誘惑の甘き香~後編~
前回の続きです。
今回は一部某少女アニメのオマージュも取り入れてみました。
探してみて下さい。
芳子の病室は個室で洋室だった。
中央に白いテーブルと椅子、隅の机にはペンとノートブック、壁には姿見、それから壁紙は白い薔薇、カーテンは青色で窓辺からは遠くに海が見え、奥は寝室。そこはまるで西洋のお城の一室のようだった。
「さあどうぞ」
芳子に誘われるまま部屋へと入っていく琴葉。
「あの、お花どちらへ飾りましょうか?」
「そうだね。窓辺にでも飾ろうか?」
「はい、私花瓶に水汲んできます。水道はどちらでしょうか?」
テーブルの上にあった花瓶を持っていこうとしたとき芳子の手が触れた。
「僕がやるからいいよ。琴葉ちゃんは部屋でゆっくりしてて。」
芳子が部屋を出ていった後琴葉は姿見で自分の頬が赤く染まっているのを見た。
(今日は芳子様のおかげで心臓の鼓動がなりっぱなしだわ)
白を基調とした優美な洋室。窓から遠くに見える海。そしてその部屋の住人は異国の男装の王女。琴葉はそれら全てに親しみを感じた。
琴葉の通う女学校は入学した頃はミッションスクールで外国人教師によるフランス語やテーブルマナー、ピアノを授業があった。だけど1年前、敵性語追放により、外国人教師達は各々の国に帰国。学校名も「フェリス女学院」から「横浜山之手女学院」に改名。フランス語やテーブルマナーといった西洋諸国に関する授業は全て廃止されてしまったのだ。琴葉にとって「外国」を感じるのは今着ているレースのワンピースのみ。今まで傍にあった物がそれほど遠く手の届かない物になっていたのだ。
「琴葉ちゃん」
芳子が薔薇を生けた花瓶を手に戻ってきた。
「あの芳子様!!」
琴葉は芳子に教えてもらいたいことがあるのを思い出した
「教えてほしいこと?」
「はい、芳子様が以前ハーモニカで吹いてた曲、私も吹いてみたようと思ったんです。でもどうしても上手くできなくて。」
そう言って鞄からハーモニカを取り出した。
「分かった。じゃあ教えてあげるからおいで。」
背後から芳子に手元を触れられハーモニカを口元に近づけられる
「さあ目を閉じて」
耳元で芳子はハスキーな低音の声で囁く。琴葉は言われるままに目を閉じる。
「何も考えないで吹いてごらん」
(何も考えないで?)
そっとマウスピースに息をはく。部屋中に音色が響きわたった。
「吹けた!!私吹けました!!」
「琴葉ちゃん、よく頑張ったね。」
芳子は琴葉の頭を撫でる。
「ハーモニカは心を無にして吹くものだよ。そうすると清く気高く美しいメロディが奏でられるんだ。」
清く気高く美しい。琴葉にとってそれは芳子そのものを表した言葉のように思えた。
芳子の発する言葉1つ1つはいつも言葉をその気にさせてくれる。魔法のように。
紺の和服に青の帯、そして黒の打掛。そんな姿で薔薇の花束を愛し甘い言葉を巧みに操り私の心を惑わす。そんなこと少女歌劇の男役でもなかなかできるものではない。
(きっと芳子様に敵う男性なんて日本中いえ、世界中どこを探してもいないでしょう)
それほどまでに琴葉は芳子様に惹かれていた
。