千里と万里紗
「千、今日二人とも出掛けるらしいから、家にご飯食べに行くね」
「おけ、じゃあご飯の時間までに適当に来といてくれ……あ、それだったら早めに母さんに連絡しといてくれ」
「それならさっき了解もらったから問題ない」
「流石、んじゃまた後で」
「ん」
この時間に伝えてくるってことは、多分あいつの親は突発的に出かけたんだろうな……まぁよく変わったことするあの二人だし特に驚きはない
俺たちの会話を聞いていた荒巻が声をかけてきた
「しっかしもう慣れたこととはいえ羨ましいよ、相変わらずの夫婦っぷりだな」
「そうか?俺の感覚としてはお前に接しているのとあんまり変わらんけどな」
「それって多分関係が一周回ったから逆に友達に接するような扱いになっているんじゃないか?だから俺に対する扱いとは決定的に違うと思うよ」
「まぁそう言われれば確かに……なんやらかんやら10年は今の関係を続けてるからな、そりゃ関係性も落ち着くわ」
「改めて聞くと凄いよね10年って、だって人生の3分の2付き合ってるんでしょ?」
「そりゃそう言うと大層に聞こえるけどさ、別によくあることだろそれぐらい」
「高齢の方とかはね、金婚式を上げるころには人生の3分の2ぐらい付き合っているのが普通だから驚きはしないけどさ……けど俺らの年ではなかなかいるとは思えないよ」
「んー……まぁ別にいいじゃんか今更そんなこと、それより早く次の授業行こうぜ遅れてしまう」
「はいはい……あーなんかこんな話してると俺も彼女欲しくなってくるなー、なぁどうやったら付き合えるんだ?」
「……」
……ほんとなら一応彼女がいる身としてアドバイスの一つでもしてあげたいところだが、生憎付き合うためにどうすればいいのかとか経験が無いもので全く分からないから許してほしい
放課後
俺は先生に呼び出されてしまったため職員室に来ていた、原因は俺が先程提出した紙に書いたことだ
俺の書いた内容が納得できなかったみたいで、説明を求められてしまった、俺が弁解すると先生はしばらく頭を抱えて考え込んでしまったが、一応理解してくれたようで助かった
更にいくつか質問をされたが、それらに答えるととりあえず今日は解放してくれた
てなわけで晴れて自由の身となった俺は、他に用も無かったから家に帰ることにする
校舎を歩きながら先程の先生との会話を思い出していた
「にしても進路調査ね、一年生のうちから書かないといけないなんてここから先どれだけ書かないといけないんだか……全く先が思いやられる」
しかもまだ高校に入学してから数か月しか経っていないこの時期にだ、一応進学校みたいだから、生徒に高い意識を持たせたいのだろうけど、まだ二年も先の進路を考えるなんてめんどくさいと思う人がほとんどだろうに……俺は普通の人に比べたら少し例外に当たるのだろうけど
まぁどうでもいいや、今は適当で来年辺りから考え始めても遅くはないだろう
校門まで辿り着き、学校の敷地を出たところで一人の女子生徒が立っているのに気がついた
同じ学年だった気がするけど名前もわからないしスルーでいいか
と結論付けその女子生徒の横を通り抜けて歩こうとした
がっ
「え?」
しかしいきなり腕を捕まれてしまったことにより歩みを止めざるを得なかった
「……」
「……俺に何か用があるなら何か喋ったらどうだ?」
俺の腕を掴んだにも関わらず何故かその女子生徒は俯いたまま何も喋らない、なのでこちらから聞いてみたがそれでも何も反応がない
……うーん無理やり振り払うような真似はしたくないしほんとにどうしようか
「……」
「……」
俺は何でこの女子が腕を掴んできたのかわからないし、その女子は女子で腕を掴んだはいいもののそれからどうしたらいいのかわからくなっているみたいだ
仕方ない妥協案を出してみよう
「取り敢えず腕を離してくれないかな、あんまり人に見られたい光景でもないし」
一応彼女の世間体を気にして提案してみるが、しかし彼女に俺の気遣いは通じなかったみたいだ
「……それは彼女に誤解されるから?」
「は?彼女?……何でここであいつが出てくるんだ?」
「女子の私とくっついてるところを見られるのはあんまりよくないんじゃない?」
「あぁそういうこと……いや一応俺は君のことを心配して言ったつもりなんだけど」
「別にわたしが困ることはないよ、それよりやっぱりこの状況を見られるのはあなたにとっては良くないんじゃない?だから提案なんだけど離してあげる代わりに少し私に付き合っ「ちょっといいか?」何?」
黙って聞いていても良かったが、一つ訂正を言わせてもらおう
「お前が何したいのかよく分からないけど、それに関してお前は残念なことに完全に思い違いしてると言わざるを得ない、だからそんな脅しは全く意味がないぞ」
「……なんでそんなことわかるの?」
俺が食いぎみに否定したことにより、かなり怖じ気づいた様子の女子生徒
というか恐らく自分でも混乱していて何をしたらいいのかよくわかっていないのだろう、人を脅す行為に慣れているようにはとても思えない
まぁでも聞かれたからには答えておこう、正直説明することでもないんだけど
「こんなくだらないことでどうこうなるような関係なら、もうとっくに無くなってるからだよ」
結局最後まで何がしたかったのかよくわからかったその女子は、俺の言葉を聞くや否や、いきなり掴んでいた手を離しそしてそのまま何も言わずにどっかに走っていった
……けど一瞬見えた彼女の顔は今にも泣き出しそうだったので少し罪悪感を覚える、まぁ何が原因かもわからないから慰めることもできない、ていうかそもそも名前すら知らないし
とりあえず顔は覚えたし名前は明日調べたらいいか
「ただいまー」
「あら、おかえり、今ご飯作ってるからもう少し待っててね」
「了解……そういえば ご飯食べに来るんだってな」
「あぁもう万里紗ちゃんなら来てるよ、千里の部屋にいるわ」
「もう来てたのか…というか確かに玄関に靴あるわ、んじゃちょっと部屋いってくる」
「はいはーいご飯出来たら呼ぶね」
家に帰ってきたが母さんと少し話した俺は、既に万里紗が自分の部屋にいることを知る(因みに万里紗はこの家の鍵を持っているから何時でも出入りできる)
なので二階にある自分の部屋まで来たのだが扉は閉められていた、まぁどうせ中にいるやつが自分の部屋のように過ごしているのだろう
……因みに俺も逆にあいつの部屋を自分の部屋のように使っているからどっちもどっちである
「万里紗入るぞ」
「……」
どうせ聞こえていないんだろうなーと思いつつ、一応声をかけてから扉を開ける
部屋の中を見ると、案の定ヘッドホンをつけながら一心不乱にゲームをしている万里紗の姿があった
ゲームが写っているテレビの画面を見ると、対戦の途中のようだが、どちらのキャラクターも後1ストックしか残っていない、だからすぐ終わるだろうと判断し気付かれないようにこっそりと座り観戦することにする
「ああくそう、負けてしまった」
やはり直ぐに勝敗がついたようだ、しかさ惜しかったが負けてしまったので負けた直後からぶつぶつと何か悪態をついている
そんな調子だから万里紗は俺が帰ってきていることに気が付いてないようだ、なので少し悪戯をしてやるとしよう
立ち上がり万里紗の後ろまでこっそりと移動する、しかしこれだけ近付いてもヘッドホンをしているから全く気づく様子がないな
と、いうわけで遠慮なく無防備な彼女の弱点を攻めさせてもらう
「おら、何好き勝手に使ってくれてんだこれでもくらえ」
勿論本気で言ってるわけではないただ適当な理由を言ってるだけだ
けど悪戯はマジでやる、狙うのは万里紗の脇だ、シンプルなくすぐりだけど万里紗に一番効く攻撃でもある
「ぎゃーーびっくりした、せんか…て、ちょ、まてまてまてあはははは、ほんとにそ、それやめてくれ、あははははきついきついきつい、はなせーせんーーーーーあははははは」
「おー頑張れ頑張れ、ほら逃げればいいだけだろ……ん?逃げないのか?なら続けてほしいってことだな」
「はぁはぁふ、ふ……いや待ってほんとに動けない、ち、力が入らないんだけどあははは」
それから30秒ほどくすぐったところで離してやる、もう少しやっても良かったが結構苦しんだみたいだし許してあげるとしよう、にしてもほんとにくすぐりはよく効くよな、これからも存分に頼らせてもらおう
一方万里紗は解放されたはいいもののまだ息が整っておらずぜぇぜぇ言ってる
しかしその状況でもなんとか恨み言を言ってくる
「はぁはぁ……ほんと死ぬかと思った、というか千、なんでいきなりくすぐってきたんだ、私が苦手なの知ってるのに」
「勿論知ってるからこそだろ、俺の弱点も知ってるんだしそれでおあいこだ」
「それは確かにそうだね、でも近い内にやり返すから覚えといて」
「やなこった」
因みに俺の弱点は……まぁここは言わないでおこう、ほんとに苦手なのだ
「でも今はいい……それよりご飯までの間このゲームで対戦しよう、あれからかなり強くなったから今日こそ負かすよ」
「おーいいぞ、でもさっき負けてたやつが言っても説得力がないなぁ」
「くっ、それはやってから判断してもらおう」
それから母さんに呼ばれるまで対戦をして盛り上がった
……え?戦績?勿論俺の全勝だよ
「はーいお待たせ、今日はカレーを作りましたー、いくらでもあるからおかわりしてね二人とも」
「はいよ、じゃあ頂きます」
「ありがとう光代さん、頂きます」
今日のご飯はカレーだったようだ、さっきまでゲームで負けて悔しそうだった万里紗も大好物のカレーを前にすると自然と笑みがこぼれる、勿論俺も大好きだ
因みに味は大分甘口である、二人とも辛いものは苦手だからだ
ある程度食べ進めると一息つこうと思ったのか万里紗が会話を始めた
「そういえば千さ、今日職員室に呼び出されていたけどなんでだったの?」
「あぁそのことか、いやさ今日提出した進路調査あるじゃん、あれの内容がなんか駄目だったみたいで呼び出されてたのよ」
「あーそういえばあったね、でもなんて書いたら呼び出されたの?私たちのクラスで一人だけだったでしょ?」
「あらそんなに変なこと書いたの?あんまり先生を困らせたらダメよ」
「いや別にそんなに変なことは書いてないぞ、ただまぁ高校卒業したら何したいとかまだ何もなかったから、とりあえず万里紗と結婚するとだけ書いた」
俺の発言を聞いて二人が固まってしまった
どうもロースです。
お読み頂いてありがとうございます。
いきなりですが新作の投稿です、ほんとに緩い日常を書きたく作ってみました。
一心同体と言ってもいいほど、仲のいい?二人のほのぼのをご鑑賞ください、では。