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紅薔薇に秘めた想い  作者: 白百合三咲
第2部 清の一族
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裏目に出た作戦

 千鶴子と笹川が裁判所を出ようとしたとき、1人の男が2人に声をかけてきた。男は緒方と名乗った。芳子が雇った弁護士だ。緒方は千鶴子に訪ねる。

「貴女千鶴子さんと言いましたね。川島さんに面会に来たのは貴方達が初めてです。川島さんについて話を聞かせてもらえますか?」




千鶴子の提案で緒方を笹川の自宅に招き入れることにした。

千鶴子は全て緒方に話した。自分は駆け落ち同然で芳子と満州に来たこと、そして日本軍のやり方には疑問を持っていたこと。弱い立場の中国人には手を差し伸べていたこと。

「私が裁判で証言します。緒方さん、私を証人として申請して頂けませんか?」

「千鶴子さん、それはあまり良い案ではありません。日本人である貴女が裁判で証言することにより、川島さんが日本軍との結び付きが強かったとの疑いは強まるばかりでしょう。」

(日本人である私ではお兄様を助けられないのか?)

「あの、中国人なら証言しても不利にはなりませんか?!笹川さん、瞳花ちゃんならきっと。」

「千鶴子ちゃん、瞳花ちゃんは今故郷に帰って学校の教師をしているそうだ。教育者である瞳花ちゃんが芳子ちゃんを庇ったら瞳花ちゃんの立場も危ない。芳子ちゃんはそんなこと望んでないよ。」

もうお兄様を助ける方法はないのか?3人の間に沈黙が続く。

「1つだけないことはない。」

笹川が沈黙を破る。

「戸籍標本。芳子ちゃんは6才で日本人の養女になってる。戸籍標本があればそれが証明される。歌手の李香蘭が戸籍で日本国籍が証明され助かってる。」

お兄様を助けられる。一寸の光が射し込んだ。

「しかし川島さんは戸籍を移してはおりません。戸籍は中国人のままです。」

やはり無理なのか?しかし千鶴子には1つの方法が思い浮かんだ。

「私にいい考えがあります。」

千鶴子の考えはこうだ。芳子の養父は芳子の兄の子も養女にしてる。川島廉子。彼女は戸籍を日本に移している。戸籍標本の名前を「芳子」に変えて裁判所に提出しようというのだ。

「戸籍標本に偽装工作をするのですか?」

「それしかないわ。お兄様の命がかかってるのだから。」

「分かった。僕が松本の川島家に手紙を書く。」

「笹川さん、くれぐれも慎重にお願いします。」






2週間後、川島家から戸籍標本が送られてきた。

「緒方さん、これをお兄様に。」

これでお兄様を助けられる。しかしその想いは一瞬にして打ち砕かれた。


戸籍標本には芳子の名前は記されていなかったのだ。




その日面会に行った千鶴子は謝罪した。でも芳子は何も言わずに笑っていた。

「千鶴ちゃんは何も悪くない。僕は家族にも見捨てられた。ただそれだけだよ。」

芳子はむしろ感謝していた。自分を助けようとする人なんて日本にも中国にもいなかった。千鶴子を除いては。この2週間千鶴子は毎日面会に来てくれた。着替えや差し入れを持ってきてくれて、以前と変わらず自分に尽くしてくれる。ただそれだけで嬉しかったのだ。

「僕は王朝復活に全てを捧げてきた。今更他の生き方なんて知らない。だから清朝の王族として最期まで全うするよ。」

「だったら私と一緒に新しい道を探しましょう。日本でも中国でもない土地で。」

「ありがとう。でも千鶴ちゃんには家族がいる。待っていてくれる人がいるんだよ。」


(私はずっとお兄様の妻だと思ってた。それは自分だけなのか!?)


「嫌です。私今でもお兄様のこと」 


泣きながら訴える千鶴子に芳子が制止する。

「僕も同じ気持ちだよ。だから千鶴ちゃんには幸せになってほしい。でもそれができるのは僕じゃない。千鶴ちゃんの帰る場所は僕じゃない。日本にいる夫の元に帰りなさい。」

芳子の悲しい声が部屋中に響く。 


千鶴子は芳子に促され留置所を後にした。それが2人の永遠の別れになってしまった。

戸籍の話はけっこう有名ですね。紙切れたった1枚で生死が変わるって。

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