43話:館の主
少し前。
『明月の館』に主は居ないんじゃないかと思っていた。
ダンジョンを購入した場合、侵入者があれば主に通知が行く仕様になっている。
なので侵入者対策として罠を作動させたり、ダンジョン内の魔物をいやらしい配置に置き換えるのが基本的な戦法だ。
だが『明月の館』では人狼たちがただ襲ってくるだけで、人為的な工作は一切見られなかった。
中には侵入者の迎撃を全てAIに任せるプレイヤーは居たので確信ではないが、俺のテンションは明らかに下がっていた。
ボス部屋の扉に手をかけるまでは――。
主であるプレイヤーがログインしてなかったり、フィールド上に出ていて不在だった場合、ボス部屋は開かない仕様になっている。
だが扉は開いた――。
そして今、『明月の館』の最上階のボス部屋。
深紫と白銀のオッドアイの女性がこちらを睨む。
後ろで七人が武器を構える中、俺は口を開く。
「お? 居るじゃねえか、お前話せるか?」
俺は言葉をかけるが、彼女は既に駆け出しており拳を構えてこちらに向かってきている。
彼女の視線は俺の後方。
後ろを一瞥した俺の目には武器を構えている七人の姿が映る。
やっちまった。
言うの忘れてた。
俺はあの女性が『明月の館』の主でありボスではない事を知っているが、他の七人はあの女性が『明月の館』のボスだと思ったのだろう。
このままでは七人が攻撃される。
大盾をインベントリから取り出し『チャレンジハウル』を放つ。
彼女の視線が俺に向いた事に彼女自身が驚き足を止める。
だがすぐに瞳は冷たく冷静な物にかわり、俺を睨み駆け出す。
仕方ない、やるか。
「辺りを警戒しといてくれ」
俺は後ろの七人に声をかけ、ボス部屋に入る。
困惑しながらも頷く七人を置いて駆け出し、彼女に応戦する。
俺の大盾と彼女の拳が衝突し、部屋に轟音が響く。
重い。
間違いなく、<STR>がA近くある筈だ。
下位職の威力じゃないな。
これはプレイヤーの線が濃厚だなぁ。
彼女は後ろに飛び、距離をとると手のひらを俺に向ける。
手から放たれた数本の光の矢が飛来する。
<光属性魔法>!? 近接アタッカーじゃないのか!?
飛来する光の矢を大盾で全て弾き落とすと、攻撃方法を変えてくる。
彼女は片腕を挙げ、手を開き振り下ろす。
すると彼女の指先から三日月状の爪撃が飛んでくる。
<戦士>スキル? こいつ何の職業だろ?
数度タイミングを変え、爪撃放ってくるがそれも全て弾く。
再度爪撃を放った瞬間、彼女は駆け出し一気に距離を詰めてくる。
目の前まで来た彼女は俺の顔前に掌を突き出す。
掌から放たれたのは光。
咄嗟に躱そうと首を曲げるがそれは攻撃ではなかった。
<光属性魔法>スキル『フラッシュ』、目眩ましだ。
同時に俺の腹部に鋭い一撃、彼女の拳が入る。
いいね。
流石に戦い慣れてるな。
俺は眼球だけを左右上下に動かし辺りを見渡す。
だが、考えていたような光景はそこには無かった。
来ない? 絶好のタイミングの筈だが?
俺は彼女の仲間たちが出てくるのを待っていた。
このダンジョンを一緒に攻略した仲間たちが居るはずだ。
それも俺の思っている通りならプレイヤーだ。
だからこそ七人には警戒しろと言っておいたのだ。
「一つ、聞きたい」
彼女の猛攻を大盾で弾きながら俺は口を開く。
「なんですの?」
「他の仲間はどうしたよ?」
彼女の攻撃の手が止まる。
そして若干眉間に皺を寄せ、恨みの籠ったように言う。
「私に仲間など居ませんわ」
は? たった一人でこのダンジョンを攻略したって事か? 一度死ねば終わりのこの世界で? こいつどんだけ面白いんだよ。
「何を笑っていますの!?」
彼女は声を荒げ、攻撃を再開する。
出てきた仲間ごと無力化しようと思ったが居ないらしい。
だから彼女を『スタンシャウト』で無力化すれば終わり。
だが、だけど、最後まで彼女を見たくなった。
俺は『シールドバッシュ』で拳をパリィする。
体勢を崩した彼女に『インパクト』を発動し、吹っ飛ばす。
宙に浮きながら吹っ飛んでいく彼女は体を回転させ着地すると、手を前に出し光の矢を放ってくる。
バチバチと大盾に光の矢が当たるが、関係ないと言わんばかりに直進する。
彼女の攻撃を受け、弾き、吹っ飛ばし、時間だけが過ぎる。
一時間ほど経った時、彼女は膝を付き青い顔で座りこむ。
体力とMPが尽きたのだろう。
大盾を地面につき、立っている俺に彼女は話しかけてくる。
「私を殺さないんですの?」
「え? 殺さないけど。なんで?」
彼女は肩で息をしながら、ポカンとしている。
息が整うのを待っていると後ろから七人が近寄ってくる。
完全に忘れていた。
「どういう事っスか!? その人、ボスじゃなかったんッスか?」
「説明してください!!」
先頭に居たミャオとカトルが顔を近付けながら迫ってくる。
なので、俺たちがダンジョンに入った時の事から全て説明していく。
全員の表情がコロコロと変わっていくのが面白かった。
説明が終わった頃、一緒に説明を聞いていた彼女は口を開く。
「本当に私を殺しに来たのではありませんのね」
「話を聞きに来ただけだ。最初にも言ったぞ」
「いきなりそんなことを言われましても、信じられませんわ。武器も構えておりましたし」
彼女は俺の後ろに居る七人の方を見る。
全員が慌てて武器を仕舞う中、俺は口を挟む。
「先に言わなかった俺の責任だ。すまない」
「構いませんわ。お話は大体わかりました。それで私に聞きたい事ってなんですの?」
「お前、IDOプレイヤーか?」
「IDOプレイヤー? って何ですの?」
全員が頭の上に『?』を浮かべ首を傾げる。
彼女もまた首を傾げながら言う。
彼女はプレイヤーでは無かった。
この世界で初めて他プレイヤーに会えると期待していたが違った。
だが、不思議と気落ちはしなかった。
どころか逆に嬉しかったまである。
死んだら終わりの世界で危険と分かっているダンジョンに一人で潜る猛者を見つけた。
そっちの方が俺にとっては嬉しすぎる収穫だ。
「知らないならいい。んで、何でこんな所に住んでいるんだ?」
「特に理由はありませんわ。私は力を求めてこのダンジョンに来ましたの。ボスを倒したら購入できるようでしたのでここを居場所としましたけれど、長く留まるつもりもありませんでしたの」
「なるほどな。じゃあ、まだ上を目指すのか?」
「もちろんですわ」
いいね、向上心も高い。
「そういや名乗ってなかったな。俺はタスク。お前は?」
「私はヴィクトリア。ヴィクトリア・フォン・ハプスブルクと申します」
家名って事はどこかの貴族のお嬢様か?
そんな境遇の人間が一人でダンジョンに来て、力を求めていると。
間違いなく厄介事だろうな。
「グランツメア王国、第三王女様……なのですか?」
後ろからテアが言葉を零す。
ヴィクトリアは目を見開き、テアを見る。
テアは俺の隣に来ると言葉を続ける。
「私はシャンドラ王国の第二王女テア・フォン・シュロスと申します。ヴィクトリア様、グランツメア王国で何があったのですか?」
「……それは……」
ヴィクトリアは答えようとしない。
テアの表情を見るに俺が思う厄介事とは只事ではないのだろう。
だが知らん。
「ヴィクトリア。お前、俺たちとこないか?」
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