昔話後編
「今となっては馬鹿らしいことしていたなーぐらいなもんだけど、何せその時はからかわれないように必死だったから万里紗と関わらなければからかわれることないって本気で思ったんだよな……あ、でも誰も見ていないところではそれまで通り万里紗と接していたけどな」
「それは何とも言い難いな……無視したら駄目だろって気持ちもあるけど、俺がもし千里と同じ状況になったら無視しないでいられるかと聞かれても確証は持てないからな……ほんと今なら適当に受け流して終わりなことなのにな」
「そういうこと、言い訳になってしまうけどあの歳でからかわれて平気な奴はほぼいないと思う」
ここでもう一度万里紗を見てみるが、特に意を介さず俺と泰輔の話を聞いているだけだった
なので気にしないで続きを話すことにする
「それでさっきの続きなんだが、最初の方は完全に無視してたわけじゃなくて周りに知ってるやつがいたら喋らないってぐらいだったんだけど、それをすることでどんどん周りの奴もからかわないようになってきたのよ、だから無視することが正解だったと更に思うようになったしまってさ、そうなるとどんどん無視する度合いが増えていったのよ……で最終的には学校では完全に無視するようになってしまったんだ」
泰輔は俺のその時の苦悩を自分に置き換えているのだろう、何とも言えない苦い表情をしている
でもそれは違う、今泰輔が考えないといけないのは別のことだ
「でもな泰輔問題はそうじゃないんだよ、俺はそれでよかったんだよ実際嫌な思いをすることがほとんどなくなったし……問題は万里紗の方だ」
「え?宝野?そりゃ無視されたのは可哀そうだと思うけど……もしかして千里に対して文句とか言ってたのか?」
いまいち意味が理解できていない泰輔は万里紗にそう質問するが、万里紗は反応しない
話は俺に任せてるから自分が話すことは無いと思っているのだ
「いやそうじゃないんだ、というか文句でも言ってくれればよかったんだけどな、なんで無視するんだーてね、けど万里紗はそうしなかった、何故なら昔から賢いやつだったから自分と話すと俺がからかわれて嫌な思いをするっていうのが分かっていたんだよ、だからこいつは俺に一切文句は言わなかった」
俺は万里紗の頭に手を置いた、昔のこととはいえ迷惑をかけたことは変わりない、謝罪の意を込めて頭をゆっくり撫でる
ここで久しぶりに万里紗が口を開いた
「千ありがと、でも千の気持ちもわかるから気にしなくていい、私がそうしたいと思ってやったことだから」
この言葉の意志の強さが分かるだろうか、自分が蔑ろにされているのにも関わらずこんなことを言えるなんてとても小学一年の子供の意志の強さとは思えない、けどそれが出来てしまっていたのが万里紗なんだ
「宝野ってそんなに凄いやつだったのか……いや凄いのはわかった、けど結局何が問題だったんだ?紛いなりにもバランスを保っていたみたいだし」
そう、ここまでは事件でも何でもない、つまりここからがほんとに話したかったことだ
万里紗を撫でていた手を止め、自分の席に深く腰を掛けて水筒から水分補給をする、気が付かなかったが思った以上に喉が渇いていてこのままだと言葉が引っかかってしまいそうだったからだ
「ふぅ、じゃあここからが本題だ……泰輔質問なんだが、さっき俺は万里紗のことを学校で完全に無視していたって言ったけど、じゃあ万里紗はどうしていたと思う?」
「え?どういうことだ?千里と同じように無視してたんじゃないのか?」
突然の質問に戸惑いながら答える泰輔、けど残念それは間違いだ
「万里紗は周りから何を言われようと気にせずに俺のところに来て話しかけてきてたんだよ」
その発言に絶句する泰輔、正直俺でもそう思うだろうな、無視されるのが分かってて何故話かけられるのか
「俺はその時正直万里紗が何を考えているのか分からなかったよ、でもそれで喋ってしまったらまたからかわれてしまうから無視するしかなくて、その繰り返しだったな」
「な、何を考えていたんだ宝野は……流石におかしくないか」
万里紗を得体の知れないものを見る目で見る泰輔、それに少し思うところはあるがまぁこればっかりは気持ちはわかるので何も言わないでおく
「続きを話すぞ」
「お、おう」
なので強引に話を進める
「でもこの時の俺は一つ大きな思い違いをしていたんだ……万里紗を無視することで周りからの被害はなくなっていたと思っていたんだが実はそうじゃなかったんだ、本来俺へと来るはずの被害が万里紗の方に全部行ってたんだ」
「そのクラスにクラスの中でもやんちゃな男子と女子のグループがあってさ、俺もそいつらに主にからかわれていたんだけど、途中で俺が万里紗を無視するようになってからはそいつらは万里紗につっかかっていたんだよ」
「でも万里紗はそのことを全く気にしていなかったのか、それとも気にした上で隠しているのか……どっちにしても俺は全くそのことに気が付いてなくて、そのまましばらくが経ってしまったんだ……そうしていたら遂に事件が起こってしまったんだ」
「その日の放課後、俺はいつも通り万里紗と学校から少し離れたところで待ち合わせしてたんだよ、誰にも見つからないところで合流してその後一緒に下校するためにさ、けどその日はしばらく待っても万里紗は来なくておかしいなと思ってたんだ、それから大体一時間ぐらい待ったところで流石におかしいって思い始めたんだ」
「どうしようとか、もう家に帰っちゃったのかなとか、探しに行こうかと思ったけどここ動かないほうがいいかなとか、6歳なりに色々と考えたのよ、でもそうやってまた時間が10分20分30分と過ぎていくにつれてどんどん不安になっていってさ、でそこでふと気づいたことがあったんだ……俺は万里紗がいないとこんなに不安になるんだって、いつでも俺の横にいるのが当たり前だったけどそうじゃないんだって」
「そこからはもうとりあえず走り回ったよ、後悔で涙をぼろぼろと流しながらさ、なんで無視なんかしていたのか、無視したのが原因で愛想付かされたんじゃないかって次々考えてさ……でもどれだけ探しても万里紗は見つからなかったんだ」
「そこでもう万里紗は俺の事なんてどうでもいいって思ったから待ち合わせ場所に来なかったんだろうなって完全に諦めかけたんだけど……その時ふと万里紗の顔が頭に浮かんできたんだ」
「その顔を思い出した時俺は万里紗を信じきっていないことに気が付いたんだ、何故なら俺が一方的に突き放してしまっただけで万里紗は俺から一切離れようとしなかったからな」
「だから万里紗は来ないんじゃなくて、来れない状況にあるんだなって直感的に思ったのよ、まぁ今思えば誘拐とかも考えるべきだったのかもしれないけど、当時の俺からしたら学校のどこかに閉じ込められているるのじゃないかって思いついたのよ」
「そして一番に思い付いたのが校舎から少し離れた古い体育倉庫、そこは外から鍵をかけるタイプで中からは開けられないから気を付けてって先生に注意されたことを思い出したんだ」
「そしてやっと辿り着いた体育倉庫の鍵を外して扉を開けると……中に万里紗がいたんだ」
「その時の俺の感情の溢れようと言ったらすごかったぞ自分で言うのもなんだけど……けどそんなぐちゃぐちゃの俺とは対照的に万里紗はいつもの無表情でちょこんと座っているだけだし」
「でも万里紗の姿を見たら凄く安心した俺がいて、そしてそれから後悔が押し寄せてきてさ、だからすぐ万里紗に思いっきり抱き着いてしばらく大声で泣いたよごめんね、ごめんねって言いながら、そんな俺を万里紗は優しく撫でてくれてたな」
「で俺の泣き声があんまり大きいものだから、たまたまその近くを通った先生が来て事情を聴かれたのよ、そうしたら万里紗が同じクラスの子に閉じ込められたって言うから、それから先生たちは大慌てで、俺の母さんたちも連絡を受けて直ぐに飛んできて、閉じ込めた本人達とその親と話し合いとかして」
「その辺のことはあんまり詳しくはないんだけど……まぁということがあったからそれから俺は万里紗のことを一番大事に思うようになったんだよ、勿論無視していたことも謝たし、それからは例え周りに何を言われようが万里紗との関係を大事にしようって心からそう思うようになったな」
……ふぅこれで全て話終えたけど流石に疲れた、まぁでもこれで理解はしてくれただろう
だって泰輔は
「うう、ぐす、うわーーなんていい話なんだ、もう途中から泣けて泣けてどうしようかと思ったわぐす」
いやかといってそこまで大泣きするほど感動するか?まぁわかってくれたのならなんでもいいんだけどさ
「あーいやーほんといい話聞けた、あーでもひとつだけ質問良いか?」
ん?なんだろうか
「宝野は体育倉庫に閉じ込められたって言ってたけど、そんなに長い間閉じ込められて怖くなかったのか?」
「あぁそれはな……「いいそれは私が話す」」
ここまで話を聞くだけだった万里紗が割り込んできた、勿論構わない万里紗が話したいのなら俺は素直に引っ込む
「別に怖くは無かった、だから大声を出したりしないで静かに待ってた」
「待っていたって何を……え、もしかして?」
「そう千を、千が必ず来てくれるって分かっていたから」
その万里紗の言葉を聞いて泰輔は苦笑いしながら頷いた、今の答えでは理由になっていないがそう思えるだけの万里紗の俺に対する思いを言葉から感じたのだろう
「そうか、そんなことがあったのか、そりゃそこまで仲がいいのも納得だわ、誰がどう逆立ちしても入る余地がないはずだわ、ありがとうな千里と宝野そんな大切な話をしてくれて」
「ん」
「いいよ、今となってはいい昔話だし、納得してくれたなら問題ない」
キーンコーンカーンコーン
そこまで話したところで丁度授業開始の5分前のチャイムが鳴る
「もうこんな時間か……そろそろ準備しないといけないな、改めてありがとな、じゃあまた後で」
と言い慌ただしく自分の席に戻っていった
「ふう忙しいやつだ、そう思わないか?万里紗」
「ん、だけどいいやつだね」
「それは同感……で万里紗は席に戻らないのか?」
未だに俺の横から動こうとしない万里紗に問いかける、どうやら万里紗は俺に言いたいことがあったようだ
「さっき荒巻に話した中で一つ嘘ついたでしょ」
「……まぁそりゃわかるよな」
「なんで、私の気持ちがわかっているのにわからないなんて言ったの?」
万里紗が言っているのは、万里紗が無視する俺に何故話しかけるのか俺もわからないってところだ
確かにそれは嘘だ、本当は俺は万里紗が何故俺に話しかけ続けたのか知っている
けど泰輔には言わなかった、何故か
「その事は俺たち以外に知られたくない、俺たちだけの感情だからだよ」
そう言うと、万里紗は満足そうに笑顔で頷いた
俺の一番大切な万里紗のその笑顔を見て、万里紗の気持ちを言わなかった選択が正しかったことを確信した
どうもロースです。
お読みいただいてありがとうございます。
というわけで昔話編でした、大体この二人がこういう関係になった理由が分かってもらえたかと思います
いいですよねーこういう二人だけの絆みたいなのって憧れます
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