157話:到着
あれ……? 力が入らない。
少しボヤッとする意識の中、俺は重い瞼をこじ開けた。
だー、MP切れ起こすとかダサッ! 初心者かよ。
咄嗟の判断だったとはいえ、MP消費の激しい『マナの覚醒』を使うなら、発動前にMP残量くらい確認しとけよ俺。
ただでさえタンク職の俺はMPの総量が低いのに。
これで俺が退避の足を引っ張るとか……うん、無いわ。
そんな事を考えながら、インベントリからなんとか魔力ポーションを取り出し、中身を呷っているとフェイ・カトル・ポルの三人が心配そうな表情を浮かべて近付いてくる。
「「タスク兄、大丈夫?」」
「タスクサン、顔色悪いデス」
「大丈夫だ。ただのMP切れだから」
心配してくれた三人に俺がそう返すと、三人はホッと安堵した反面、先程の出来事について聞きたそうにする。
それは三人だけでなく、残りの五人も同様だった。
「聞きたい事は山ほどあるだろうが、とりあえずこの場を離れるぞ。話はそれからだ」
俺は手に持っていたランプの魔道具から光の魔石を引き抜き、明かりを消しながら暗い森の中へと歩を進める。
その後、俺とミャオを先頭に無言のまましばらく進んでいると、隣を歩くミャオが小さな声で沈黙を破った。
「タスクさん。さっきのアレは何だったッスか?」
「アレは魔核スキルって言ってな――」
全てではないが武器や防具には“スロット”と呼ばれる魔核を嵌め込むための窪みが存在しており、そのスロットに魔核を嵌め込む事で、ステータス値を上昇させたり、魔核スキルという特殊なスキルを使用することが可能となっている。
とはいえ、全ての魔核に魔核スキルが付いているという訳ではなく、基本的には高難易度ダンジョンボスの魔核やフィールドボスの魔核くらいにしか付いていない。
因みに今まで出会った中で魔核スキル持ちの例を上げるとすれば、アダマスドラゴンとマーズくらいだ。
そのため、スロットに嵌め込む魔核は自分の戦闘スタイルに合った物を吟味して決めなければ、いくら武器や防具が最良品だろうが、魔核一つで粗大ゴミになりかねない。
しかし、裏を返せば魔核一つで装備は化ける。
というのも魔核スキルは、リキャストタイムが長く、消費MPが多いという難点はあるが、強力な物ばかりだからだ。
なので、いずれ高難易度ダンジョンに挑むためには魔核スキルは必須と言っても過言ではないものとなる。
「――と、まあ、そんなとこだ」
一通り魔核と魔核スキルについての説明を終えると、ミャオが“クレセント”に空いた窪みをほじくる。
「なるほどッス。じゃあ、ここにタスクさんと同じ魔核を嵌め込めば、アタシもさっきのスキルが使えるんッスね」
「そういう事だ。他に何か質問があるなら聞くが?」
俺がそう言うと、俺とミャオのすぐ後ろを歩いていたリヴィは小さく手を挙げながら、少し震えた声で聞いてくる。
「……テンコレみたいに魔核も集めるの?」
「もちろんだ。そのためのリストも既に作ってるからな」
難易度十等級ダンジョンのボス『万物の神アザトホース』を見た後だからか、俺の答えにミャオ・リヴィ・フェイ・カトル・ポルの五人の顔からは血の気が引き、真っ青になる。
そんな五人とは裏腹に、ニヤッと緩んだ頬を隠すように手を口元に当てながらヴィクトリアは問いかけてきた。
「では、先程の化物レベルと戦う、という訳ですわね?」
「いずれな」
「愉しみですわ」
無邪気な子供のような笑顔になるヴィクトリア。
その隣を歩くへススは何かに気が付いたのか、眉間に皺を寄せて少し考えた後、難しい顔をして口を開く。
「しかし、主よ。拙僧には高難易度ダンジョンボスの魔核を入手するには、高難易度ダンジョンボスの魔核が必要だと言っているように聞こえたのであるが? となれば、それを持っていない今の拙僧らではいつまで経っても高難易度ダンジョンボスの魔核を入手できないと思うのである」
「そうだな」
へススの言う通りだ。
自身のステータスとゼムの作った武器や防具だけでは、踏破できたとしても難易度八〜九等級がいいとこだろう。
しかし、IDO時代から俺たちプレイヤーが愛用して来た魔核の殆どが、難易度十等級ダンジョンボスの物ばかりだ。
「どうするのであるか?」
「そのダンジョンに合わせて専用の装備を作る。所謂、相性装備というやつだな。それが一番、手っ取り早い」
魔核の中には各属性攻撃の耐性を上げる物もあれば、『戦神マーズ』の魔核のように『即死』の状態異常を付与するスキルを完全に無効化するような魔核スキルも存在している。
それを利用して、欲しい魔核を持つ高難易度ダンジョンボスを狩れば、いずれは全て集まるといった寸法だ。
「なるほど。それはゼムが大変そうであるな」
「大変だろうが、それがゼムの仕事だからな」
今後、ゼムには少なくとも最期まで使える武器の他に、物理用に一着と魔法用に九着は防具を作って貰わないとな。
なんて事を考えていると、後ろを歩いていたカトルが不安そうな表情を浮かべながら俺の方へと駆け寄ってくる。
「タスク兄がさっきリストを作ってるって言ってたけどさ、俺たちのパーティの分も作ってくれてるの……?」
「いや。お前らのパーティでリストを作ってるのはフェイの分だけで、カトルとポルと虎鐵の分は作ってない」
正しくは、作ってないのではなく、作れないのだが。
というのも、カトルの場合は最上位職のスキルが分からない以上、カトルに合った魔核など選びようがない。
ポルの場合は残り三匹の契約虫次第で魔核が変わるし、虎鐵の場合は昇格先の最上位職によって魔核が変わる。
その事をカトルも理解しているのか「やっぱり」というような表情を浮かべ、俺の隣を歩きながら考え込んでいた。
「深く考えすぎるなよ? カトルとポルの昇格スクロールは必ずどこかにあるはずだ。探すのも手伝うから心配するな」
「うん。ありがと、タスク兄」
魔核集めも大事だが、そろそろ本格的にカトルとポルの昇格スクロールも探しも視野に入れとかないといけないな。
とはいえ、問題が一つある。
それはカトルとポルの昇格スクロールがドロップするダンジョンの難易度どころか場所すらも分からない点。
この広い世界の中からダンジョンの入口一つを探し出すなど、干し草の中から針を探すようなものだ。
屋敷に戻り次第、ダンジョンに纏わる文献を漁ろうと考えていると、隣を歩いていたミャオが俺たちを制止する。
「止まるッス」
「敵か?」
「違うッス。暗くてタスクさんは見えないかもしれないッスけど、あの子が住んでる木がここから見えるんッスよ」
ミャオの言う通り、目を凝らしてみるも何も見えず、今居る場所が小高い丘になってる事くらいしかわからなかった。
「それじゃあ、ここを下ったたら目的地って事か」
「そッスけど……。本当に行くんッスか……?」
ここまで来といて何を言い出すのか……と、言いたいところだが、正直、俺も嫌な予感がしている。
先程まで歩いていた森の中からは枝葉の揺れる音や獣のような息遣いなど、何かしら居るという音を感じていた。
しかし、ミャオが指さした丘の下が異様に静かすぎる。
何かが居るという音がこちらまで全く届いてこないのだ。
考えられるとすれば――四つ。
1.件の子が魔物を殲滅した。
2.北の大陸の魔物が近寄れないほど魔素が薄い。
3.フィールド型のダンジョン領域になっている。
4.2と3とは別の理由があって近寄らない。
うーん……3以外は大丈夫そうかな。
もし3だった場合、進んできた方向的に俺の知らない難易度不明の初見ダンジョンだという事が確定する。
「行く行かないの前に聞きたいんだが、ミャオはどの辺まであの子の後をつけてたんだ?」
「ここら辺までッスよ」
それなら3の線は殆ど消えた。
フィールド型のダンジョンなら、件の子がダンジョンに入った瞬間、ミャオの視界から消えて見えなくなるはずだ。
と、なれば……行くか。
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