26話:お願い
再度、馬に乗り――丸二日。
体が悲鳴を上げる中、王都まで戻って来ていた。
途中で馬を放置して転移スクロールで戻りたかったのだが、国王であるグロースから借りた馬だったこともありゼムとミャオに怒鳴られたので、渋々乗って帰ってきた。
国王なんだから馬くらい沢山飼ってるって。
それに馬もきっと自然で生きたがってるはずだよ。
若干不機嫌な俺を乗せた馬が王城の前まで来ると、門番は城内へとダッシュしていき、数分後に以前俺とへススを案内してくれたメイドを連れて戻ってくる。
そしてメイドに連れられ、城内へと通された俺たちは以前グロースと話をしたのと同じ部屋に案内されていた。
「お前ら、さっさと座らないとメイドさんに迷惑だろ」
「そ、そうッスよね!」
「し、しかしじゃな……」
「……だ、大丈夫……なんですか?」
ミャオ・リヴィ・ゼムの三人は声を震わせながら、部屋の入口でガチガチに固まっている。
今回はみんな連れてきた。
帰り道、ずっと嫌だ嫌だと言っていたが知らん。
というか連れてきたのには理由があんだよ。
俺たちは椅子に腰掛け、紅茶を啜りながら、しばらく待っていると扉が開かれグロースが入ってくる。
その後ろには白衣を着た一人の老人もついてきていた。
「待たせてすまなかったのだ。そこの三人は初めましてだな。我はグロース・フォン・シュロス。この国の王だ」
「み、ミャオッス」
「ゼムですじゃ」
「……リヴィ……です。」
「タスクです」
「お主は知っておるわ。ミャオ、ゼム、リヴィ、よく来てくれた。会ってみたいとは思っておったのだ」
グロースはミャオ・リヴィ・ゼムと順々に視線を動かす。
その間、ミャオは遠くを見ながらピンッと姿勢を伸ばし、ゼムは笑顔を作ろうとしてなのか口元をひくひくさせ、リヴィは涙目で俯いていた。
あ? リヴィを泣かせるとか許せねえよなあ!?
メンチを切る俺を横目で見つつグロースは口を開く。
「こやつは王族の専属の調薬師だ」
誕生日席に座ったグロースの後ろに控えていた白衣を着た老人が俺たちの方を見て頭を下げる。
俺はインベントリからルング草の入った一本の小瓶を取り出し、グロースの前に置いた。
するとグロースはカッと目を見開き、その小瓶と俺を交互に見てくる。
「この草じゃなかったですか?」
この草じゃなかったらお手上げだな、と思いながらもグロースの方を見ていると、グロースは後ろに立っていた白衣を着た老人に小瓶を手渡す。
すると白衣を着た老人は一度頷いたあと、小瓶をもってそそくさと退室していった。
「合っておったようなのだ。それにしても、こんなに早く手に入れるとは……お主らは噂に聞く実力者なのだな」
「はい。俺たちは強いですよ。なあ?」
俺は隣に座っている四人の方を向いて話を振ると、へスス以外の三人は勢いよく首を横に振っていた。
謙遜するなよ。
お前たちは普通に強いって。
さーて、と。
本題に入るか。
「では早速、約束通りお願いを叶えていただけますか?」
「任せるのだ。もう既に用意しておる」
グロースが扉の横に控えていたメイドに目配せをすると
一枚の蝋印付きの手紙を俺に手渡してくる。
俺がそれを受け取ってインベントリに仕舞っている間、グロースは四人の方を見ながら問いかけた。
「それで、お主らは何が良いのだ?」
「「「?」」」
グロースの問いにミャオ・リヴィ・ゼムの三人はポカンと口を開け、呆けている。
因みにだが、ヘススはもう既にお願い済みだ。
「ほら? 聞かれてるぞ?」
俺は放心状態の三人に声を掛けると睨まれた。
なんで、睨むんだよ。
全員で頑張ったんだから報酬を貰うのは当然だろ。
「またの機会でもよいのだぞ? タスクが何も言わずに連れてきたようだしな」
「そうですね。今、言わないならまた来させますよ」
「ちょ、ちょ、ちょ!? 何、言ってんッスか!? もう来たくない……いや、違うッスよ? 二度と来たくないとかじゃ無くてッスね!? あああああ! もう、嫌ッス……タスクさん恨むッスからね」
「……私……ひっく。……は……ひっく。」
「お前さん。本当に恐ろしい事をする奴じゃな」
ハハハ。
前回来てたらこんな事にならなかったのになあ?
あ、リヴィが号泣してる。
泣かせた奴、誰だよ?
「じゃ、じゃあ、アタシは少しだけでいいッスから、お城の中を見学させてほしいッス!」
「……私も。……ひっく。……ミャオと同じの。」
「そんなことでよいのか?」
「はいッス!」
「……はい。」
「では、手配するのだ」
グロースはメイドに目配せをすると、メイドは部屋を出ていき、一分もしない内に戻ってくるとミャオとリヴィを連れて出て行った。
「お主はどうするのだ?」
「ワシは……少し鉱石なんかを頂け――」
「あ、ゼム。それは無しだ。今度一緒に採りに行くから」
ゼムの言葉を横から遮る。
鉱石採取は自分たちの仕事だ。
グロースにとられてたまるか。
「で、ではワシは、兵士の使っている装備でも見せてもらえれば、それで……」
「お主らは欲がないのだな。それとも遠慮しておるのか?」
グロースが目線を扉の方に移すと、扉の横には既に別のメイドが控えており、ゼムを連れて出ていった。
「此度は本当に助かったのだ。これで大丈夫だとは思うのだが、万が一の時にはまた力を借りたい」
「構いませんよ。断れないような案件は御免ですけどね」
その後、俺はグロースと話をした後、王城を後にした。
ミャオ・リヴィ・ゼムを置いて。
俺とへススが屋敷に戻ると丁度お昼時だったので、ダイニングで待っていてくれとへススに伝え、キッチンへ向かう。
その途中、バトラと会った。
「ただいま」
「おかえりなさいませ。ご昼食でございますか?」
「そ。作りに行く途中」
「左様でございますか。宜しければアンに作らせますが」
「ん。大丈夫」
俺は軽く手を挙げ、キッチンへと向かい扉を開ける。
少しの間、料理をしていると後ろの扉が勢い良く開いた。
「タスク様っ! おかえりなさいっ!」
「ただいま」
「どうして言ってくださらなかったんですかっ! 言ってくだされば私が作りましたのにっ!」
「いいよ。アンはゆっく――」
言おうとした事がわかったのか、アンは不機嫌そうに俺をジッと睨みつけてくる。
「……わかったよ。じゃあ、手伝ってもらおうかな」
「はいっ!」
思念体なので足音はしないが、上機嫌で走ってくる。
その後、アンと一緒に作った料理をダイニングへ運び、ヘススと一緒に昼食を摂った。
昼食を食べ終わった俺は、フェイの部屋を訪ねる。
ノックをすると中から返事があったので扉を開けた。
「今、大丈夫か?」
「ハイ。大丈夫デス」
「なら良かった。出かけるぞ」
俺はキョトンとしているフェイの手を握り、外へと連れ出す。
そしてそのまま十数分歩き続け、辿り着いたのは一軒の商会の前だった。
建物を見たフェイは少し泣きそうな表情をしている。
というのも、ここが奴隷商会だからだ。
「いらっしゃいませ。どのような用件で?」
「店長いる?」
「お約束はされていますか?」
「してない」
「は、はあ。では――」
「これを渡してくれ」
受付にいた男性は俺が渡したものをもって奥へと行く。
すると少ししてドスドスという大きな足音を立てながら、小太りの男が部屋の奥から出てくる。
「いらっしゃいませ! こちらへどうぞ。ご案内します」
俺とフェイが案内されたのは、豪華なローテーブルを挟むように柔らかそうなソファが置かれた建物の一番奥の部屋だった。
壁には高そうな絵画が飾られており、地面には豪華な絨毯が敷かれている。
金回り良さそうだなあ……。
王城とは違い、不思議とその程度の印象しか受けない。
俺がソファに深く腰掛けると、俺の背後にフェイが立つ。
……が、俺はフェイの手を掴み、隣に座らせる。
フェイは逃げようとするが逃がさん。
無職少女が俺に力で勝てると思ってるのか?
俺はフェイの肩を抱き、逃げられないようにしてから、小太りの男に話しかける。
「早く従属の輪を外せ」
「は、はい! 用意しておりますので、少々お待ちを!」
抵抗を止めたフェイはポカンとした表情で俺を見てくる。
まさか売られるとでも思ってたんだろうか? 売るわけないだろ。
わざわざグロースにお願いして、一筆書かせたのに。
そう、俺がグロースにお願いしたのは、フェイの『従属の輪』を外すための王家の蝋印付き手紙だ。
俺は奴隷制度を無くしてくれ、なんて正義感溢れたお願いなどは出来たとしてもしない。
全てを救うなんてのも無理な話だ。
俺は俺の救いたい奴だけを、手の届く範囲で助ける。
その位で丁度いい。
それに世の中には悪い奴は沢山いる。
そいつらは奴隷にでも地獄にでも落ちればいい。
だがフェイは違う。
この子はただ逃げていただけだ。
こんな子を捕まえて奴隷にするとかホント何考えてんだ。
「お待たせしました! 今、外しますのでこちらへ」
そう言いながら小太りの男は退室しようとしたので俺はそれを制止する。
「待て。ここでやれ」
「ですが――」
「なら、俺が行く」
俺が立ち上がったのを見て小太りの男は観念したのか、俺と手を繋いでいるフェイに近付き後ろに回る。
そして『従属の輪』の後ろ、何か文字の書いてある場所に小太りの男が付けている指輪を当てると淡く光りカチリと音を立てて外れた。
準備とか嘘じゃねえかよ。
最初からやれ、最初から。
とはいえ、企業秘密ってやつなんだろうな。
こうしてフェイは『従属の輪』から解放された。
読んでくれてありがとうございますorz
少しでも良いと思ったらブックマーク登録お願いします♪
評価の方もしていただけたら嬉しいです( *´艸`)
毎日一話ずつですが更新します!




