雑話:使用人の追憶
私の名前はジェニー。
金色の髪を左側でまとめてサイドテールにしている女の子。
私の隣に居る銀髪の髪を右側でまとめたサイドテールの女の子はミニー。
良く双子に間違われるんだけど実は姉妹だったりする。
私たちは王都シャンドラで生まれ、捨てられた。
孤児院に入ったのは五歳の時でミニーはまだ四歳。
ここが新しいお家だと聞いた時は、広いお家になると喜んでいた記憶が残ってる。
捨てられたんだと気付いたのは数週間後だった気がする。
そして、十年後。
私が十五歳になったので孤児院を出る事になったのだが、私たちを引き取りたいと言う壮年の男性が現れた、と院長先生から突然聞かされた。
院を出てからは私が働いて妹のミニーを養っていくつもりだったが、メイドとして働くことを条件に引き取ってもらうことにした。
壮年の男性は貴族様で、マルコ様という名前だった。
マルコ様は男爵位で、初代男爵だという。
連れられてやってきた屋敷は二階建てで、豪華な新築だった。
私たちの他に執事さんが一人居た。
名前はロカさん。
ロカさんは元々、腕の立つ冒険者だったらしい。
ある時マルコ様と出会い、スカウトされたとか。
早速、屋敷の中に連れられた私たち姉妹とロカさんにマルコ様は制服である燕尾服とメイド服を数着ずつ渡してきた。
私たち姉妹で一室とロカさんが一室で二部屋も使用人に部屋を下さり、とてもやさしい方だった。
私たちはメイド服に着替え、部屋の外に出るとロカさんも燕尾服を着て丁度外に出てきた。
「初めましてっ! 私ジェニーですっ! 今日からよろしくお願いしますっ!」
「私はミニーですぅ。よろしくお願いしますぅ」
「ロカと申します。私の事はロカとお呼びください」
簡単に自己紹介を済ませた私たち三人はマルコ様の部屋に行く。
ノックをして中から返事が返ってきたのを確認し、中に入る。
「おぉ、待っておったぞ。楽にしてくれ。私は君たちを家族の様に思い生活していくつもりだ」
マルコ様に奥様は居なかった。
今までただ一人努力をし、男爵位に就いたと聞いている。
「ジェニー、ミニー、ロカ。お前たちは得意な事は無いのか?」
「私は庭の手入れなど園丁業務が得意でございます」
「料理が得意ですっ! 院では料理をしてましたっ!」
「申し訳ございません。得意な事は特にないですぅ」
うんうん、と頷きながら話を聞くマルコ様。
恐らくマルコ様は私たちの得意な事は知っているはずだ。
院長先生から私たちの話を聞いていたからだ。
「じゃあ、園丁はロカ。料理はジェニー。掃除をミニーにやってもらおうかな」
「「「かしこまりました。ご主人様」」」
「ご主人はやめて、私の事は名前で呼んでくれないか?」
優しい顔をして笑うマルコ様。
私たちも自然と笑顔が溢れてくる。
それから三年後。
マルコ様はとても優しく、この三年間は毎日がすごく愉しく充実した生活を送っていた。
そんなある日、私たちは屋敷の前に居た。
遠くの街で行われるパーティーに参加するという事で馬車を待っていた。
屋敷の前に止まった馬車はとても綺麗で立派な物だった。
「それじゃ、ジェニ。ミニ。ロカ。行ってくるよ。私が留守の間、屋敷は任せたからね?」
「はいっ! お任せくださいっ!」
「かしこまりましたぁ」
「道中、お気をつけて」
子爵様と同乗して行くとの事だったので、見送りも手短に馬車は発車した。
それからいつまで経ってもマルコ様は帰ってくることは無かった。
数週間が過ぎたある日、屋敷の呼鈴が鳴ったので私が玄関に行くと、騎士の恰好をした人が二人立っていた。
「失礼。ロカ殿はおられるか?」
「はいっ! 呼んでまいりますっ」
私はロカさんを呼びに行き、玄関まで連れてくると騎士の二人とロカさんは知り合いだったようで、最初は仲良さげに話していたが、途中からみるみる顔色が悪くなっていった。
話し終わったロカさんは大きな袋を騎士の人に貰い、ダイニングへと入っていった。
私とミニーはロカさんの後を着いて行くとロカさんはダイニングにあるテーブルの隣で明かりもつけずに蹲っていた。
「「ロカさん!?」」
私たち姉妹が駆け寄ると、ロカさんは顔をあげ、こちらを向いた。
その瞳からは涙があふれ、手にはボロ布のような物が握られていた。
私は、いや、私たちは一瞬で気付いた。
握られた布が何を意味しているのか。
「ジェニ、ミニ、マルコ様が逝去されました」
気付いてた。
握られた布はマルコ様の服の一部。
血で黒ずみ、破れている所を見るに襲われたのだろう。
私たちはロカさんの言葉を聞く前から涙が溢れていた。
絶句する私たちにロカさんが続ける。
「マルコ様が残された物です。受け取りなさい」
中を確認すると、たくさんの宝石や魔石、スクロールなどが入っていた。
売れば一生は遊んで暮らしていけるようなものだった。
「……これはっ?」
「私たちに、だそうです」
ロカさんが渡してきた布の切れ端には文字が書かれていた。
『ごめんね』と一言だけ。
私が三年間見てきた人の文字。
見間違うはずがない。
でも……。
「ロカさんはどうするのですかっ?」
「私はこの屋敷を任されたので、最期まで居るつもりです。ジェニとミニはまだ若い、次の――」
「「いやだ!!!」」
私たちが叫ぶ。
驚いたような表情をしたロカさんは、どこか優しそうな困ったような顔をする。
それから数年後、私たち三人は病に罹り死んだ。
と思ったが、半透明の嘘みたいに軽くなった体の思念体として生まれ変わった。
何故かなんてわからない。
だけど私たち三人はこの屋敷を任されたんだ。
私たちが消えてしまうか、この屋敷が倒壊するまで守り続けよう。
それが私たちにマルコ様がくれた最期のお仕事。
食事も睡眠もいらないこの体は便利だった。
一日中お仕事ができる。
だが、屋敷の外に出られない。
そこだけが不便だった。
道具も使えばどんどん悪くなるし、使わなくても悪くなる。
数年後、どうしようかと悩んでいる時だった。
玄関ホールから物音が聞こえたから向かうとロカさんが倒れており、向かいには黒髪の男と若いスーツ姿の男が立っていた。
私たちは咄嗟に黒髪の男の前に立って叫んでいた。
黒髪の男は私たちの「殺さないで」という言葉にポカンとしていた。
私たちどころかロカさんも殺す気がないという。
するとロカさんが私たちを呼び、今までの流れを話してくれた。
咄嗟の事とはいえ、恥ずかしくなった。
私たちにロカさんが質問を投げてくる。
「あの方は私たちを『雇いたい』と仰ってます。どうしますか?」
私たちは答えることが出来なかった。
私の知らなかった家族の温かさを教えてくれた人。
また大事な人を無くしたくない。
「私はあの方を信じてみようと思っています」
驚き顔を上げると、ロカさんの顔は真剣そのものだった。
「あの方は言いました。俺は死なないと。実際に私を圧倒的な力でねじ伏せて見せました。手も足も出ませんでした」
ロカさんが戦っている所は何度か見た事があるがとても強かった。
動きが早くて見えなかったけど。
そのロカさんにここまで……。
「私はいいですよぉ。道具買ってきてくれるかなぁ? お姉ちゃん、あの人に道具買ってきてもらったらお屋敷もっと守れるよぉ?」
「……そうねっ! 私も賛成ですっ!」
「そこで提案なのですが、私たちは名もなきタルパとなり、あの方に名付けて頂きませんか?」
最初は理解できなかったが、「肉体を持ったジェニーは最期までマルコ様に仕えた」と言われ、心底納得した。
この時、私たちは名前を持たない思念体になった。
黒髪の男は私にアン、妹にキラ、執事にバトラと名付けた。
「「よろしくお願いしますっ! ご主人様!」」
「俺の事は名前で呼べ。俺はタスク――」
(私の事は名前で呼んでくれないか?)
マルコ様と同じで良い人そうだっ。
これからは『アン』としてあの人に仕えてみよう。




