椎名 of マイペース
「ほら次はあれ乗りに行こうよ千里!!早く早く」
「待て待て、そんなに急がなくてもアトラクションが逃げるわけじゃないんだから、ゆっくり行こうぜ」
「駄目だよ、もう時間はそんなに無いんだし精一杯楽しまないと」
「はいはい分かったよ、全く仕方ないな」
笑いながらも強引に俺の手を引っ張る目の前の女の子、少々疲れたのは確かだがまぁでも今日は目一杯付き合ってやると決めたのだから頑張るとしよう
女の子に手を引かれながら次のアトラクションに向かうまでの間、俺はこういう状況になってしまった経緯を思い出していた
時刻は朝8時過ぎ、俺は万里紗といつも通り登校していた
因みに昨日俺は学校の用意を持って万里紗の部屋に泊まったので、朝起きてそのまま万里紗の家で用意を済ませ二人で家を出た
……いつも通りですが何か?
「…………てことがあったんだけどさ……ん?」
「千?どうかした?」
てなわけでいつも通り他愛もない話をしながら歩いていたのだが、いきなり後ろで茂みをかき分けるようなざざっ、て音が聞こえたので俺は反射的に振り返った、そして俺につられて万里紗も後ろを向く
……しかし振り返ってみたはいいものの特に何も見当たらない、まぁなんでもいいかどうせゴミ袋でも風に舞っていたのだろう
「ごめん、何か後ろで動いた気がしたからさ多分気のせいだわ」
「ん、それならいい」
気のせいだったと結論付けた俺だが、今の流れで思い出したことがあった
「そういえば最近さ、たまに誰かに見られている気がするんだよな」
「見られている?」
「そう、まぁそれも気のせいかもしれないんだけどさ、たまーに視線?みたいなのを感じる時があるのよ」
別に気配を感じられるとかそんな特殊能力は持っていない普通の男子高校生です、つまり信憑性はありませんが
「何回か振り返ってはみたんだけど、どれも誰かがいたとか、何かがあったとかそんなことなかったから気にすることではないと思うんだけど」
「……そう、それなら別にいいけど、でも何かあったらすぐ教えて」
「分かってるよ、元より万里紗に隠しごとするはずないしな」
気にならないと言ったら嘘になるが、今考えてもどうせ何もわかることはないので、頭の片隅に留めておくことにする
「あ」
少し考え込んでいた万里紗が何かに気が付いたような声を上げた、さっきのことで分かったことでもあったのかと思ったがどうやら違うようだ
何故なら、前を見ると俺らの見知った顔がこっちを向いていたからだ、そいつはそのまま俺らの方に歩いてきて挨拶してきた
「お、万里紗に水上じゃんおはよう、またまた朝っぱらから仲良しだねぇお二人さん」
「ん、おはよう香帆、でも香帆にしては登校するの少し早くない?」
「あはは、確かにいつもはもっとぎりぎりなんだけどね、でもそれで昨日遅刻しそうだったからさ、今日は余裕を持って早めに来たんだよ」
朗かに笑いながら話しているこいつは同じクラスの椎名香帆というやつだ、今の会話だけでも分かると思うが竹を割ったような性格で底なしに明るいやつだ、しかし実はそれ以上にかなり大雑把で無茶苦茶なやつなのだ
多分今回早く来た理由だって
「……で本当の理由は何?」
「あ、ばれちゃってた?流石万里紗だねぇよく分かるね」
「香帆が分かりやすいだけ、それにいつものこと」
……一見すると万里紗が鋭いから椎名の嘘を見破れたように感じるだろうが、これは本当にそんなことないのだ、何故なら、理由は単純で椎名がそれほど多くのことをやらかしてきたからだ
「いやー実は進路調査票をまだ出してなくてさ、それで昨日先生に怒られちゃってね、明日の朝……つまり今日の朝の事ね、に提出しろって言われたから、こうして早く来てるの」
「え、お前進路調査票って、あれ締め切り1週間以上前じゃなかったか?」
「んーらしいね、まぁでも別にいいじゃん1週間遅れようが2週間遅れようがさ、どうせ卒業するまで2年以上あるんだし気長に行こうよねぇ」
「お前ってやつは……ほんとにマイペースな奴だな」
ご覧の通りこういうやつなのだ、
この椎名を普段から見ている俺からすればなんでこの学校に入学できたのか不思議であるが、しかしこう見えて成績はいいし運動もかなり得意なのだ、まぁこんな性格だから勿論部活動には所属してないのだがな、正直勿体ないと思う
因みに結構綺麗な顔立ちをしている、これで性格が残念じゃなければさそがしモテるだろうに、今まで何人もの男子が椎名を狙っているという話を聞いたことあるが、直ぐになくなったことから考えるとつまりそういうことなのだろう
閑話休題
「それで香帆、進路調査票はちゃんと書いたの?」
「流石にいくらこいつでも書いて……」
「んや?何も書いてないぞ」
……まさかの事実である、びっくりして何考えてたか忘れてしまったわ
「いや何も思い浮かばないんだから仕方ないじゃん、だからいっそのこともう堂々と白紙で出そうかなって思ってるのよ」
「でもそれは流石にやばくないか?昨日注意を受けてるわけだし」
「まぁ怒られたときはその時よ、咎められるのを恐れていてちゃ何もできないぜ!!」
セリフだけ聞くと非常にかっこいいのだが、今回の場合はただの無鉄砲である
……まぁでも俺はここまで椎名のことをぼろくそ言ってきたが、正直椎名の考えも分からなくないなと思っていた
何せ俺も二年後の事なんて分からないと進路調査票に万里紗と結婚すると書いた口だからだ、つまり結局俺も進路のことは何も決まっていないに等しい、それは万里紗も同じことだ
「じゃあさ参考に教えてよ、進路調査票に二人はなんて書いたのさ」
隠すことでもないので素直に答える
「俺は万里紗と結婚って書いた」
「私も同じ」
その答えを聞くと椎名は堪え切れないとばかりに腹を抱えて笑い始めた
「ぷ、あははあははは、あーはははふふふ、どれだけふたり相性良いのさ、それに仲いいのさ、どんな高校一年生だよって話だよほんと……あーそう言えば水上がちょっと前に先生に呼び出されていたけどもしかしてそのことでなの?」
相変わらずこいつは妙に記憶力と洞察力がいいんだよな、よく分かるなと思う
「あーそうだよ、先生に呼び出されてなんか説明させられた」
「そりゃそうだよ、誰がその内容で納得するんだってね……まぁでも良かった結局二人もまだ将来のこと決めてないんだね、良かった仲間がいて」
「椎名……」
成程な、こいつもなんやらかんやら言って、一応は自分の将来のことを気にしていたようだ、普段はかなり適当だが大事なところではしっかり考えているからこそちゃんと今までやってこれたんだろうな
そう考え椎名の評価を上げていた俺だったが。ここで万里紗が椎名に思わぬ質問をした
「香帆、もう一つ聞くけどそれの提出時間は何時まで?」
「ん?えーと確か、八時までだったかな、だから今日は早く家を出たのよ」
……ん?俺と万里紗はその椎名の言葉を聞き顔を見合わせる、それから時刻を確認する、文字盤には8時17分と表示されていた
「「はぁ」」
二人でため息をついた後、俺と万里紗は同時に叫んだ
「もう提出時間とっくに過ぎてるぞこの馬鹿!!」「もう提出時間過ぎてる」
「ん?あ、ほんとだね、あははは、でもいいじゃんどうせ白紙なんだし時間内に出しても出さなくても変わらんさ」
前言撤回こいつは何もかも滅茶苦茶な奴だ、しっかりしてるところが一つもない
既に遅れていることを知りながらも高らかに笑いながらのんびり歩いている椎名を前にして俺は先ほど上げたばかりの評価を急降下させていた
どうもロースです。
お読みいただいてありがとうございます。
というわけで新キャラです、ポジション的には女子版の泰輔ってところですね
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