芳子の置き手紙
「琴葉さん、琴葉さん。」
「琴葉。」
昼過ぎ琴葉はきえとはるこに起こされる。
「やっと起きたわ。」
「お姉様、きえさん。」
琴葉は昨日きえと夜通し芳子の話をしていた。あまり眠れなかった琴葉は昼頃までずっと夢の中だった。
「琴葉さん、お寝坊ですよ。」
「きえさん何で起きてるの?」
「農家は朝が早いですから。起きますよ。」
琴葉は起きて白いワンピースに着替える。午後から芳子のところに行くのだ。
はるこは琴葉が起きると外出してしまった。
きえは昨日の着物を来ている。
琴葉の支度ができたから下に降りたときだった。
「あの、困ります。帰って下さい。」
「お嬢さんこちらも仕事ですからね。」
階段を降りる途中玄関の方からはること男性の声がした。
「お姉様、どうされました?」
琴葉が階段を降りたとこまで行く。きえは琴葉の腕にしがみついている。
「お前は昨日の!!」
男の一人が琴葉を見るなり叫ぶ。
「やっと見つけたぞ。来い!!」
男はきえを琴葉から無理やり引き離し連れて行こうとする。
「待って下さい!!」
「お嬢さん、こいつはうちの店から脱走したんですよ。」
きえは男3人がかりで取り押さえられ連れていかれる。
「琴葉、あの娘同じ級の娘じゃないの?」
はるこが尋ねるも琴葉は答えず走り出す。
琴葉が向かったのは芳子のところだ。
「芳子様!!」
病室の扉を叩き名前を叫ぶが返事がない。
「開けますよ。」
扉を開けて部屋に入るが誰もいない。
薔薇の花が飾られた白いテーブルに1枚の紙が置かれていた。
「琴葉ちゃんへ
ちょっと行ってくる。行先は聞かないでくれ。必ず戻って来るから僕の事は探さないで待っていてくれ。
芳子」
置き手紙だった。琴葉は突然不安になる。目の前から突然芳子がいなくなる。琴葉にとっては耐え難い事だ。
「琴葉さん?」
琴葉は背後から声をかけられる。芳子の担当の看護婦だ。
「やっぱり。貴女の姿が見えたから追ってきたの。」
芳子は急に朝軍服を着て出ていったという。
どこに行くか尋ねても「言ったら琴葉ちゃんが追ってくる」と言って教えてくれなかった。
琴葉はその場で泣き崩れる。
追ってきては困るのだろうか?芳子が自分の届かない場所へと行ってしまうのだろうか?
「琴葉さん。」
看護婦が声をかける。
「川島さんきっと心配かけたくないのよ。だから信じて待っててあげて。」
看護婦に諭され琴葉は帰ることにした。
その頃東京の日比谷の邸宅の前に一台の車が止まる。
中から降りてきたのは将校姿の軍人である。
軍人はメイドに客間へと案内される。
客間には既に男が待っていた。
「久しぶりだね。芳子ちゃん。」
「お久しぶりです。笹川さん。」




