67話:ガンディ獣王
~Side:ヴィクトリア~
ギルドへ着くと既にゼファは座っていた。
私に気付いたゼファは立ち上がり、近付いてくる。
「おはようございます」
「ごきげんよう」
スカートの端を軽く摘み、一礼する。
「早速で申し訳ありませんがお返事を頂けますか?」
「私で宜しければ、ご一緒させて頂きますわ」
「それは良かった! お連れの方が見えませんが、今日はご一緒ではないのですか?」
「ええ。お気になさらず」
ニコッと笑顔で返す。
それで納得してくれたのか、ゼファはギルドの外へ向かう。
その後を付いて行くと、ギルドの出てすぐの場所に豪華な馬車が停まっていた。
私とゼファが乗り込むと馬車は動き出した。
「準備が宜しいようですが、私が了承すると確信がありましたの?」
「まさか。了承頂いた時に失礼のないように、と保険を掛けたまでですよ」
「良い心がけですわね」
ゼファはフードとバンダナを取り、ニコリと笑う。
ガタガタと坂道を下り、湖の上に建てられている王城に向かっていく。
そして橋を渡り、立派な階段の続く王城の前で馬車を降りる。
階段を上り歩くこと十数分、大きな両開き扉の前でゼファが口を開く。
「こちらで獣王様がお待ちです」
私が頷くとゼファが扉をノックする。
すると扉は内側から開けられ、レッドカーペットの続く広いホール、謁見の間が広がっていた。
レッドカーペットの先には豪華な椅子が一脚あり、体の大きな獣人が座っていた。
レッドカーペットの左右にはジェラルダラン王国の貴族と思われる獣人が十数人並んで立っている。
私とゼファはレッドカーペットの上を進み、獣王の前で膝を付く。
「面を上げよ」
獣王の言葉で顔を上げる。
目に映ったのは、体のほとんどが人間だが耳が異様に長く垂れている四十代の男性。
そして耳よりも目立つ、長い鼻。
その鼻の横からは猛々しい象牙が伸びていた。
「我が名はガンディ・ド・ジュラルダラン。よくぞ参った」
「私は『侵犯の塔』のヴィクトリアと申します」
私は立ち上がり、スカートの裾を軽く摘みながら一礼する。
ガンディはピクリと眉を動かし、口を開く。
「おぬしの白き瞳、魔人種か?」
「仰る通りですわ。何か問題でも?」
私の問いに獣王は一瞬目を開き、大笑いする。
「ハッハッハ! いや、ない!! 種族など我はどうでもよい! 元より我も人種から見れば化け物ぞ! ……それより、だ。我は“強き者”を連れて参れと申したはずだぞ? なあ? ゼファよ」
大笑いから一変し、殺気すら感じられる視線をゼファに向ける。
ゼファがビクッと体を揺らし、顔を強張らせたのがわかった。
「ぜファ様曰く、私が獣王様のお求めになられた強き者との事ですわ」
ゼファに代わり私が答えると、またも大笑いする獣王。
「冗談であろう? おぬしが強き者には見えぬが?」
「お試しになられますか?」
「それこそ冗談……ではなさそうだな!」
獣王は立ち上がり、一瞬で私との距離を詰める。
250センチはあろう長身から振り下ろされる右拳に、私は『ファスト・ステージ』を発動させ真正面から応える。
お互いの右拳が衝突し、謁見の間に鈍い音を響かせた。
突き出されたはずの獣王の拳は後方へと弾かれ、私の拳は振り抜かれた状態で止まる。
まさか力負けすると思っていなかった獣王はポカンとした目で、後方の自分の拳と私を交互に見る。
周りも静まり返り沈黙が続く中、大きな笑い声が響く。
「プッ……アッハッハッハッハッハ!! 見たか!? 皆の者! 我が負けたぞ! おぬし、ヴィクトリアと申したか? 気に入った!!」
獣王は私の肩を両手でバシバシと叩く。
「お気に召して頂けて光栄ですわ」
「ヴィクトリア! 是非、倅の嫁に来ぬか?」
『獣王様!?』
突然の言葉に辺りの獣人貴族がザワつく。
「たいへん嬉しく存じますわ。ですが、申し訳ございません。獣王様のお申し出にお応えできませんの」
「ぬう。それは残念だ。だが気が変わったらいつでも申してくれ。歓迎するぞ?」
「ありがたく存じますわ」
私と獣王が話していると、王座の一番近くに居た獣人が近付き、獣王に耳打ちする。
すると、獣王は何か思い出したような表情をした後、私に向き直る。
「そうであった! ヴィクトリアよ。我に力を貸してくれんか?」
「私で宜しければ、お力になりますわ」
「うむ。近々、隣国でパーティーが催されるのだが、倅の護衛を頼みたい。ヴィクトリアの実力ならば問題も無かろう」
「騎士の方々はいらっしゃらないのですか?」
本来、王族の護衛は騎士の仕事で、冒険者を使う事など滅多にない。
あったとしても大手クランの者やお抱え冒険者を使うのが一般的だ。
「本来ならば、我も騎士や知人を護衛に出すのだが今は出払っておってな。国を守る最低限の数しかおらん。本当に戦争とは厄介なものよ」
なるほど。
獣王は戦争を良く思っていない様子。
それに、獣王の言葉に頷いている獣人貴族も少なくない。
これなら……。
「恐れながら獣王様。私からもお願いがございますわ。ご子息様の護衛が終わった後で構いませんので、お話をお聞きして頂けませんこと?」
「もちろんだ。いつでも訪ねて来るがよい」
「ありがたく存じますわ」
「うむ。出発は明後日だ。よろしく頼む」
周りの反応も悪くない。
やはり、種族などどうでもよいと言い切る獣王が選ぶだけあって、貴族たちも差別意識があまり無いように思える。
あとは、獣王の子をしっかり護衛してタスクの考えていた以上の成果を伝えるだけ。
その後、少し獣王と話し王城を後にした。
宿へ戻ってくるとロビーにへススが座っており、私を見るなり近付いて来る。
「行ってきたのであるな」
「ええ。依頼を受けて参りましたわ。ですが私一人で問題ありませんのでへスス様は――」
「拙僧も行こう」
私が首を傾げると、へススは続ける。
「主は拙僧に、もしもタスクが行こうと言った時の事を聞いたが、それは主でも同じ事である」
「私が行こうと言えば、へスス様も来て頂けたと仰いますの?」
「無論である」
それは信頼されている、という事? でも、信頼されていたと思うと、少し怖くなる。
今度は私が壊してしまうのではと。
私は心の底から信じていた人達をアイツに壊されて以来、他人を信られくなった。
皆から口を揃えて「タスクが居れば死なない」と言われていたタスク。
三人は何故、そこまで信頼出来るのかわからない。
タスク自身が全てを壊す可能性は絶対にない、とは言いきれないはず。
だからこそ私は利害関係と割り切る。
これが一番傷付かず、私のような存在を生まない。
最善のはず……。
だけど、もしも……。
「どうしたのであるか?」
考え込む私の顔を覗き込むように、へススが問いかけてくる。
「いえ。何でもありませんわ。それではへスス様、依頼の件よろしくお願い致します」
「任された」
へススに笑顔を向け、私は宿の部屋へと戻る。
扉を閉めると不意にティタニア戦が終わった時、タスクに言われた言葉が頭を過ぎる。
(仲間を信じとけ――。)
その言葉は、
「私には重すぎますわ」
読んで頂き誠にありがとうございますorz
少しでも良いと思ったらブックマーク登録お願いします♪
評価の方もしていただけたら嬉しいです( *´艸`)
毎日一話ずつですが更新します!




