160話:決着?
~Side:???~
――遡る事、数日前。
「ね! パパ! 起きる! 今!」
俺様が眠っていると娘である“チャチャ”が森の中から戻ってくるなり、目を輝かせながら俺様を殴り起こそうとする。
「痛イゾ、チャチャ。一体、何ノ騒ギダ?」
「人間、居た! 森!」
チャチャの言葉を聞いた俺様は重たい瞼をゆっくりと開けて、辺りを見渡すが人間らしき気配も何も感じない。
しかし、チャチャが嘘を吐くとも思えなかった俺様は、念のために<見敵>スキルを全力で発動させた。
……本当に人間が入り込んでいるな。
数は九人と少ないが、一人、相当な手練れが居る。
グハハ、砲撃手長猿と幻想蝶々の妨害を跳ね除けて上陸できる人間がアイツら以外に居たとは……実に面白い。
「近付イタリシテナイダロウナ?」
「し、し、してない! 本当!」
既にその人間に近付いたのであろうチャチャは、俺様から目を逸らし、小さな唇を尖らせながら答える。
「……近付イタンダナ?」
「ごめんなさい……。でも、俺様、喋る我慢した」
「ナラバ、良イ。トコロデ、ドンナ奴ラダッタ?」
「俺様より弱いだった!」
「ソウデハナイ。ドンナ種族ガ居タカ、トイウ意味ダ」
「んー。人間、三人。黒エルフ、一人。竜、一人。猫、一人。吸血鬼、一人。粘体、一人。角、一人。居た!」
人間族が三人……か。
もしかして、アイツら……? いや、まさかな。
「他ニ何か分カル事ハアルカ?」
「魔手田鼈、虐めるしてた! 俺様、助けるした!」
「ソウデハナイ。ソイツラノ名前ナドハ分カルカ?」
「んー。タスク、カトル、ポル、リヴィ、へスス、ミャオ、ヴィクトリア、フェイ、コテツ、言ってた!」
タスク。
……そうか。
まさかとは思ったが、本当に『流レ星』が居たとはな。
先程、<見敵>スキルで感じた相当な手練の正体……それは恐らく『流レ星』のクランマスター、タスクだろう。
グハハハハ。
ようやく来たか。
長年、待ち続けた甲斐があったぞ。
しかし、同名の人物という可能性もある。
となれば……。
「チャチャ。ソイツラガ此処に来タラ、オ前ハ隠レテイロ」
「何で? 俺様、喋るしたい!」
「駄目ダ。良イカラ、隠レテイナサイ」
「……わかった。俺様、我慢する」
「良イ子ダ」
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
――時は戻り、現在。
「グハハハハ! 俺様ノ攻撃ヲ、ココマデ防グトハ、ナカナカ、ヤルナ小僧! 死ヌ前ニ、オ前ノ名ヲ教エロ」
「……俺は死なねえから、お前に教える事は何もねえよ」
グハハハハ。
間違いなく『流レ星』のタスクだろう。
外見はフレダリアと同じ黒髪黒目の日本人? とやらで、フレダリアから聞いていた性格通りの男だ。
「ソウカ。ナラバ……死ヌガ良イ!!」
俺様は長年、待ち続けた。
タスクを殺す時を、ではなく、タスクに会えるこの時を。
では、何故、殺そうとするのか。
それはこの程度で死ぬような男ならば、用はないからだ。
「……お前がなあッ!!」
俺様が振り下ろしたはずの両腕がタスクの持つ大盾に弾き飛ばされた瞬間、ズタズタに引き裂かれた。
<騎士>職の最上位である<暗黒騎士>のスキル『ダメージカウンター』だったか? フレダリアから聞いた話では、俺様が今まで与えた傷が全て跳ね返ってくるスキルだったな。
成程……通りで痛い訳だ。
しかし、この程度でやられる俺様ではないぞ。
タスクは『ダメージカウンター』で致命傷を与えられると思っていたのか、悔しそうな表情を浮かべ大盾を構える。
そして俺様が放った蔦を苦しそうに凌いだ後、再び魔核スキルを発動させ、四度目となる光線を浴びせてきた。
ぐっ、おおお。
まだまだ、この程度では俺様は死なん。
俺様は光線を浴びながらも、再生させた両腕でタスクを殴打し、それと同時に三本の蔦を伸ばして攻撃する。
両腕と一本の蔦は弾かれたが、二本の蔦はタスクの肩部と横腹部に当たり、横腹部からはピシッという音が聞こえた。
骨にヒビ、もしくは折れたであろうタスクは治癒ポーションを口に咥え、中身を飲みながら俺様の猛攻を弾き続ける。
そして――その後も攻防を繰り返し、六度目の光線が放たれたのと同時にタスクは片膝を地につき、顔を顰めながら立ち上がろうとしても、立ち上がることが出来なくなった。
外野で見ていた八人と一匹はタスクが膝をついた途端、タスクの元へと駆け寄ると、獣人の猫・粘体の娘・吸血鬼? の女・鬼人? の男・人間の娘・竜・蜂の五人と二匹はタスクを庇うように立ち、俺様に向けて武器を構える。
その後ろでは竜人の男がタスクを治癒し、エルフ? の女と人間の童が前の五人と二匹に『バフ』を掛け始めた。
今にも襲いかかってきそうな五人と二匹にジッと睨まれる中、俺様は満身創痍のタスクに向けて問いかける。
「ドウシタ? 俺様ヲ殺スノデハナカッタノカ?」
しかし、タスクにはもう返答する体力すら残っていないようで、項垂れた状態で地面に座り込み、沈黙を続ける。
ん? 気を失っているのか? フレダリアの所属する『流レ星』のマスターだからといって買いかぶり過ぎたか。
そんな事を考えていると、タスクの代わりに俺様を睨みつけながら武器を構えていた五人が俺様の問いかけに答えた。
「次はアタシらが相手になるッスよ。どの道、アンタを倒さないと退路は無いみたいッスからね」
「ミャオ様の仰る通りですわ。覚悟して下さいまし」
「ワタシはタスクサンほど強くないデスから、ここにいる皆サンと一緒に倒させてもらいマス」
「タスク兄の戦うとこ、ずーっと見てたから攻撃方法わかってるからねー。絶対、たおーす!」
「恨み辛みは無いが……斬る」
五人がそう言うと、後ろに居た人間の童が声を出す。
「フェイ、ヘビィハウル! ミャオ姉、ヴィク姉、ポル、デスビィ、虎鐵兄はこいつの背後を取りに行って!」
その声に併せて五人と一匹は一斉に駆け出し、タンクであろう粘体の女が俺様の目の前で足を止める。
「無駄ダ、諦メロ。オ前ラデハ、俺様ニハ勝テン」
そう言いながらも攻撃しようとしない俺様をキョトンと首を傾げて見上げている粘体の娘をよそに、俺様は正面を除いた全方向に細く尖った無数の蔦を伸ばす。
後ろに回り込もうとした四人と一匹は迫り来る無数の蔦を避けようとするも、無数の蔦は四人と一匹の体を貫いた。
その光景を目の当たりにした他の四人は「えっ」と小さく声を漏らし、サーッと顔から血の気が引いていく。
確かに敵意を取ったはずなのに、どうしてこうなったのか分かっていない様子の四人が困惑したような表情を浮かべていると、タスクがゆっくりと立ち上がり口を開いた。
「敵意無視の範囲攻撃スキルか」
「ソウダ。ソレヨリ気ヲ失ッテイタノデハナカッタノカ?」
「ああ。お陰様で数秒間、意識が飛んでたな。……で? 俺が目を覚ましてみたらこの光景って――」
タスクは俺様が貫いた四人と一匹の安否を確認するように視線を向けた後、俺様を睨みながら言葉を続ける。
「意識を飛ばしてた俺も悪いが……やってくれたな、お前」
刹那、俺様は得体の知れぬ恐怖を覚えた。
何だ? 俺様が恐怖しただと!? 千年以上生きてきて一度も恐怖したことなどない、この俺様が? 有り得ない。
あの男は何者だ? タスクは何をしようとしている?
その時、ふとフラダリアの言葉が脳裏を過ぎった。
(ウチらのマスターは“タスク”言うねんけどな? 普段はごっつ、やる気なさそうやねん。せやけど、マジで怒らすとウチらじゃ止められんくらい強い人やねんで。もし、アンタがタスクと会う機会があったら絶対に怒らせたらアカンで?)
……成程。
あの時は聞き流していたが、タスクと付き合いの長いフレダリアからの忠告は聞いておくべきだったか。
タスクは何も無い所を見つめたかと思うと、先程まで使っていた大盾とは別の大盾が一枚、音を立てて地面に落ちる。
そして、その地面に落ちた大盾とは別にタスクの周りをフヨフヨと回りながら浮いている大盾が四枚、姿を表した。
「行くぞ、デカブツ。第二ラウンドだ」
読んで頂き誠にありがとうございますorz
少しでも良いと思ったらブックマーク登録お願いします♪
評価の方もしていただけたら嬉しいです( *´艸`)
毎日一話ずつですが更新します!




