34話:ギルドマスター【イラスト有】
絶対に欲しい人材、それは――調薬師と遊び人だ。
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【メンバー募集】
<レベル>
・不問。
<種族>
・不問。
<性別>
・不問。
<職業>
・調薬師
・遊び人
<備考>
・ダンジョンメイン
・住み込みが可能な方のみ
・ステータス重視
・面接あり
・採用後はレベル上げに同行させます
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うん。
こんなもんかな。
俺は書き終わった募集用紙を受付嬢に渡す。
今回、受付嬢はきちんと募集内容を確認していた。
すると、書かれている内容を見ていくうちに顔色を変えながらプルプルと小刻みに肩を揺らして震えだす。
「ん? どうかした?」
「ん? どうかした? じゃありませんよ! 調薬師と遊び人!? ダンジョン内は五人で一パーティなんですよ!?」
「知ってるけど」
「じゃあ、なんでなんですか!?」
この子が言いたい事はわかる。
非戦闘職の調薬師と遊び人をダンジョンに連れて行くのは足手まといだ、っと言いたいのだろう。
まあ、実際に足手まといではあるのだが、昇格するのに必要なレベル上げのためだから致し方ない。
「育てたい人材だしな」
「……大丈夫なんですか?」
「ああ」
「わかりました。ですが、先に言わせて頂きますと、調薬師と遊び人の冒険者は少ないので来ないと思いますよ」
知ってる。
だけど、欲しいものは欲しい。
少ないだけでゼロではないだろうしな。
「大丈夫だ。それとさ、募集用紙を何枚かくれない? ギルド以外にも貼ってくれる所を探すから」
「そういうことならぁ、ワタシに任せてみなぁい?」
俺がカウンター越しに赤髪ポニーテールの受付嬢と話していると、背後から声を掛けられた。
刹那、俺の全身に鳥肌が立つ。
背後から聞こえた声の主を俺はIDO時代から知っていた。
“バトルマスター”の異名を持つ、シャンドラ王都の冒険者ギルドに所属する化け物ギルドマスター。
――アイザックだ。
俺が勢いよく後ろを振り向くと、そこには身長が二メートルを越えた筋骨隆々のオカマ……アイザックが立っていた。
アイザックは両の目をクワッと見開くと前屈みになり、俺の顔を目掛けて物凄い勢いで顔面を近付けてくる。
「あらぁんッ! 少し華奢だけど、良いオ・ト・コッ! アナタがいつもフランが言っていたタスクちゃんねぇん」
「フランって……誰?」
俺のその一言で赤髪ポニーテールの受付嬢以外の受付嬢たちとアイザックがピシッと固まり「えっ?」と声を漏らす。
いや、マジでフランって誰? 聞いた事もない名前の人にいつも何か言われてんの? 俺。
「あの……フラン……えっと、フランカは私です……」
静寂を破ったのは、赤髪ポニーテールの受付嬢だった。
あっ……やべっ。
涙目になってる。
どうしよう。
お世話になってるのに……やっちまった。
「すまん! 聞こうと思ってはいたんだが、いつも聞くの忘れてたんだ! 本当すまん!」
「い、いいんです! ぐすっ。私がちゃんと名乗ってなかったんですもんね! ぐすっ」
フランカは瞳に溜まった涙を袖で拭くと姿勢を正す。
「改めまして、私はフランカです! これからもよろしくお願いしますね! タスクさん!」
「お、おう。よろしく」
「あらぁん、青春ねぇん。ワタシの事はぁ、親しみと愛情を籠めてアイちゃんって呼んでねぇん」
「あっ…………はい」
鬼気迫るほどの凄い眼力で言われた。
はい、としか言えなかったぞ。
<MEN>A-あるはずの俺が鳥肌を立てながら顔を引き攣らせるなんて……この生物……強すぎる。
「それでぇ? 見たところぉ、タスクちゃんはまたメンバーを集めてるのかしらぁん?」
「ああ。どうしても欲しい人材がいるんだ」
「それじゃあ、ワタシが協力してあげるわぁん! こう見えても知り合い多いのよ? ワ・タ・シ」
「そ、そうか。助かる」
「代わりにぃ……今度、ワタシとデートしてちょうだぁい」
…………。
一瞬、思考回路がショートした。
今、何て言った? この化け物、デートって言ったか? 俺の聞き間違いじゃないよな?
一応、確認のために辺りを見渡すと、どうやら思考回路が吹っ飛んでいたのは俺だけじゃなく、受付嬢たちもだった。
「……冗談よぉん。みんなしてそんな顔しなくてもいいじゃないのッ! 全く失礼しちゃうわねぇん。ぷんぷんッ!」
そう言うと、アイザックは身体をクネクネとさせながら、俺の書いた募集用紙を持ち去っていった。
嵐のような人だな。
マジで恐ろしすぎるわ。
「で、では! ギルマスが募集用紙を写し終わり次第、ボードに貼り出しておきますね!」
「ああ。ありがと、フランカ」
ちゃんと覚えた、という意味を込めて名前で呼ぶ。
するとフランカは嬉しそうにニコニコとしていた。
よし。
用事を終えた俺はギルドを出て、帰路に就いた。
屋敷の近くまで戻ってくると、屋敷の前に見覚えのある豪華な馬車が停まっているのが見えてくる。
嫌な予感がしながらも、俺は屋敷の門に手を掛けた。
その時――。
「タスク様あああああッ!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声のする方へと目をやると、やはりというか見覚えのある少女が俺の元へと走ってくる。
第二王女、テア・フォン・シュロスだ。
「どうしたの? 何か用か?」
「用はありません! ただ、タスク様たちにお会いしたくて来ただけです! タスク様たちのおかげでわたくしは元気になり、たくさん外に出られるようになりましたので」
それなら良かった。
また面倒事を頼みに来たのかと思ったわ。
マジで王家の紋章は心臓に悪いからヤメテ。
「そうか。まあ、狭いとこだけどゆっくりしていきな」
「そうさせて貰うのだ」
……ッ!?
背後から聞き覚えのある声がした。
今日で二度目だぞ? この展開。
俺がゆっくりと後ろを振り向くと、やはりというべきか国王、グロース・フォン・シュロスが立っていた。
「グロース王も来てたんですね」
「テアが居るのだぞ!? 我も居るに決まっているのだ」
「王様ともあろう御方がこんな所に居ていいんですか?」
「良いのだ」
「わたくしは一人でも大丈夫です!」
「何を言うのだ! もしも何かあったら困るのだ!」
「お父様は過保護すぎます! 少しは自重して下さい!」
目の前で二人がギャーギャーと言い合いを始めたので、俺は二人を放置して玄関の方へと向かって歩きだす。
すると、言い合いをしながらも二人は後ろをついてきた。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさいぃ。何か騒がしいですねぇ?」
俺が玄関の扉を開けて中に入ると、そこにはキラが居た。
グロースとテアが視界に入ったのか、キラはカッと目を見開くと奥の通路へと走り去っていく。
俺はグロースとテアを客間に案内し、ソファに座らせた。
すると、すぐに客間の扉がノックされ、バトラが入ってくると淹れたての紅茶を俺たち三人の前に並べていく。
キラが言ってくれたんだろうな。
ほんと出来た使用人たちで助かるわ。
「それで? 本当は何の用ですか?」
「わたくしは本当にタスク様たちに会いに来ただけです!」
うん。
テアはそうだろうね。
「ところで……他の方たちはいらっしゃらないんですか?」
「ミャオとリヴィとフェイは三人で遊びに行ったよ。で、ヘススは教会。ゼムは居るけど鍛冶場に籠ってる。アンとキラは居るから、呼んでこようか?」
「いいえ。大丈夫です! わたくしは、タスク様にお相手をして頂ければ……それだけで構いません」
テアは可愛らしい顔を下に傾け、上目遣いで見てくる。
可愛い。
……って、そうじゃない! マジでやめてくれ。
その表情は彼女いない歴=年齢の俺に効く。
その隣でグロースは一度咳ばらいをすると話し始める。
「我がここに来たのはテアの付き添いが殆どなのだ」
「殆ど、ね。まあ、薄々は気付いてましたけど」
「嫌か?」
「内容によります」
「お主らにテアのレベル上げを頼みたいのだ」
「冗談……ではなさそうですね。理由を聞いても?」
「テアは次期国王なのだ。だから毒物などを警戒して<MEN>を上げさせておきたいのだ」
は? 次期国王? テアが? ってか、それって問題発言なんじゃねえの? 聞いたから死刑ですー、とか嫌だぞ?
「次期国王って……王族には王位継承順位とかあるんでしょ? 今の発言には問題があるんじゃないんですか?」
「む? お主は知らんのか? 既にテアが次期国王と決まっているのだ。我が国シャンドラの王位はスキルで決まる。継承順位などは遥か昔から無いのだ」
「スキル?」
「そうなのだ。我がシュロス王家は、雷属性魔法のスキルが遺伝して生まれた子が次期国王となるのだ」
<雷属性魔法>だとッ!? 魔物で雷属性の魔法を使ってくる奴はいたが、スキルとして存在してたのは知らなかった。
まあ、十中八九、星付きスキルだろう。
見てみたいなー。
見せてくんねえかなー。
ん? 待てよ? いい事考えた。
「なるほど。そういう事なら引き受けますよ。どの――」
「ぃやったーーーーー!!」
俺とグロースが話している間、ずっと真面目な表情で黙っていたテアが突然立ち上がり、両手を上げて叫ぶ。
テアはハッとした後、恥ずかしそうに座りなおした。
「で、どの程度まで上げたらいいんですか?」
「出来る限りで構わないのだ」
「わかりました」
「では、よろしく頼むのだ」
「タスク様! よろしくお願いします!」
その後、グロースとの話し合いの末、テアのレベル上げ期間は明日からの一週間になった。
グロースとテアが帰った後、みんなをダイニングに集めて晩御飯を食べながらグロースからの依頼内容を説明をする。
手伝ってほしいメンバー三人に引き受けてくれないか、と聞いてみると意外とあっさり快諾してくれた。
明日はテアのダンジョンデビューだ。




