雑話:鍛冶師の追憶
『カンカンカンカンカン――』
オレカル鉱石を叩く音が鳴り響く鍛冶場。
「精が出るな」
声のした方を向くと、扉の前にタスクが立っていた。
鍛冶場に顔を出すことは、度々ある。
「何か用か?」
「いや、特にないぞ。アンとキラ待ちだ」
「気楽なもんじゃな。お前さんの大盾は明日には出来そうじゃぞ」
「そうか。楽しみにしてるよ」
二ヤリと笑うタスク。
不敵な笑みにも見えなくはない。
が、これは嬉しい時の顔じゃな。
タスクと会って一か月ほど経つ。
毎日顔を合わせてるだけあって、さすがに見分けられるようになってきた。
「お前さんを満足させるようなもんを作ってやるわい」
「ん。頼む」
そう言ってタスクは手を振り、鍛冶場を後にする。
それにしても――。
ワシがまた誰かのために作ることになるとはな。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
「ゼムさん。そろそろウチに来てくださいよ!」
この男は大手クランの若手冒険者。
ワシを勧誘する為にわざわざ王都シャンドラを訪れている。
何度か訪れてはクランの専属鍛冶師になってくれと言ってきていた。
「何度言ったらわかるんじゃ。ワシはもう誰かの為だけには打たん」
だが、ワシは何度来たとしても首は縦には降らなかった。
「そこをなんとか!」
「帰ってくれ」
「また来ます」
そう言って冒険者の男は出ていく。
「もう来なくていいわい」
一人になったワシはボソリと呟くと、店の奥の居間で寝転がる。
ワシは既に数年、ハンマーを握っていないんじゃ。
…………。
……………………。
………………………………。
十数年前。
まだワシがドワーフの国に居た頃の話。
ワシが出した鉱石採取依頼の時に知り合った二人組の冒険者と仲良くなり、一緒に旅をすることになった。
一人は大きな大剣を使う、引き締まった細身の人種の男、ハイド。
もう一人は短剣を使う小柄で可愛げのあるエルフの女、シーク。
「ゼム、俺の大剣の切れ味が落ちたぁー!」
「ぷぷぷっ。ハイドの切り方が下手なんじゃないの?」
「なんだと? んな訳ねえだろうが」
「じゃあゼムの腕を疑ってるの~?」
「うっ! ゼムの腕は世界一だ。だが俺の腕も……」
「イチャイチャしてないでさっさと貸せ」
ワシはハイドの大剣を引っ手繰ると砥ぎ始める。
その隣で笑っているハイドとシーク。
何年間も見てきた馴染みのある風景。
森の中に居ようが、街中に居ようが変わらなかった。
だからこそ、失った時のショックは計り知れなかった。
旅にアクシデントは付き物だ。
その日もワシらは予想外の出来事に巻き込まれていた。
ハイドの奴が元々運が悪かったのか、こういう事はよくあった。
だが、今回はいつものという話では済まなかった。
ダンジョンの出現。
たまたま訪れていた東大陸の帝都内にダンジョンが出現した。
だが、ダンジョンが出現したとは言ってもダンジョン外に魔物は出てこない。
そう思っていた。
ダンジョンはそんなワシらを嘲笑うかのように。
ワシらだけではなく帝都に住んでいた住人達に牙を剥く。
何もないところに、次々と魔物が現れ始めた。
それも住人の住む帝都内部。
勿論、帝都内は悲鳴と共にパニックに陥る。
そんな中、叫んでいるものが居た。
「みんな! 落ち着いて逃げてくれ! 俺たちが引き付ける!」
ハイドだ。
ハイドは元より正義感の強い男だった。
行く先々で問題があれば頭を突っ込んでいくような男。
「今回は絶対に無理よ! ハイドも魔物を見たでしょ! あんな化け物どうやって引き付けるのよ!」
「わかんねぇだろ! それに、誰かがやらなきゃ犠牲が増えるんだよ!」
「わかるわよ! 私たちが行っても何も変わらないの! いつもとレベルが違うって見たらわかるでしょ!?」
いつもは、やれやれとため息を吐きながらでも付き合っていたシークが激昂する。
それでもハイドは止まらない。
「じゃあ、逃げればいいだろ! 俺は行く!」
「あっ……ハイド!!!」
ハイドはシークとワシを置いて、帝都から逃げ出す人の波と反対方向に走り出していった。
シークはワシの方に振り返り、優しい笑顔で口を開く。
「ごめんね、ゼム。私はハイドのところに行くよ。放っておけないや」
そう言って踵を返し、ハイドが向かった方へと駆けていく。
その背中をワシは見送ることしかできなかった。
レベルの低いワシが行った所で。
鍛冶師のワシが行った所で。
役に立てない……。
そんな言い訳の言葉しか浮かばなかった。
ワシは逃げた。
もしかしたら、生きて帰るかもしれない。
そう思い、隣国のシャンドラ王国に行った。
それから数年経ったが戻ってこない。
ワシは王都シャンドラの地下に、店を構えて待ち続ていた。
店の体裁を保つために飾っておく分の武器や防具は作ったが、それ以来一度も打っていない。
そんなある日の事だ。
店の扉に付けていた鈴が鳴る。
またあの若手冒険者か。
そう思いながら扉の方に目をやると、黒髪黒目のふざけた格好をした男が立っていた。
ワシは思わず「なんて格好してやがる」とツッコんでしまった。
その男は、さも当然のように店内の装備を見始めた。
この店でワシは装備を売買したことはない。
その事を知らずに来た?
欠伸をしながら待っていると男は四つの装備を持ってワシのところまで来た。
大盾、細槍、胸当て、そしてリング。
前三つは前衛職のものだ。
だがリングは後衛職のもの。
なんじゃコイツ? 冷やかしか?
ワシは男に職を聞くと、聞いた事の無い職を言ってきた。
星付きかとも思ったが<騎士>の最上位職という。
それだけでなくワシの事も最上位職だろ、と。
「聞きたいんだが、昇格スクロールを知っているか?」
「なんじゃ? それは。そんなスクロールがあるのか?」
男はため息を吐くと、話を続ける。
「なら、この世界に上位職、最上位職はどのくらいいるんだ?」
「上位職は聞いた事がある。じゃが最上位職なんぞ知らん」
この世界? 何を言っとるんじゃ、こいつ。
ちょっと頭のイカレたやつか?
最初はそう思った。
だが、徐々にそう思わなくなっていった。
男は幾つも質問を投げかけてくる度、所々に出る『この世界』という言葉。
そして、誰も知りえないであろう事を知っている。
真偽はわからないが、難易度十等級ダンジョンの情報すら持っていた。
そしていずれ「挑む」とも言っていた。
この男は本当に……。
そんな男が最後に聞いてきた。
「ヴァレン帝都は?」
心がズキリと痛む。
ハイドとシークが残った帝都。
数年前に亡んだ、と簡単に答えを返す。
そんな答えに男は納得したような顔をした。
帝都の事を何か知っている?
もしかして、この男ならハイドとシークを……。
「お前さんさっきの話は嘘じゃないんじゃよな?」
「ステータス見せただろ?俺は最上位職で、今は1だが100まで上がる」
違う、そっちじゃない。
「難易度十等級に挑む」の方だ。
行くのなら付いて行きたい。
そして、その序でで良いから『ヴァレン帝国』に……。
だめだ、ワシはこの男に付いて行くほどの力はない。
そう思っていると、二巻のスクロールをワシの前に置いて男は言った。
「優秀な人材をこんな所で腐らせとくのは勿体ないだろ? それに断言できる。お前はいずれこの世界で一番腕の良い鍛冶王になる。最悪、死ぬかもしれんが俺についてこないか?」
(ゼムの腕は世界一だ!)
ハイドの言葉が脳裏に過る。
それにこの男は何といった? ついてこないか?
そんなの――行くにきまっとるじゃろ。
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