16話:休日(下)
頼まれた買い物も終わり俺は冒険者ギルドにやってきた。
ギルド内に入るなり、俺は多くの視線を向けられる。
敵視ではなく好奇の視線だ。
俺、なんかしたっけ?
俺は入口から辺りを見渡すとテーブルに見知った顔を見つけた。
今日は知り合いによく会う日だな、と思いつつ片手を挙げながらその人物に声を掛ける。
「よお。ヘススも来てたのか」
「主か。用事であるか?」
「ああ。ちょっと見たいものがあってな」
そう言って依頼の貼ってある木製ボードを指さす。
「そうであるか。拙僧に手伝える事があれば手伝おう」
「ありがと。でも、大丈夫だ」
俺はへススの座るテーブルから離れ、木製ボードの方へ近付いて行く。
ボケーッと眺めていると、赤髪のポニーテールを左右に揺らしながらいつもの受付嬢が走ってきた。
この子、ギルドに来るとほぼ毎回居るな。
冒険者ギルドって思いのほかブラック企業なのか? ってか今更だけど、この子名前なんだっけ?
「こんにちは! 依頼ですか?」
「いや。俺たちはダンジョン専門だから基本的に依頼を受ける気はない」
「そうですか……」
「でも困った事があったら手は貸すつもりだから、遠慮なく言ってくれ」
「ッ!! はい! ぜひ! タスクさんたちはお強いですから頼りにさせてもらいます!」
俺はニコニコとしている受付嬢からボードに視線を戻す。
詳しく見たことはなかったが、依頼の多くは下位職でもそこまで難しい内容の物はなく、討伐依頼・採取依頼・護衛依頼・特殊依頼と分けて貼られていた。
その隣のボードにはパーティ関連の用紙が貼り出されている。
へえ。
募集用紙の他に加入希望用紙なんてのもあんのか。
加入希望用紙の記入欄は募集用紙と内容はほぼ同じで、レベル・種族・性別・職業を書く欄があるみたいだった。
にしても、これはどうなんだ? 募集や加入希望がアタッカーの物ばかりだぞ。
「アタッカーばっかだけど、大丈夫なの? これ」
「……? 登録されている冒険者のほとんどはアタッカーの方ばかりですよ?」
当たり前の事を言うように受付嬢は答える。
その事に俺が首を傾げる俺に受付嬢は説明してくれた。
「タスクさんたちみたいにしっかり役割を分けてパーティを組んでいる方たちは少ないんです。効率が良いとかで、ほとんどの方はアタッカーだけでパーティを組んで依頼をこなしてます」
「は? じゃあ、ダンジョンはどうしてんの?」
「行く人自体、少ないですね。わざわざ危険を冒してまでダンジョンに入る意味はないですから」
意味が無い……だと?
確かにダンジョン内は危険で何が起こるかわからない。
ギミックによって即死するダンジョンもあれば、初見殺しのダンジョンもある。
IDO運営があからさまに殺しに来ているダンジョンな数知れない。
しかしだ! レアドロップアイテム手に入らないだろ!
フィールド上の魔物は実態があるためダンジョン内の魔物のように霧散しないからいちいち解体しないといけない。
加えて、スクロールなどのアイテムをフィールド上の魔物が持っている訳もなく絶対に入手不可能だ。
それに! レベルが上がらないだろ!
自分より低いレベルの魔物からは取得できる経験値が少なくなる。
具体的に言えば、レベル差が5以上あれば全く入ってこない。
なので街の外や森などフィールドを徘徊する低レベルの魔物程度ではレベル上げは無理に等しい。
逆に高レベルの魔物から取得できる経験値は差があればあるほど多くなる。
勝てるかどうかは別としてだが。
確かにフィールド上でも魔素の濃い山の奥地など危険な場所には高レベルの魔物も生息している。
だがそんな化け物たちに挑むくらいならダンジョンに行った方が数十倍マシだ。
その時、ふと嫌な予感がしたので俺は再度受付嬢に質問してみる事にした。
「……冒険者の平均レベルってどのくらい?」
「えっと、だいたいの人が20前後ですよ! 強い人や大手クランには40前後の人がいますね!」
マジで? 冗談だろ? 『ましらの穴倉』終了時点で俺が32・ゼムが44・ミャオが31・リヴィが26・ヘススが39だ。
なるほど……。
野営してた時、ミャオとリヴィがステータスウィンドウを目を丸くして凝視していた理由がわかった気がする。
「……教えてくれてありがと」
「いえいえ! 他に何かわからない事あればいつでも聞いてください!」
「あ、ああ」
俺は受付嬢と別れ、そのまままっすぐ帰宅する。
帰りついてそれぞれに頼まれていた物を手渡すと感謝された。
今日の予定は全て終わったのでのんびりアンとキラと雑談に花を咲かせながら過ごす。
――翌日。
俺はゼムの店に来ていた。
全員が揃ったところで屋敷へと案内する。
「「……」」
「お前さんは本当に何者なんじゃ」
「俺は俺だ」
玄関までやってきたミャオとリヴィはこれからここに住むのかと目を瞬かせ、ゼムは額に手を置きため息を吐く。
俺が扉を開けると玄関ホールでバトラとアンとキラが並んで待っていた。
思念体の三人を見た四人が即座に魔法鞄から武器を抜き戦闘態勢に入る。
あ、やべ。
言うの忘れてた。
俺は四人の前に立ち、手を軽く挙げて制止する。
「待て。こいつらはこの屋敷の使用人たちだ。これから仲良くしてやってくれ」
「「「「!?」」」」
魔物である思念体が使用人であると紹介すると、屋敷を見ても無表情だったヘススまでもが驚いた表情を浮かべる。
まあ、そりゃそうだ。
世界広しといえど、何処を探しても魔物を使用人にするご家庭など無いだろう。
その後、それぞれが簡単に自己紹介を済ませた。
ミャオは相変わらずのコミュ力ですぐにアンとキラと仲良くなり、話に花を咲かせている。
……が、リヴィには少し時間が必要そうだ。
バトラとアンとキラが仕事に戻り、俺は各部屋を案内しようと通路を歩いているとミャオが話しかけてくる。
「こんなお屋敷にアタシらが住んでいいんッスか?」
ミャオの言葉に隣に居たリヴィがコクコクと何度も素早く頷ずき、ヘススはジッと俺を見てくる。
「そのためにこの屋敷にしたんだから遠慮はしなくていいぞ。前にも言ったが嫌なら住まなくても良い」
「嫌じゃないッスよ! でも、さすがに家賃とかは払わせてもらうッスからね」
「いらん。その代わりと言っちゃなんだが、アンに食材を買って渡してやってくれ。思念体の三人は敷地内から出られないから互いに協力して暮らしてくれ」
「了解ッス」
「……わかりました。」
「承知した」
そうこう話している内に一部屋を除く全ての部屋を案内し終わる。
ミャオ・リヴィ・へススの三人には二階の好きな空き部屋をそれぞれ使ってもらうよう指示すると、三人は泊まっていた宿に荷物を取りに行くと屋敷を出て行った。
なのでその場に残ったゼムには先程唯一案内していなかった部屋、鍛冶場に連れていく。
するとゼムは目が飛び出るんじゃなかろうかと言うほど見開きバタバタと鍛冶場の中を見て回っていた。
「な、なんじゃこれはッ! こんなッ! おおおおお! なんじゃこの道具はッ!」
ふっ、フハハハハハッ! テンションが上がるのも当然だよなあ!? バトラが綺麗に整備していた炉に加えて、IDO時代から俺のサブキャラが使っていた課金の金床に課金のハンマーまで道具が完璧に揃っているのだからな!
「……ワシもここに住むぞ」
「は?」
「ワシもここに住むぞ」
「聞こえてる。店は?」
「売ってくる」
「は? え? ちょ、っと」
俺が制止しようとマヌケな声を出している間にゼムはズカズカと大きな足音を立てて出て行ってしまった。
誰も居なくなってしまったので俺は仕方なくダイニングに行き決まった椅子に腰を掛ける。
暇になったので紙と羽ペンを取り出し、書き物を始めた。
「何を書いてるんですかぁ?」
すると昨日買ってきた紅茶を淹れて運んできたアンと掃除をしていたキラが俺の肩口から覗き込んでくる。
「後に必要となってくる昇格スクロールと能力スクロールの入手場所」
俺がそう答えるとアンとキラはギョッとした表情をする。
同時にダイニングの扉が開いた。
そちらへチラリと眼球だけを動かし目を向けると入ってきたバトラが顔を顰めながら俺を見る。
「難易度十等級ダンジョンの踏破……。私を焚きつけるためのご冗談では無かったのでございますね」
「俺はダンジョンに関して嘘は吐かない」
バトラと俺のやり取りを聞き、更に驚くアンとキラ。
その表情は驚きからすぐさま変わり、眉を吊り上げながら激怒の表情で俺の両側から声を荒げる。
「無茶ですっ!! 考え直してくださいっ!!」
「そうですぅ!! 死んでしまいますぅ!!」
俺は立ち上がり、後ろに居た二人の前に立つ。
そして両手に『ライトフォース』を発動させてアンとキラの頭をポンポンと優しく撫でた。
「大丈夫だ。俺たちは絶対死なねえから」
「え……」
「嘘っ……」
実体のない筈の頭をバトラ同様、この姿になって初めて触られたのだろう。
ポカンとする二人の頭から手を放し、席に座りなおした俺は作業を再開した。
その間、二人はしばらく黙ったままだった。
しばらくすると先に屋敷を出た三人が思ったより遅く、屋敷に戻ってきた。
どうやら宿の荷物をまとめた後、一緒に買い物に行き足りない家具を注文してきたらしい。
その帰りに市場で大量に食材を買い込んだようでアンが喜んでいた。
ゼムはというと商人ギルドへ行き、店に残った武器や防具などを売り払い、荷物や家具を移動させるために屋敷と店を何度も往復していたので手伝おうかと訊ねたのだが、即座に断られた。
そして、再び全員が屋敷に揃ったのは夜だった。
戻ってきた四人を呼び出し、ダイニングに連れていく。
テーブルには豪華な料理が所狭しと並んでおり、その光景を見た四人は驚いていた。
これから一緒に暮らしていくのだ。
思念体ともども仲良くなってもらいたい。
そう思った俺はアンに手伝ってもらい一緒にパーティーを企画し、用意していたのだ。
食事をとりながらいろんな人と会話を楽めるように立食バイキング方式にした。
「全員、グラスは持ったな? それじゃあ……乾杯!」
俺の音頭でパーティーを始める。
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