52話:タスク。
「タスクさん……? 冗談ッスよね……?」
横たわるタスクに向かい、小さく一歩踏み出す。
ミャオ自身の足なのになかなか前に出ずに、体から力が抜けていく感覚を覚えていた。
ヴィクトリアはタスクが目視出来る距離まで近付くと、口に手を当て踵を返し駆け出す。
ミャオの隣を通り過ぎ、『いにしえの皇城』の門を潜り抜け森の中へと姿を消した。
静寂だけが広がる。
ミャオは小さく小さく歩を進め、近付くとタスクの隣でペタンと腰を下ろす。
「またいつもの冗談ッスよね……? アタシを強くしてくれるって言ったッスもんね? 嘘は嫌いって言ったッスもんね!?」
徐々に声が大きく、荒くなる。
横たわるタスクの胸元からは、未だ赤く新鮮な血が滲み地面に溜まっていく。
溜まった鮮血は砕けたミスリルの大盾を赤く染めていった。
「……ッ!?」
ミャオの耳がピクピクと動き、タスクを見下ろしていた顔が勢い良く上がる。
人? の気配。
それもただの人ではない。
感じたことのない寒気と恐怖。
死ぬとすら錯覚するほどの殺気が襲ってくる。
だが上や左右を見渡しても誰もいない。
庭に伸びたアプローチの上に、ミャオとタスクが居るだけ。
殺気で少し冷静さを取り戻したミャオは、魔法鞄から治癒のポーションを全て取り出す。
タスクが戦闘前になるといつも渡してくれる物。
(使わないんッスからいらないと思うッスけど?)
(いいんだよ。念のためってやつだ)
あの時の自分を殴りたくなる。
ミャオは治癒ポーションの栓を噛むと、強く引き抜く。
一本を掛けている間に、片手と口でもう一本あける。
全てを掛け終わった頃に血は止まり、地面の血に大量のポーションが混ざっていた。
気付けば先程感じた殺気は綺麗さっぱり消えていた。
すると、別の気配が近付いて来るのがわかった。
馬に乗り、駆けてくる三人をイーグルアイが捉える。
リヴィとへスス、そして走り去って行ったヴィクトリアだ。
ヴィクトリアが二人を呼びに行ってくれたのだろう。
リヴィとへススは馬から飛び降り、タスクに駆け寄るとタスクの隣に座り込む。
<僧侶>スキル『ハイヒール』:傷の中治癒。
発動、タスクの傷口が徐々に塞がっていく。
ポーションを掛けるだけでは塞ぐことが出来なかったのだ。
「ヴィクトリアさん! ありがとッス!」
ミャオが、頭を下げる。
リヴィも立ち上がるとミャオの隣で同じように頭を下げる。
へススは『ハイヒール』を発動させながらペコリと頭だけを下げる。
「いえ。お礼をして頂く必要はありませんわ」
それだけ言うとヴィクトリアはタスクを見下ろす。
その顔はどこか怒っている様にミャオは感じた。
辺りを警戒しつつ『ハイヒール』を続けて、数十分が経った。
「うぅ……」
タスクが呻き声を漏らす。
声が聞こえたのか周囲を警戒していたヘスス以外がタスクに駆け寄る。
「しっかりするッスよ! 何寝るてるッスか!?」
「……ここ怖い。……早く起きて。」
二人が声をかけ続ける。
警戒していた事も忘れ、大きな声を出す。
タスクはゆっくりと目を開けた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
俺が目を開けると泣いているミャオとリヴィが見えた。
二人と目が合うと俺の胸にダイブしてくる。
え、痛い。
なんで倒れてんだっけ?
視線をずらすと微笑みながら俺を見下ろすヴィクトリアが映る。
微笑んではいるがなんか怖い。
「おはよう?」
ガバッと俺の胸に顔をうずめてた二人が顔を上げる。
その顔はまさに般若のようにキレていた。
「おはようじゃないッスよ! 馬鹿なんッスか!?」
「……馬鹿。」
あ?
あ、そうだ。
景色を見て全てを思い出した。
俺は『いにしえの皇城』に来ていたんだった。
待て? てことは俺を追ってここまで来たって事か? 難易度十等級ダンジョンだぞ? 城の中にしか魔物は出現しないし、外に出ても来ないけど。
下手すれば死ぬかもしれない場所にわざわざ来てくれたのか……。
上体を起こし、全員の方を見る。
「ごめん。頭に血が上ってたみたいだ」
謝るとミャオとリヴィが目を丸くする。
俺が謝ったのが予想外だったのか? 悪いと思えばちゃんと謝るぞ。
「ちゃんと説明してもらうッスからね!」
「……その前にもう出たい。」
ここに居ても襲われることはないと思うが、万が一襲われたら全員瞬殺される。
それに魔素が濃すぎてかミャオたちの顔色が優れない。
ヴィクトリアが汗をかくなんて珍しいことまで起こってる。
俺たちは門から外に出て、転移スクロールを使う。
屋敷に戻ってきた俺は、先に風呂に入って血まみれの体を洗い流すことにした。
「「タスク様!?」」
湯船に浸かりゆっくりしていると勢いよく浴室の扉が開く。
アンとキラが半透明の顔を真っ青にして入って来た。
俺が手を挙げ応えると、みるみる彼女たちの顔が赤く染まっていく。
お、洞窟大猩々の爆発か? とか言ってる場合じゃないな。
プクっと頬を膨らませ、足音はしないがズンズンと俺に近付いてくる。
「タスク様っ? 少しお話がしたいのですがっ?」
「そうですよぉ。そこに座ってもらえますかぁ?」
「今風呂入ってるから。それに全裸だから」
俺は小一時間ほどタオル一枚、腰に巻いた状態で怒られた。
この二人に言ったの誰だ? 覚えとけ。
風呂から上がった俺は私服に着替え廊下を歩いている。
すると、後ろからハンマーが飛んできて俺の後頭部に直撃した。
痛くはないが。
「お前さん。話は聞いたが馬鹿じゃないのか?ワシの作った大盾をこんなにしおって」
ゼムは何処に怒ってんの?
俺の事か大盾壊した事かわからん。
「すまん。頭の中が真っ白だったんだ。後で説明する」
「まぁ、ヘススの時にお前さんが言っておったが、話したくなったらでいいんじゃないか? 大方、お前さんが十等級に拘っとる理由じゃろ?」
頭をぼりぼりと掻きながらそう答えるゼム。
前から思ってたけど、かっこいいこと言うやつだな。
「まぁ、そうだな。でもいずれ話しておくつもりだったし話すよ」
「そうか。というかお前さんなんか変わったか?」
「そうか? 変わってないと思うぞ」
「ならいいんじゃが」
俺とゼムが一緒にダイニングに戻ると、フェイが抱き着いてくる。
心配をかけたようなので頭を撫でてやると、しばらく離れてくれなくなった。
フェイの頭を撫でているとカトルとポルがやってくる。
「タスク兄、死にかけたって本当ですか!?」
「元気そーだね?」
「うん。まぁな。てか誰から聞いたの?」
二人はミャオを指さす。
よし、犯人は特定した。
後で覚えてろ。
と、言いたいとこだが今回だけは良いか。
みんなに話があるからと席についてもらう。
「今から俺が話すのは実際に俺の身に起こった話だ。信じれないなら信じなくていい。だが、これだけは信じてくれ。俺は嘘はつかん」
昔話をした。
俺の生立ちから全て、今日起こった事までの事を全て話した。
隠すつもりは無かったので問題はない。
俺の話を聞いている全員の反応はバラバラで面白かった。
肩が軽くなった気がした。
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