78話:寄生された蛙
~Side:カトル~
現在、『哮る枯れ井戸』の奥地にいる。
それもボス部屋とは真逆の場所。
『哮る枯れ井戸』はフェイが以前行ったことのある『神秘の溟渤』と同じ迷宮型のダンジョンだと言っていた。
因みにボス部屋自体は、ひたすら歩きまわっていた時に見つけたけど俺たちに用はないので無視した。
そして……ようやく見つけた。
今まで戦ってきた破裂蛙と姿形は変わらない。
だが、一つだけ決定的に違うところがある。
ギョロリと飛び出た両目の間、眉間に小さな白い花が生えている破裂蛙。
「フェイ、ポル、戦闘準備!」
フェイがバックラーを前に構えると『ナイトハウル』を発動させ、同時にポルがミスリル製の糸を指から垂らして駆け出した。
「花が生えているのは初めてだ! 初戦だと思って油断せずにいくぞ!」
「ハイ!」
「りょーかい!」
俺たちを敵だと認識した寄生蛙は、舌を伸ばしてくる。
「フェイ、前進! ポル、斬!」
俺の掛け声に合わせ、二人が動く。
その刹那、前進しながらバックラーで舌を弾こうとしたフェイの腕が後方に弾かれた。
「なッ!? フェイ、大丈夫か!?」
「大丈夫デス!」
考えてはいたが、やはり寄生蛙は破裂蛙とは違うのか。
それなら――戦い方を変えるだけ。
タスク兄が言ってた。
戦況把握は誰かがしなければいけない仕事なんだって。
俺はフェイみたいに皆を守る力はない。
俺はポルやデスビィみたいに敵を倒す力はない。
でも、俺はこのパーティで戦いたい。
だから……その仕事は俺がやる!!
「フェイ、出来る限りランページを使用して回避! 弾くのは最低限! 今までとは威力が違う!」
「ハイ!」
「ポル、無理は承知でデスビィを呼べないか?」
「やってみる!」
足を止めたポルは祈るように両手を合わせ、願う。
「さっきはごめんね……。来て? デスビィくん」
一瞬の静寂。
ポルの表情が少し暗くなる。
その足元でモゾモゾと何かが動いた。
デスビィだ。
まだ本調子ではないのか、翅を畳んだまま六本の脚で器用に地面を這っている。
「デスビィくん! さっきは、ごめんね!」
気付いたポルは一目散に抱き着く。
抱きしめられたデスビィは応えるように前脚を二本上げ、ポルの背中へとまわした。
「ポル、悪いが後にしてくれ! それと、効くかわからないけどコレを使え!」
ポルに向かって一つのポーチを投げる。
シャンドラの屋敷を出る時に、リヴィ姉が渡してくれた切り札だ。
タスク兄が念のためにと、リヴィ姉に持たせていた治癒ポーションだと聞いている。
ポルやフェイのピンチに使おうと思っていたのだが、この機を逃せば次いつ寄生蛙を見つけられるかわからない。
出し惜しみする余裕なんてないんだ。
早速、中を確認したポルは治癒のポーションを取り出すと、栓を抜きデスビィの口へと運ぶ。
その時、鈍い音が響くと共にフェイのバックラーが宙を舞った。
「フェイ、無事か?」
「大丈夫デス。初めて見る攻撃デス」
「ああ。俺も見てた」
ポルにポーチを渡しながらもしっかりと戦闘は視界に入れていた。
寄生蛙自体は舌を伸ばすか、突進してくるか、腕を振り回すだけと今までの破裂蛙と変わらない攻撃パターンだったのだが、あの花が液体を吐き出したのだ。
それを咄嗟に『ランページ』の突進を利用して回避したフェイのところに、寄生蛙の攻撃が飛んできた。
敵は二体と考えた方がよさそうだな。
チラリとポルの方を一瞥すると、デスビィは元気そうに飛んでいた。
自然とポルの調子も上がってきているように見える。
「よし! ポル、デスビィ、戦闘準備!」
ポルとデスビィに指示を飛ばした後、バックラーを腕に付け直したフェイに指示を飛ばす。
「フェイ、出来る限り時間を稼いでくれ! だけど無理はするな!」
「ハイ!」
「ポル、斬! デスビィ、飛針! 攻撃を抑えつつ狙いは蛙本体だ」
「ほーい」
二人と一匹が戦っている間、指示を飛ばしつつひたすら考える。
これが俺の仕事だ。
どうやったら破裂す前に倒せる? パンパンになった硬い腹が関係しているのか? 腹を破ったらどうなる? 中身は? 十中八九、あの霧、それも恐らくは毒。
やってみる価値はある。
「フェイ!」
「ハイ?」
「あの……ッ!!」
いや、待て。
それをすれば近くに居るフェイは霧にやられてしまう。
ダンジョンに入る前に確認したフェイの<MEN>はミャオ姉と同じDだ。
あの霧が毒だったと仮定するなら、フェイもやばい。
だけど、口と鼻を塞げるアレを使えば……。
いや、ぶっつけ本番じゃ危険すぎるな。
それなら、別の作戦を――。
「……カトル? ワタシは何でもやりマスよ?」
寄生蛙の攻撃を凌ぎつつ、心配そうな目で俺を見る。
フェイはいつも頼りになるな。
それに比べて俺は……頼りなくてごめんな。
もっともっと、強くなるからさ。
待っててくれよ。
大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「フェイ、――――!」
「ハイ!」
「ポル、デスビィ、――――!」
「りょーかい!」
………………。
…………。
……。
俺たちが『哮る枯れ井戸』を出た時、既に夜の帳が下りていた。
ダンジョンの前にはロマーナさんが立っており、俺たちの姿を見て話しかけてくる。
「無事そうで何よりだ。成果は聞くまでもなさそうだが、生きて戻れたというだけでも儲けものと考えるべきだ。キミたちに死なれてはわたしも困る」
空は雲一つなく星が輝いている。
それとは逆で俺たちの表情は曇っていた。
「まだ、明日もありますから」
「やめておいた方がいい。あのミャオという子が大切なのだろう? それなら最期くらいは一緒に居てやるべきだと思うが?」
最期。
俺たちが失敗したから……。
フェイは下唇を噛み、ポルは俯いている。
みんなわかっているんだ。
集中攻撃したのに、寄生蛙の腹は破れなかった。
俺たちだけの力で破れる気がしない。
その方法が正しいのすらかもわからない。
結局、破裂させてしまい次を探したが見つけることが出来なかった。
「キミたちの努力はわたしが知っている。次があるなら大切な人を亡くさない努力をするんだな」
それだけ言うとロマーナさんは踵を返した。
少し歩くと足を止め、俺たちに告げる。
「必ずわたしが助けると言ったんだ。わたしがこんな草臥れた村でただ惰眠を貪っていたと思っているならそれは間違いだ。必ずわたしが助けてやる」
俺たちが顔を上げると、既に歩き出していたロマーナさんは闇の中へと消えていった。
その後、テントに戻った俺たちはすぐに寝る……事が出来なかった。
悔しい。
タスク兄たちに俺たちだけでもやれるって所を見せるつもりだった。
だけど、タスク兄が言うように俺たちだけじゃ足りてない。
経験も、知識も、力も、努力も、何もかも。
難易度四等級でこれなんだ。
タスク兄たちが居る、難易度六等級なんて夢のまた夢だ。
「起きてるか?」
「ハイ」
「うん」
「ゼム爺とリヴィ姉がついてくるって言ったの断ってごめん。俺たちだけでも出来るって思って意地になってた。そんな事、言ってる場合じゃないのにな」
「カトルだけのせいじゃないデス。ワタシも言わなかったデスから」
「そーだね。それに私も大丈夫って思ってたし」
「……強くなろうな」
「……ハイ」
「……うん」
「……もっと強く」
その後は眠ることが出来ず、気付けば朝になっていた。
こうして俺たちだけのダンジョンは敗北で幕を閉じた。
近くの街で馬車に乗り、揺られながら帰っていく。
シャンドラの屋敷へと。
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