74話:森の平屋
~Side:フェイ~
「森だー!」
ポルが森を見て、ウキウキとしながら叫ぶ。
私たちは商人ギルドで貰った地図を片手に、王都シャンドラ近郊の森の入口までやってきた。
時刻は昼過ぎだが、森の中は日の光が葉で遮られており若干暗くなっている。
「ゼム爺。本当にこんな所に人が居るんですかね?」
「わからん。じゃが、ヘルカスが嘘を吐くとも思えん」
タンクである私を先頭に、全く整備のされていない獣道を草を掻き分け進んでいく。
私の後ろでカトルとゼムさんがそんな会話をしていた。
話声を聞いて、小鬼や森狼などの弱い魔物たちがこちらを窺っていたが、襲ってくる気配などは全く無かった。
というのも、弱い魔物というのは自分が弱い事を自覚しているので人を警戒するが襲わない。
だが、餌がないなどのどうしようもない場合、人里まで降りてきては畑や家畜を荒らす事がある。
その結果、冒険者に依頼が来て、狩られてしまうが。
可哀想だとは思うが仕方の無いことでもある。
だけど、今は魔物退治に来たわけではないので、わざわざ追いかけてまで狩ったりはしない。
その後も数十分歩き続けた所で、森に入ってからずっと黙っていたポルが声を上げる。
「虫がいなーい! 疲れたー!」
「ポル! ミャオ姉のためなんだぞ!?」
「そーだよね。ミャオ姉のためにがんばらないと――」
「エッ!?」
二人の会話を遮り、私は足を止める。
後ろに居たカトルは私の後ろで武器を構えた。
「敵か?」
「い、家がありマス」
私の視界に入っていたのは、レンガ造りの平屋。
森を抜けたわけではないので、辺りには草木が青々と生い茂っており薄暗い。
そんな中、不気味にも平屋の扉は薄ら開いており、『キィ……キィ……』と音を鳴らしながら揺れていた。
「もしかして、あの家……じゃないよな?」
「わからないデス」
「地図によればこの辺じゃな。あそこ以外にないじゃろ」
「おっきな蜘蛛とか、いそーだね?」
「「「……」」」
冗談じゃないっといった表情で全員がポルを見る。
その刹那――。
『ギャアアアアアアアアアアアアアア』
叫び声のようなものが平屋の方から聞こえてきた。
全員の視線が平屋に釘付けになる中、建付けが悪いのか『ギィィィ』という音を響かせながら扉が開く。
すると、平屋の中から身の丈に合っていない白衣を纏い、顔にはガスマスクを付けた紫色の髪をした女性が出てきた。
その手には先ほどの悲鳴の主であろう一匹の小鬼の腕が握られており、引き摺られている。
ガスマスクの女性は私たちに気付くと引き摺っていた小鬼をポイっと投げ捨てた。
そして、そのまま速足に近寄って来ると、私の顔をまじまじと覗き込む。
「あ、あの……近いデス」
「シュコー。可愛いね、キミ。シュコー。粘体族とは珍しい。シュコー」
「おい! フェイから離れろよ!!」
カトルが私を引っ張ると、庇うように前に出る。
「シュコー。おっと、悪かったね。それで? わたしに何か用かな? シュコー。こんな所まで来るんだ。何か用があって来たんだろう? シュコー」
「お前!! 人と話すときくらいその気味の悪いマスクを取ったらどうだ!?」
「シュコー。なぜだ? わたしにはまだやるべき事があるんだ。シュコー。わざわざキミたちの用を聞くためだけにマスクを取って、後からまた付け直すなんて非効率的じゃないか? 少しくらい無い脳で考えなよ。シュコー」
「なッ!? おま――」
言い返そうとしたカトルをゼムさんは制止する。
「悪かった。ワシらはヘルカスにお前さんの事を聞いてきたんじゃが、力を貸してほしい」
「シュコー。うんうん。端的でいい。シュコー。で? 具体的にわたしは何をしたらいいんだ? シュコー。わたし的にはそこまで話してこそ完璧だったかな。シュコー」
「仲間が毒に侵されておる。解毒方法が知りたいんじゃ」
「シュコー。神殿や病院じゃあ手に負えなかった毒ってとこかな? シュコー。興味もあるし、手を貸してあげてもいいんだけど、今から少しやる事があってね。シュコー。それが終わった後でもいいかな? シュコー」
その言葉を聞いたカトルは、額に青筋を浮かべながらで声を荒げる。
「人の命が掛かってるんだぞ!?」
「シュコー。わたしの知らない人なんかより、わたしの研究の方が大事に決まってるだろ? シュコー。それが不満なら大人しく帰ったらどうだい? シュコー」
カトルはグッと拳を握り、下を向く。
「やる事って何じゃい?」
「シュコー。草花やキノコの採取だよ。シュコー」
「それが終わったら力を貸してくれるんじゃな?」
「シュコー。構わない。だが一日じゃ終わらない。シュコー。そうだね、一週間後くらいにまた来なよ。シュコー」
「……必要な物を全て、これに書いとくれ」
そう言いながらゼムさんはガスマスクの女性に紙と羽ペンを押し付ける。
渋々と受け取ったガスマスクの女性は首を傾げながらも、スラスラと紙に文字を書いていた。
書き終わった紙をゼムさんに返すと、目だけを動かし紙を読んでいく。
すると、踵を返しポルに向けて口を開いた。
「嬢ちゃん。出番じゃ」
「まかせてー」
ガスマスクの女性は黙ったままポルとゼムさんを見る。
「……力を貸して?」
ポルの澄み渡るような声が静かな森の中に響き渡った。
すると、地面から、森の中から、空から、四方から、様々な小虫の大群が現れた。
その光景を見たガスマスクの女性はガスマスクを勢い良く投げ捨てる。
露になった顔には斜めの縫い目があり半分が白藍色、もう半分が浅縹色。
よく見てみると白衣の下から覗く太ももにも縫い目が付いている。
すぐに理解した。
私は知っている。
この人、魔人種……屍人族だ。
あの時ヘルカスさんが私を見て「問題ない」と言ったのはこういう事だったんだ。
屍人族とは見た目だけ見れば不死種と間違われることがある。
だが不死種とは全く異なり、痛みや死ぬことも普通にある。
しかし、同じところもあり食事や睡眠が不要だ。
屍人の女性が口を開く。
「なんだ? これは……。キミは虫を操れるのか?」
「操れないよー?」
屍人の女性の質問に答えた後、ポルが「おねがい」とだけ言うと小虫の群れは森の中へと一本の列を作った。
「フェイ。カトル。いこー?」
「ゼム爺! 行ってきます!! 待っててください!」
「行ってきマス」
「気を付けていくんじゃぞ」
私はカトル、ポルと一緒に森の中へと駆け出した。
虫の作った列に沿って走っていると、淡いピンク色の花が咲いていた。
それを千切ると、小虫はまた別の方向へと列を作る。
ポルのスキルは本当に凄い。
だけど、このスキルを使って契約虫を探す事は何故か出来ないらしい。
だからこそ破壊蜂を探す時はミャオさんに頼ったのだ。
数十分で二十か所ほど周り、私たちはゼムさんたちの居る場所へと戻ってきた。
タスクさんに買って貰った魔法鞄から、紙に書かれていた草花やキノコを次々と出していく。
それを屍人の女性は種類などのが間違いないか一つ一つ見ていき、一度頷くと私たちの方を向き頭を下げる。
「感謝する。キミたちのおかげで採りに行く手間が六日ほど省けたよ。それと……すまなかった」
「「「?」」」
「個人的にキミたちには興味が湧いた。そんなキミたちがとても大切に思っている人をわたしは蔑ろにしてしまった。どうか、許してほしい」
突然の謝罪に静まり返る。
だがそれも一瞬で、その静寂をポルが破った。
「じゃー、ミャオ姉を助けて? ……えっと」
「まだ名乗っていなかったな。わたしはロマーナ。そのミャオ? という人物は必ずわたしが助けよう」
「そーして? ミャオ姉が居ないと寂しいから」
「任せておけ」
ロマーナと名乗る女性は少し待っていろ、とだけ言うと平屋に入っていく。
――数分後。
ロマーナさんは魔法鞄を抱えて出てきた。
そして、私たちはロマーナさんを連れ森の外へと歩き出した。
「それでは助けた後の話をしようか。キミはフェイと言ったかな? 身体を隅々まで調べさせて欲しいのだがいいかな? あ、序でにポル。キミも調べてみたい」
「いーよ」
「嫌デス」
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