「気分は炎上ユーチューバー?」
「テレーゼ様。うちのパパと結婚しませんか?」
カーミラの口をついて出た衝撃の発言に、場は騒然となった。
クロードが、ウィルが、ハンネスが、瞬間冷凍でもされたかのようにピシリと凍り付き。
アンナが言葉を失ったまま目のみを見開いて驚き、アイシャとミントが「キャアアアーッ!?」と大騒ぎ。
「ななななななな、なにを言ってるのかなあーっ? カーミラはあーっ?」
その中でも最も動揺していたであろう動揺したわたしは、だらだらと大量の汗をかきながらカーミラに訊き返した。
「いいい言い間違えかなあー? けけけ結婚と決闘の間違えかなあー? うんうんそうだよねえー? でないといきなりそんな、こんな公衆の面前でそんなことあるわけがあーっ?」
「ううん、言い間違えじゃありません。テレーゼ様、うちのパパと結婚してください。結婚ですよ、結婚」
とっても大事な事なので、二度では飽き足らずに三度言いました。
といった風情のカーミラ。相変わらずの圧の強い瞳でわたしを見つめてくる。
「だって、そしたらテレーゼ様があたしのママってことになるじゃないですか。一緒に生活する家族になるわけじゃないですか。三度の食事を一緒にとって、嫌なことがあったらぎゅってしてくれて、良いことしたらいいコいいコって褒めてくれて、時には一緒のベッドで寝てくれる。そんなの最高じゃないですか」
「いやいやいや……」
「聞いて下さい。うちのパパってけっこう良物件だと思うんです。家もあって、定職もあって高級取りで、背が高くてイケメンで。こんな風に家族への気遣いもある。ピアノが弾けてヴァイオリンも弾けて、テレーゼ様との話もきっと合う。ほらっ」
いや、ほらじゃないが。
この状況でどうしてそんなドヤ顔が出来るんだこのコは……。
「あのね、カーミラ。それ自体は悪くない話だと思うんだけど。頭から否定するわけじゃないんだけど。でもさ、こういうことには本人同士の意向というものがあってね? それは守らなきゃなあと思うんだ」
とは言え、そこはついさっきまで引きこもりだったカーミラだ。
頭ごなしに否定してへそを曲げられて、再び天の岩戸へ閉じこもられてもかなわない。
なのでわたしは、優しく柔らかく説得をした。
大人としての経験を踏まえつつ、どうにかして煙に巻こうと試みた。
「なんといっても大事な、それこそ一生の決め事だしさ、本人同士が好き合った結果でないと……。それだって何カ月も何年も交際をした上で、慎重には慎重を期さないと。条件面での折り合いがつくから即契約みたいなのはちょっとね、色々あとで不具合があった時に困るし。クーリングオフとかないわけだし……」
政略結婚当たり前の元公爵令嬢が何を言うって話ではあるが、あくまで元だからね、元。
「ね、先生だってこんな女は嫌ですもんね? 子供のくせにやたらと上から目線だし、よく食べてよく飲んで、大声で喋って大股で歩いて、レディのレの字も無い始末で(自爆)」
同意を求めようとしたのだが、先生は思い通りの反応をしてくれなかった。
「…………ん? あ、いや、そうだな……」
今まさに物思いを破られてハッとした、みたいなリアクションをとると。
「テレーゼ君のそういった部分はむしろ美点であると思うし、まったく卑下をすることはなく……や、だからといってあれなわけではないのだが……ちなみにこの場合のあれというのはだな……」
あれあれ? どうしてそんなにしどろもどろになってるんですか?
ゴホンと咳ばらいをする顔が、どうしてそんなに赤いんですか?
チラチラわたしを見て、何をそんなに気にしてるんですか?
ま、まさかの脈アリ!? 脈アリなんですか先生ーっ!?
……なーんてね。
ひとりで盛り上がっておいてなんだが、そんなことあるわけないじゃん。
しどろもどろになってるのはいきなり恋話振られて動揺してるだけだし、顔が赤いのも同じ理由。チラチラ見てるのはわたしを気遣ってるだけ。
変に本気にしたら恥かくだけ。詳しいんだ、わたしは。
伊達に36年も喪女やってないんだ。
はふうと大きく息を吐くと、わたしは肩を竦めた。
「はいはい、いいですよもう、そんなに頑張ってフォローしなくても。女性としての自分のレベルは、他ならぬこのわたしが一番よーくわかってますから」
「いや、別にわたしは……」
「はいそこまでーっ」
弁解しようとする先生の唇の前で、わたしはぴっと人差し指を立てた。
そしてチラリと、隣のカーミラに目を向けた。
「ほら、カーミラもそんなに頬を膨らませないの。可愛い顔が台無しよ」
ぶんむくれるカーミラの頬をむにっと摘まむと、わたしはけらけら陽気に笑った。
「どうあれ、わたしに結婚は早すぎるわ。まだ16歳だし、学生だし、わたし自身そうゆー関係で色々あってここまで来たわけだし」
暗にアベル王子との婚約破棄のことを持ち出すと、カーミラは「あ……っ?」と慌てたように口元を押さえた。
デリカシーのない発言だと思ったのだろう、瞬時に泣きそうな顔になった。
個人的には全然気にしてないというか、最初からのゲームの『設定』の話なのでなんのダメージも無いのだが、みんなはそうは思わないのだろう。
場には一気に沈痛な空気が広がった。音楽決闘の興奮が一転、お通夜みたいな雰囲気になった。
「ちょ……ちょっとみんなそんな顔しないでっ!? わたしは全然気にしてないからっ! 喪に服するような気持ちというか、しばらくそういった方面のことは考えたくないというか! ってああ!? これじゃますます深刻な感じにいぃぃっ!?」
言えば言うほど冷え込む空気に耐えられなくなったわたしは、思わず頭を抱えた。
次からは発言に気をつけますうううっと、炎上に悩むユーチューバーみたいなことを思ってた。
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