23話:妖精の瀧壺
俺たちの目の前で水飛沫を上げながら水が流れ落ちる。
「ここが妖精の瀧壺なんッスか?」
「厳密にいうとあの滝の裏側だな」
俺は流れ落ちる滝の方を指さす。
するとミャオとリヴィは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「アタシ、水が大嫌いなんッスけど」
「……私も。……泳げないから嫌い。」
ミャオとリヴィは二人で向き合い「ねー!」と両手を合わせている。
ほんとに仲良くなったな? お前ら。
「お前らの好き嫌いとか、泳げる泳げないとかは関係ない。とりあえず近くに野営が出来そうな場所がないから移動するぞ」
滝の周りは深い森に囲まれており、滝壺から一本の川が伸びているだけで開けた場所などは無い。
なので俺たちは川を少し下ったところにテントを張り、野営の準備を始める。
もちろんドラム缶風呂は忘れていない。
今回は川が近いので水を汲んで沸かすだけで良さそうだ。
でも寄生虫とか……居ないよな?
俺は若干の不安を覚えつつ野営地の準備を終わらせ、早速ダンジョンに潜るための準備を始める。
と、その時、前回とは違うみすぼらしい格好をしているゼムと目が合った。
「なんじゃい!?」
「いや、なんでもない」
「笑いたきゃ笑うんじゃな!!」
「じゃあ、遠慮なく。ハハハ、すっげえ弱そう」
実は昨日の夜、ゼムは鍛冶師から鍛冶職人に昇格した。
そのためレベルは1に戻り、質素な鉄製の胸当てと木製の大きなハンマーくらいしか装備できないでいる。
そんなレベル1のゼムを連れて来た今回のダンジョンはもちろん難易度低め――などではなく『妖精の瀧壺』という難易度四等級のダンジョンだ。
このダンジョンには雑魚敵が居らず、滝の裏にある扉に入ればそのままボス戦という仕様になっているためレベル上げには向いていない。
では何故『妖精の瀧壺』に来たのかだが、理由はグロースからの依頼に関係しているからで、ゼムのレベルは少し上がればいいなくらいに思っている。
準備が終わった所で水が落ちている滝の真横にある岩場を通り滝の裏側へと歩いていく。
その途中、ミャオの顔に水飛沫がかかり、何度も顔を左右に振り気持ち悪そうにしていた。
徐々にふわふわのしていた毛がペタンコになり、不機嫌になったミャオが声を荒らげる。
「もう帰りたいッス! 帰ってもいいッスよね!?」
「帰ったらさすがにキレるからな」
「それは……もっと嫌ッス」
などと話している内に滝の裏側へと着き、そこは短い空洞と奥には一枚の扉が見えていた。
扉の前まで来た俺は振り返り口を開く。
「今回はさすがに情報を伝えとくわ」
「なんじゃ? レベル1のワシを気遣っとるのか?」
「違うわ」
へススは薄々気付いてるっぽいが、それ以外の三人はボス部屋のみで難易度四等級という意味がわかってないらしい。
「変な音が鳴ったら攻撃が来るから注意しとけ」
それだけ言うと俺は扉の方に向き直り扉を開けた。
同時に全員が顔を引き締め、後を着いてくる。
扉の先は中央のみの地面が隆起し、ドーナツ状に水が張られている部屋だった。
天井からは鍾乳石がたれており、水滴がピチョンと音を立てながら水面に落ちる。
壁には三センチほどの穴が無数に開いており、隆起した地面の上にソイツは居た。
透き通った水色の肌は艶々と輝きを放ち、クリッとした黒い瞳がこちらを見つめている。
全長四メートルの蜥蜴のような見た目とは裏腹にどこか可愛さがあり、顔の両側に三本ずつ生えた短い触手に見えるエラは絶え間なく蠢いていた。
この巨大なウーパールーパーこそ『妖精の瀧壺』のボス『妖精蠑螈』だ。
俺はバシャバシャと音を立てながら、腰ほどまである水中を進み隆起した中央の地面へと急ぐ。
それに対して妖精蠑螈は逃げるように水の中へと飛び込み、大きな体の半分を水面から出していた。
俺は『チャレンジハウル』を妖精蠑螈に放つと、ボーッした顔で水面から顔を出し見つめてくるだけで何かをする気配は全くない。
「あいつ何やってるんッスか?」
「わからんが何かあるんじゃろ」
「ん? 何もないよ?」
「「はあ?」」
『パチッ』
「……え。」
ミャオとゼムは気が抜けたような呆けた表情をし、リヴィは相変わらずおろおろとしている。
しかしへススだけはちゃんと聞いていたのか、薄く目を開け周囲を警戒していた。
俺はミスリルの大盾をゼムに向かってぶん投げる。
そして『シールドアトラクト』で投げた大盾の位置に転移すると同時に大盾を構えた。
刹那、大盾に一筋の雷が当たり周囲に電流が散る。
「なんじゃ!? 一体、何が起きたんじゃ!?」
ゼムは何が起きたのか分からず、キョロキョロ慌てふためいていた。
「うかうかしてると死ぬぞ」
「わかっとる『パチッ』わい」
ヘススが真横に飛ぶ。
するとヘススの居た場所に一筋の雷が飛来した。
それを見てポカンとするゼム。
ミャオは呆けた表情から真剣な表情へと変え、リヴィは緊張した面持ちで本を構える。
そろそろ全員が一つ目のギミックに気付いたことだろう。
俺は『チャレンジハウル』を妖精蠑螈に放つ。
が、水から上がってこずジッと水面から少しだけ顔を出し見てくる。
「ファイトー」
「ファイトじゃないッスよ! タスクさんはさっきから何をしてるッスか!?」
「何をって……待ってんだよ」
「だから、何『パチッ』をじゃ!」
リヴィはバッと真横に飛び、盛大にコケる。
するとリヴィが居た場所に一筋の雷が飛来し、地面に吸われていった。
その様子を見たリヴィはホッと一息つく――。
『パチッ』
俺は『ポジションスワップ』でリヴィと場所を入れ替わると、俺の大盾に一筋の雷が当たり空気中に電流が散っていく。
「……あ……ありがとうございます。」
「気にすんな。今のはタイミングが悪い」
その後、しばらくは為す術なく防戦一方で居た。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
いつまでたってもラチがあかない。
妖精蠑螈に闇魔法を放つ。
<闇属性魔法>『ダークアロウ』:鋭い闇の矢を飛ばす。
――発動。
闇属性の矢が妖精蠑螈目掛けて飛んでいく。
しかし妖精蠑螈は水の中に沈み、闇属性の矢を難なく躱した。
これはダメ……であるか。
タスクは何をさせようとしている?
いくら考えてもわからないのである。
『パチッ』
拙僧が考えていたら、またあの光の筋が地面に当たる。
今回はミャオを目掛けて飛んできた。
ふむ。
前にタスクが言っていたのである。
自分で考えて判断しろと。
よく見て、よく聞け、と。
拙僧は妖精蠑螈の一挙一動を見落とさないようにジッと見てみる。
む? 今のは? 見間違いであるか?
いや、確かに動いたのである――妖精蠑螈の触手らしきものの先端が。
拙僧は触手の先端に居た人物が狙われると仮説を立てる。
当たっているならば次狙われるのはゼムだ。
『パチッ』
次の瞬間、ゼムの居た場所に雷が飛来する。
予想通りであるな。
しかし……見抜いたところでどうする? 妖精蠑螈はなぜ水中でジッとしている?
む、次に狙われているのは拙僧か。
……試してみるのである。
拙僧は光が飛んでくるであろう三センチほどの穴と妖精蠑螈の間、それも出来るだけ妖精蠑螈側に立つ。
そして――。
『パチッ』
音が鳴った瞬間、真横に飛ぶ。
すると一直線に飛来した光が妖精蠑螈に当たった。
刹那、妖精蠑螈の体が一度ビクンと痙攣し、水中から飛び出したかと思うと地面でのたうち回る。
それと同時にタスクが笑いだした。
「ハハハッ! 正解だ! ヘスス!」
そして地面で転がりまわっている妖精蠑螈をタスクが鎖で縛りつける。
「さあ、反撃開始だ」
……面白いであるな。
これが攻略するという事であるか。
「面白いもんだろ」
「全くであるな」
その後、拙僧はゼム・ミャオ・リヴィに攻略法を話す。
何度も繰り返しコツを掴んだころには妖精蠑螈は水の大魔石になっていた。
「レアドロップは無しっと。んじゃあ、もう一周いくぞ」
拙僧は無言で頷き、タスクの後に着いて行く。
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