攻め落とすのよっ」


 しかしカーミラは諦めないし止まらない。

 意を決したように口を開くと……。


「最近じゃ学生結婚だって珍しいものじゃありませんし、なんだったら婚約という形でも構いません。どうかうちのパパにチャンスをっ。あたしのっ、あたしのママになってくださ……かくっ」


 そこが限界だったのだろう。

 カーミラはセリフの途中で突然力尽きると、わたしの膝の上に倒れ込んだ。

 明日のジョーみたいに真っ白に燃え尽きながら、「ママぁ……」とつぶやきつつ意識を失った。


「わあ……頑張ってここまで来たんだねえ。偉いねえカーミラ……ってそうじゃないわ。あなたどうしてくれるのよこの状況をっ」


 わたしのことを「ママ」と呼ぶ美少女の出現によって、場は騒然となっている。


 ──も、もうふたりは結婚してらっしゃるの!?

 ──……わたくし、聞いたことがありますわ。世の中には内縁の妻とかいう、事実上の婚姻関係が存在するのだとか。

 ──この娘さん……もしかしてテレーゼ様の隠し子でわ!?


 いやいや最後のはさすがに無茶があるでしょとツッコみたかったが、もうそういう状況ではなかった。

 きゃーきゃーきゃーきゃー、辺りは蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。


「ちょっと……聞きましたわよテレーゼ様!」


 噂を聞きつけたのだろう、取り巻きを連れたバーバラがやって来た。


「うわあ、さらに面倒なのが来たよ……」

 

「面倒なのとはなんですか面倒なのとは! ってそれはどうでもいいんです! あなたねえ、クロードという者がありながら他の殿方にうつつを抜かすとはいったいどういう了見なんですか! だったらわたくしにクロードを譲……ではなくっ!」


 パシンと自らの頬を叩くと、バーバラは言い直した。


「クロードを解放しなさい! そうしたらあとはわたくしが拾い、大事に大事に扱いますから! 四六時中傍に置いて、決して離したりしませんから!」


「ああああああもうめんどくさいなあー……」 


 もう本気で面倒になったので、わたしはハッキリ言うことにした。


「わたしは別に先生とつき合ったりしてないし、これからもつき合う気はない。そしてクロードを手放す気もないの」


 さらには昨夜クロードにした月のうさぎの物語を説明した上で──


「それでね、その時わたしはこう言ったの。『わたしたちも、あんな風になれたらいいのにね』って。つまりわたしたちはそれぐらい強い主従関係で結ばれているの、わかった? あんたにあげるとかないから」


 これでみんなにはわたしと先生の関係性がハッキリしたし、バーバラにはわたしとクロードの仲良しぶりが理解できただろう。

 わたしたちは強固に結ばれていて、それは容易に覆せるものじゃないのだ。

 わかったか、えっへん。


「どう? わかった? バーバ…………ラ?」


 ふと気が付くと、バーバラが大口を開けたまま凍り付き、周りのみんなも石のように固まっている。


「え? どうしたのみんな?」

 

 そこまで驚く意味がわからず、わたしが戸惑っていると……。

 

「ハア……。あなたって人はどこまでもどこまでも……。ホントに天然なの? 全然計算してないでそれなの?」


 隣にいたリリゼットが、深い深いため息をついた。


「え? え? どーゆーこと? リリゼット。天然とか計算って……」


「まだわからない? 今あなたの言ったそれ、ほとんど愛の告白みたいなものなのよ」


「え? え? あ、愛の告白? ………………あ」


 わたしが自分の軽率な発言に気づいた瞬間、どっとみんなが沸いた。

 歓声のような悲鳴のようなそれは、大食堂の一角に響き渡りそして──瞬く間に学校中に広まったのだった。

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