長い一日 2
椎名の部屋に入った俺が最初に感じたのは、ほんとにこの部屋は椎名の部屋なのかっていう疑問だった
世間一般的に言う女子らしい部屋ではないのだが、少し部屋の中を覗いただけでも整頓されているのが分かる、もっと散らかし放題や言ってしまえば汚い部屋を想像していただけにかなり驚いた
「どう千?驚いた?」
俺が心底驚いているのが手に取るように分かったのだろう、振り向くと万里紗がしてやったりの顔でこちらを見ている
そういや万里紗はこの家に来たことがあるんだっけか、そりゃ知らない人がこの家を見たら絶対驚くからサプライズをしたくなる気持ちも分かるな
特に普段の椎名を知っていれば知っているほど驚きは大きくなるだろう
「ああびっくりしたよ、まさか椎名がしっかりと整理整頓できる奴だったとは知らなかった」
「ん、香帆はやることはやる、けどやらなくていいと自分が判断したことはとことんやらないからだらしないって印象をもたれがち」
「なるほどな、確かにいつも見た目はちゃんと整えているしな……イメージ的には家の中では全裸でいそうに思っていたけど」
「それは流石に酷くないか?、一応私だって花も恥じらう女子高生なんだぞ?」
玄関で万里紗と話していると、恐らくリビングに突き当たるであろう廊下の途中にある部屋から椎名の声が聞こえた、用意をしているのだとすればそこには洗面所でもあるのだろうか
「いや、お前が花も恥じらうタイプであってたまるか、全裸は言い過ぎたけどお前の中身はおっさんだろうが」
「いやいや、私だって一応は気を使っているところはあるぞ」
「例えば?」
「ふむ、それこそ見た目とかは結構気を使っているつもりだがな、一応私は美人の部類に入るとは思っているぞ、何回か告白されたこともあるし……まぁ全部断っているけど」
うーん、何か腑に落ちない気がするがそう言われれば確かにそうなのだ、実際椎名は美人だし、すらっとした体形で性格は男勝りだけど明るい性格で誰とでもすぐに話すことが出来る、大雑把なところを除けば正直モテないほうがおかしいスペックだ、ただ本人が言ったように誰かと付き合ったことは無いみたいだけど
「どうだ?私の事見直したか?ちゃんとやればできる子なんだって」
「子供かお前は……まぁそうだな確かにしっかりしているところはしているのかもな、そこは見直した」
「そうかそうか、それはよかった……とセットは終わったから後は服を着替えてくるよ」
……ん?まだ服着替えてなかったのか?てっきり俺たちを入れたのだから着替えは済ましているのだと思っていたが
がらがらがら、と開いた扉から出てきた椎名の格好を見て俺は愕然とした
まず頭、これは別にいい、今セットしたと椎名も言っていたし確かにいつも通り纏まったヘアスタイルをしている
次に上半身、恐らくパジャマとして着ているのだろう所謂キャミソールと言うやつを着ていた、しかし普通に下着が見えそうなぐらい薄いものだ、だがまだマシであるほぼアウトと言っても差し支えない気もするが
問題は下半身だ、どう見ても下着しか身に着けていない、特に変わったところのない普通の白の下着だが、なんで丸出しなんだこいつは
「お前……さっきの自分の発言を思い返してみろよ、何が花も恥じらう女子高生だ、羞恥心どっかに捨ててきてるじゃないか」
「ん?ああこれのことか、別に問題ないだろ見られても減るもんじゃないし」
「いやその言い回しよく聞くけどさ、思ってる以上に弁解できない言葉だぞ思うぞ」
「まぁまぁ私だって誰にでも構わず見せるわけじゃないから安心してくれ、水上と万里紗だから見られても問題ないと判断しただけだ」
「……そうか」
「はっはっはまぁ気にすることはないよ、とりあえず着替えてくるからこっちに来て座って待っててくれ」
それからほぼ下着姿の椎名に連れられリビングで座る俺たち、椎名はほんとに何も気にしていない様子で自分の部屋へと入っていった
「なぁ万里紗」
「ん?」
「椎名がああいう格好で過ごしていると知ってたな?」
「勿論」
「そうか……で何か考えでもあるのか?」
「ううん特にない、ただ香帆のことをもっとよく知ってもらおうって思っただけ」
よく知ってもらうねぇ……まぁ大体そんなとこだろうと思ったけど、しかし流石にやることが彼女としては大胆すぎやしませんかね万里紗さん
「それに千が香帆のあんな姿を見てもなんとも思わないって分かっているから問題ない」
そんな俺の考えなんて気にも留めていないようだ、まぁそうでなくちゃこんなこと端から企画しないだろうけど
……それにしても万里紗のこの性格は変わらんなぁ、万里紗がこういう行動を取ったってことはそろそろ何か仕掛けてくるかもしれないな、ちょっと用心しておこうか
「お待たせしたな、時間は……うんまだ8時過ぎたところだ、これなら余裕で電車にも間に合うな」
万里里の会話を終えたところで椎名が用意を済ませて部屋から出てきた、先ほどの下着姿とは打って変わってまとも?な服を着ている
「ん、香帆のそのTシャツとズボン、シンプルだけどよく似合っててかっこいい流石」
「ありがとう、万里紗もそのワンピースよく似合ってるよ、水上にでも選んでもらったか?」
「そう、ありがとうでもよくわかったね」
「ふふ水上が好みそうなデザインだと思っただけだよ」
椎名は万里紗の言った通り少しガラの入った白のTシャツに、膝より少し下まであるスキニーのジーンズを履いている、椎名のスタイルが強調されて確かにかっこよく見える
そして万里紗だが、万里紗が今日着ているのはこの間色々な店をショッピングしたときに購入した中の一着で少し青みがかった涼しげな色合いのワンピースだ、そして椎名の言う通り俺が気に入って買ったもので、万里紗も結構気に入ってるのか最近よく着てくれている、それに今は被っていないが麦わら帽子も手に持っているため紫外線対策もばっちりだ
しかしよく俺の好みだとわかったな、やっぱり洞察力は凄まじいな
さてどうせ椎名の家に来たんだからこのまま少しゆっくりしたいところだが、まだ余裕はあるとはいえそろそろ駅に向かわないといいけない時間になってきた
なので立ち上がり二人に声をかけることにする
「さ、じゃあそろそろ行くぞ、もしこれで俺たち三人が遅刻したら泰輔に何言われるかわからないからな」
「ん」
「そうだね、せっかく早めに用意したことだし遅れたら勿体ないな」
俺の言葉に二人は賛同し立ち上がる、そして椎名が戸締りを確認したところで三人で家を出た
「ああそうそう、水上も遠慮なくこれから私の家に来てくれていいぞ、勿論万里紗もだが」
エレベーターに乗っている途中で椎名が俺たちにそう提案してくる
「まぁ確かにな今日はあんまりゆっくりできなかったしまた今度来させてもらうよ、一人暮らししてるなら他の人に遠慮とかしなくてもいいから行くのも気が楽だしな」
「ん、私が用事ある時とかによろしくね香帆、千は意外と寂しがり屋だから」
「いや流石に子ども扱いが過ぎるだろ……まぁでもそのときはよろしく頼むかもしれないけど」
「……やっぱり流石だよ、普通自分の彼氏が一人暮らしの同級生の女子の家に行くって聞いたらいい気分はしないと思うのだが……てことは私の下着姿を水上に見せたのもそういうことか……」
「ん?椎名どうかしたか?」
「いやなんでもない、二人の関係は最高だなって思っただけだよ」
「「?」」
その言葉に俺と万里紗は顔を見合わせる、椎名は何をそんな今更当たり前のことを言っているのだろうか?
そんなことを思いつつマンションの外に出ると、俺たちは日差しの眩しさに目を細めることになった
どうもロースです。
お読みいただいてありがとうございます。
なんか色々してますが椎名と万里紗の仲は普通にいいです、一応誤解されないように書いときます
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