158話:化け物の領域
~Side:タスク&ヴィクトリア~
小高い丘を下りた先。
そこは先程までとは変わらず深く暗い森の中ではあるのだが、先程までとは違い魔物の気配を全く感じない。
なので俺はインベントリからランプの魔道具を取り出し、光の魔石を入れて起動させた。
すると、急についた光に驚き、別の方向を見ていたミャオが勢い良く振り返るのと同時に光を直視する。
「ンぎゃッ! 目がッ! 目がッ!」
「あ、すまん」
「明かりをつけるなら先に言っといて欲しかったッス……」
「悪かったって」
にしても、魔物が寄ってくる気配はないか。
ここがダンジョンなら何もおかしな事ではないのだが、クランメンバーではないソルが俺たちの後をついてこれている時点で、俺の予想通りここはダンジョンではないようだな。
となれば、残る可能性は――。
・件の子が魔物を殲滅した。
・北の大陸の魔物が近寄れないほど魔素が薄い。
・別の理由があって近寄らない。
の、三つだ。
不確定要素をそのままに残しておくのも危険だな、と考えた俺はインベントリからコンパスの魔道具を取り出し、起動させてみるも未だに明後日の方向を指している。
これで魔素が薄いという可能性も消えた。
じゃあ、次は……。
「ソル。ここに入ってから、体に異常はあるか?」
「グルルゥ」
「嫌な気配を感じるか?」
「グルルゥ」
………………。
…………。
……。
その後も幾つか質問してみたのだが、ソルはそのどれもに首を横に振りながら鳴くばかりで、何もわからなかった。
魔物の事は魔物に聞くのが一番いいと思ったんだがな。
やはり件の子が殲滅したという線が濃厚か。
だとすれば、かなり強いな……あの子。
期待に胸を膨らませる俺を先頭に、しばらく暗い森の中を進んでいると、前方に巨大な壁? が、薄らと見えてきた。
「あそこがそうッス」
「ん? あの壁がか?」
「よく見るッス。あれは壁じゃなくて木ッス」
そう言ってミャオが指さす先には、活動拠点にしている巨木よりも一回りほど大きな巨木が聳えたっており、その巨木の周囲には木が生えておらず、開けた場所になっていた。
え、デカッ。
「デカッ!」
「でっかーい!」
「大きいデス!」
巨木を見た感想がちびっ子三人と同じで少し複雑な気持ちになりながら根元まで歩いていると、手に持ったランプの光が反射して巨木の中腹あたりがキラリと光るのが見えた。
…………は?
キラリと光が反射した者を見た俺は言葉を失った。
俺が見た者……それは下半身が巨木に埋まった女性の姿。
巨木の中腹あたりから生えているようにも見える女性は生気の無くなった胴体を上反らせながら、両腕が巨木の蔦に絡めとられ、十字架を型どっている。
しかし……俺が絶句したのはその女性に対してではない。
女性の首に掛かった“青色に輝くロザリオ”に対してだ。
俺は無意識に<鑑定>スキルを発動させる。
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【流星のロザリオ】(アダマントのロザリオ)
・製作者:Task
・レベル:70~
・<INT>A
・<MEN>A
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制作者……Task。
俺のサブキャラ(鍛治職)の名前だ。
通りで見覚えがあると思った。
何故、元『流レ星』のヒーラーであるフレダリアのために作ったロザリオを、この女性が装備しているのか。
その理由は火を見るより明らかだ。
この女性が現実世界のフレダリアだからだろう。
誰がフレアを殺した? あの子か? それとも……。
俺は湧き上がってくる怒りを抑えながら思考を巡らせていると、腹に響くような低い声が辺り一帯に響き渡る。
「誰ダ?」
それと同時に俺たち九人とソルは戦闘態勢をとった。
「成程。冒険者カ。此処ハ、俺様ノ、領域ダ。踏ミ入ッタ事ヲ、後悔スルガイイ」
フレアを体に宿した巨木は蔦が絡み合ってできたような巨大な腕を二本生やし、ウロのような真っ黒な瞳を見開く。
併せて周囲に密生していた巨木群が動き出し、開けた場所だけを残して円形のフィールドを作り出した。
俺たちの退路を断った……か。
逃げる気など毛ほどもないがな。
「危ないッス!」
ミャオが声を荒らげたのと同時に、巨木の化け物は蔦で出来た右腕を振り上げると、俺を目掛けて振り下ろしてくる。
それを俺は大盾で真正面から受け止め、口を開いた。
「おい、デカブツ。殺り合う前に一つ聞きたい」
「何ダ?」
「そこ刺さってんのは、お前が殺したのか?」
「……ソウダ」
そうか。
良かった。
もしあの子がフレアを殺してたなら、俺はあの子を……。
「オ喋リハ、終ワリダ!!」
巨木の化け物はそう言いながら左腕を振り下ろしてきたので、俺は『パワーバッシュ』を発動させてパリィする。
「おい、ちょっと待て」
「問答無――」
「いいから待っとけ!! …………すぐに殺してやるから」
巨木の化け物の言葉を遮りながら伸びてきた鋭く尖った蔦を『インパクト』で弾き飛ばした後、俺は巨木の化け物に背を向け、後ろに居た八人とソルの元へと歩いていく。
「頼む。お前らは手を出さないでくれ。アイツは俺がやる」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
巨木の化け物の攻撃を弾いた後、私たちの元へと歩いてきたタスク様は突然「手を出すな」と言う。
一瞬、聞き間違えたかとも思えた一言だったが、タスク様の顔や「殺してやる」というタスク様らしからぬ言葉からして本気である事がありありと伝わってきた。
それは私だけではないようで、普段なら一早く止めそうなミャオ様・リヴィ様・フェイ様・カトル様の四人は巨木の化け物の方へと歩くタスク様の背中をただただ見つめている。
「お止めしなくて宜しかったんですの?」
「止めようとは思ったッスよ……だけど……」
私の問いかけにミャオ様は顔を顰めながら口を噤む。
「……あの時と同じ顔してた。」
「であるな」
リヴィ様の言う「あの時」とは、以前タスク様が『千年孔』が氾濫を起こした時、お一人で『いにしえの皇城』に転移して行った時の事を言っているのだろう。
「凄く怒ってマシたね……」
「うん。タスク兄があんなに怒ってるの初めて見た……」
「こわかったー」
「某、肋骨を折られた時よりも恐ろしかったぞ……」
ミャオ様同様、他の六人も同じ表情を浮かべている。
そんな中、タスク様と巨木の化け物との戦いの火蓋は『フォース・オブ・オーバーデス』で切って落とされた。
先ず、その場から動き出したのはタスク様。
『スピードランページ』で一気に距離を詰めにかかる。
そこへ巨木の化け物は三本の鋭く尖った蔦を伸ばした。
タスク様は『スピードランページ』をキャンセルし、足を止めると同時に伸びてきた蔦を三本とも弾き飛ばす。
そして、タスク様はインベントリから魔力ポーションを取り出して口に咥えると、大盾の魔核が光りだした。
「魔……ル、明…………星……動」
巨木の化け物が振り下ろした右腕を受け止めながら、ブツブツと呟くようにタスク様が何かを唱える。
ハッキリとは聞こえなかったが、魔核スキルを使用したと分かった私……いえ、私たち八人とソル様はまたアザトホースかと思い、身構えたが何も起こらず、視界も変わらない。
私たちがキョロキョロと辺りを見渡していると、再度タスク様が何かに呼びかけるように小さく呟いた。
「……の……せ、ル……ル!」
刹那、物凄い衝撃波と共に天高くから一本の光線が降り注ぎ、巨木の化け物の樹皮をジリジリと剥がしていく。
別の魔核スキル? 一体、幾つ持ってますの? それに、この威力……本当にタスク様は化け物ですわ。
しかし巨木の化け物は天から降り注ぐ光線が直撃しているにも拘わらず、三本の鋭く尖った蔦を伸ばし、それに併せて左腕を振り上げてはタスク様に叩きつけていた。
こちらもこちらで化け物ですわね。
あの威力の攻撃で全く怯まないなんて。
私も混ざりたかったですわ。
読んで頂き誠にありがとうございますorz
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