79話:ロマーナの決意【イラスト有】
『コンコンッ』
部屋にノックの音が響く。
リヴィが扉を開けると、四人が入ってくる。
フェイ、カトル、ポル、ロマーナ? だった。
ゼムからロマーナの事は聞いていたが屍人族だったか。
「おかえりッス。迷惑かけてごめんなさいッス」
四人を見たミャオはベッドの上に座り、謝る。
「「「え?」」」
ポカンとするフェイ・カトル・ポル・ロマーナの四人の視線が自然とシンクロし、ミャオから俺に移る。
「おかえり」
溶岩炎竜からグレミーの顔を返してもらった後、今後の話を進めた所で一度屋敷に帰って来てみればこんな状況になってて頭を抱えたものだ。
俺の姿を見た瞬間フェイ、カトル、ポルの三人が目を潤ませながら抱き着いてくる。
「タスク兄、ミャオ姉……ごめんなさい。俺たち……」
「何で謝ってんの? ゼムに聞いたぞ。ミャオのために頑張ってきてくれたんだろ?」
「うん……」
「なら後悔すんな。それに元はと言えばミャオに仕事を頼んだ俺が悪い」
「それは違うッスよ! アタシが駄々捏ねたからッス! リヴィとあのウサギさんまで巻き込んで……」
ウサギ? ウサギって何だ?
俺はミャオたちの話をザックリとしか聞いていない。
だが、聖国にはミャオより強い奴が居る事はわかった。
それだけでもいい情報を持って帰って来てくれたというものだ。
だが、ソイツは俺に喧嘩を売った。
どこの誰だか知らんが覚悟しとけよ。
「とにかくだ、ミャオはさっさと本調子に戻せ」
「もう大丈夫ッスよ! ほら! この通りッス」
ベッドの上でバク転するミャオ。
すると、真っ赤な顔をしてすっ飛んできたリヴィがミャオを叱りつけていた。
「お前らもいつまでも引っ付いてないで離れろ」
「嫌だ」
「嫌デス」
「やーだね」
ええい、鬱陶しい。
だが、あの『哮る枯れ井戸』に行ってたみたいだし、一筋縄ではいかなかったのだろう。
なんせ、クソ運営が設定したギミックでしか破裂蛙は討伐できないのだから。
馬鹿正直に殴っているとHPが一定値を下回り破裂する。
だからといって、破裂する前に腹を破けば毒粉が舞い粉塵爆発をお見舞いされるという、なんともいやらしい魔物だ。
その上、この子達が狙っていた花が寄生した個体というのは、難易度五等級並みのステータスに加え、出現率5%という鬼畜仕様だ。
心折れてなくて、そしてなにより無事でよかった。
そんな事を思っているとロマーナから話しかけられる。
「キミは何者だ?」
「ああ。初めましてだったな。この屋敷の主であり『侵犯の塔』のタスクだ」
「わたしはロマーナ。早速だが質問をしてもいいかな?」
「いいけど?」
「『侵犯の塔』とは?」
「俺たちのクランだ」
「なるほど。次、どうやって彼女の毒を治したのかな?」
「解毒ポーションだ」
「ほう。キミは噂の上位職とやらだったりするのかい?」
「違う。俺は最上位職だ」
眉を顰め、訝しげに俺を見るロマーナ。
眼球だけを動かし、全員を一瞥した後、口を開く。
「嘘をついている様子はない、周りの反応から見ても真実だと判断する。だが、最上位職とは聞いた事も無いね」
「ステータス見るか?」
「いや、結構。ステータスというもの自体、見たくもない程嫌いなんだ。そんなものに作れるものを縛られなければならないのかと考えると心底虫唾が走る」
ステータスが全てだと言っても過言ではないこの世界でその言葉を言い放つか。
もちろんステータスに縛られない生き方をしている者は数多く存在する。
だが、ステータスを生かしている人に比べたら天地ほどの差が出るのもまた事実だ。
「ステータスを上げることで作れるものが増える事はいい事だとおもうが?」
「ステータスをいくら上げたところで作れるものは増えやしない事は実証済みだ。最初から何でも作れる最上位職様という恵まれた環境のキミにはわからない事だろうがね」
実証済み、か。
だが、何か勘違いしているようだ。
「今の言葉を二つだけ訂正させてもらうぞ。まず一つ目、最初から何でも作れると言ったが、ミャオに使った解毒ポーションは知人からの貰い物で、俺は騎士職だ」
ロマーナの眉がピクリと動く。
やはり、俺を調薬師の最上位職とでも思ってたか。
「二つ目、俺は生まれた時から最上位職と恵まれていた訳じゃなく、下位職から上げただけだ。ポイントを割振るだけがステータスを上げることじゃない。誰しも昇格という上位職や最上位職にステータスを底上げする方法がある」
俺の言葉を聞いたロマーナは固まっていた。
少しするとガサゴソと魔法鞄を漁り、ボロボロになった一冊の本を取り出す。
そのまま俺に近付くと本をパラパラ開いた。
驚愕した。
辞書ほど厚い本にはビッシリと調合レシピが書き込まれていた。
それも下位職では作れない上位の調薬レシピ。
中には最上位の物も混ざっている。
何故、知っているのかはわからない。
わからないが……面白いな、こいつ。
ロマーナか。
この人材は絶対に『塔』に欲しい。
何故か? 本が全て手書きだったからだ。
下位職でどこまで調べたらこのレシピが書けるというのだ。
それに、俺が見た事もないようなレシピも書き込まれている。
間違いなく天才……いや、違うな。
恐らくこれは後天的な物。
秀才というやつか。
ボロボロの本を見るあたり、相当努力してる。
本を読んでいると、黙っていたロマーナが口を開く。
「タスク。昇格とやらをする事が出来れば、ここに書いてある物を作れると思うか?」
「ところどころ素材が間違っている。だが、中には作れるものもある」
それを聞いたロマーナは再び黙り込む。
すると俺の目を真っ直ぐと見た後、ロマーナは頭を下げた。
「頼みがある。わたしを『侵犯の塔』に加入させてくれ」
は? 今なんて言った? 『侵犯の塔』に加入させてくれ? そんなもん――大歓迎に決まってるだろ。
「理由は?」
だが、興味本位で聞きたくなってしまった。
ロマーナは間違いなく逸材だ。
俺が逃がすはずがない。
ロマーナが言わなかったら俺が勧誘していた所だ。
どんな返答が来ようが断る気など無論、無い!
「わたしの宿願を果たす為。今、『侵犯の塔』に在籍している調薬師以上の活躍を約束する。戦力外だと思ったらいつでも除名してくれて構わない。だから、頼む」
宿願……ね。
恐らくロマーナはステータスなどに縛られることなく、自分が考えた物を作り出したいのだろう。
いい! いいね! 俺が欲しかったあの職にピッタリハマる。
「わかった。それじゃあ、これからよろしく頼む」
「こちらこそだ」
「因みに、『塔』に調薬師は在籍してないからな」
「なんだと? 先ほど解毒ポーションを知人に貰ったと言っていたはずだが? クランメンバーではなかったのか」
「そうだ」
こうして、ロマーナが『侵犯の塔』に加入することになった。
屋敷に居る全員をダイニングに集め、ロマーナが加入することを伝えるとミャオの件もあってか、反対する者は誰もおらず快く迎え入れた。
「タスク。早速だがお願いがある」
「なんだ?」
「わたしの研究室が欲しい」
二階に一部屋余ってた筈だが、このままだと部屋数が足りなくなる。
どうするかなあ。
少なくとも、フェイパーティの新人二人分と遊び人の分の三部屋か。
「改築するかあ」
アンとキラがカチンと固まった。




