雑話:ニャン丸
~Side:ロマーナ~
ここ最近、屋敷にやたらと客が来る。
まあ、わたしが知らなかっただけで以前から客は来ていたのかもしれないが、タスクたちが北の大陸に行って留守にしている今、客の応対は必然的にわたしたちの仕事となっているので、やたらと多いように感じるのかもしれない。
先ず一番多いのは冒険者共だ。
クランに加入させてほしいだの、一緒にダンジョンを攻略してほしいだの、同盟を結んでほしいだの、屋敷で働かせてほしいだの、毎日と言っていいほど冒険者共が訪ねてくる。
わたしが言えた事ではないのだが『侵犯の塔』に加入したいなどと懇願する冒険者は自殺志願者にしか見えない。
とはいえ、訪ねてくる奴の大半は『侵犯の塔』が異常とも呼べるダンジョン周回をしている事は知らないだろうから、勝ち馬に乗りたい程度に考えているのだろう。
次いで多いのは各国の貴族連中だ。
お抱え冒険者にならないかだの、娘息子との婚約を是非だの、公爵だか伯爵だかの遣いや娘息子本人が訪ねてくる。
これは完全にタスクのせいだ。
ペオニアに聞いた話だが、多くの商人がいる前でアドルナート商会と『侵犯の塔』が専属契約を結んでいると公言したらしく、その話は瞬く間に広がり周知の事実となっている。
言い方が悪くなってしまうが、跡取り以外の余っている娘や息子を差し出してでも『侵犯の塔』と繋がりを持ちたいという貴族が出てきてもおかしくはないだろう。
最後に冒険者ギルドと商人ギルドのお偉いさんだ。
北の大陸の情報がほしいだの、北の大陸の素材がほしいだの、両ギルド本部のお偉いさんが直々に訪ねてくる。
今、屋敷で北の大陸の話は禁句だからやめて欲しい。
何故、禁句かって? アンとキラが泣き出すからだ。
「――と、まあ、苦労しているわけだ」
「ロマーナ様も大変なのですね」
研究室の椅子に腰掛けたテアは紅茶を啜りながら眉を八の字にしてわたしの話に頷く。
「他のお方々は応対なさらないのですか?」
「ゼムとペオニアは応対してくれてるが、バトラとアンとキラは応対したくても出来ないからな」
「普段お話をしていると時々忘れてしまいますが、バトラさんもアンちゃんもキラちゃんも歴とした魔物ですもんね」
そうこう話していると、『コンッコンッ』と研究室の扉を軽快にノックする音が聞こえてくる。
「誰だ?」
わたしがそう聞くも、扉の向こうから返事はない。
なので少しだけ扉を開けて、向こう側を覗いてみたのだが誰もおらず、わたしが首を傾げているとテアが口を開く。
「ロマーナ様! 足元です! 足元に何か居ます!」
「ッ!?」
わたしは視線を落としながら後方に飛び退くと、そこには奇々怪々な生物? が二足でトコトコと歩いていた。
見た目は二足歩行する猫……ミャオに見えなくもないが、明らかに異常だと思える点が存在している。
それは――体が“平面”だという事だ。
「何だ、コイツ? 魔物か?」
「ロマーナ様もご存知ないのですか?」
「こんなペラペラな知人は居ない」
わたしはアダマント製の小針を魔法鞄から取り出し、奇々怪々な生物? に向けて投擲しようとした――その時。
その奇々怪々な生物? は一枚の紙を両手で器用に持ち上げると、わたしの方へと差し出してくる。
何だ? 受け取れと言ってるのか?
恐る恐るわたしは奇々怪々な生物? の持つ紙を素早く受け取り、書かれている内容に目を通す。
――――――――――――――――――――――――
ロマーナさんへ!
例の研究の進捗はどうですか?
少しでも進んでると嬉しいです!
私もロマーナさんに頼まれた魔道具作りを
頑張ってみてはいるのですが、ちょっと
難しいかもしれないです……。
ですが、バトラさんたちのためにも
いずれは絶対に完成させてみせます!
P.S.
この子、すごく可愛くないですか!?
因みに、名前はニャン丸ちゃんです!
ペオニアより。
――――――――――――――――――――――――
……ふむ。
とりあえず、この奇々怪々な生物? の名前がニャン丸とやらで、ペオニアのペットだという事はよーくわかった。
しかし、だ。
わたしはニャン丸が何なのかが知りたかった。
何故、ペラペラなんだ? 何故、筋肉も無いのに歩けるんだ? 何処でこの生物を拾ってきた? ……我慢できん。
わたしは研究室の扉を勢い良く開け、ペオニアの住む別宅へ向かうと、後ろから目を輝かせながらテアがついてきた。
わかる。
わかるぞ、テア。
未知の生物は一度、バラしてみたいよな。
別宅の前まで来たわたしが扉をノックすると、中から「はーい」と返事が聞こえ、直ぐにペオニアが出てきた。
「ロマーナさん? そんなに慌ててどうしました?」
「ニャン丸だ!」
「へ?」
「ニャン丸を何処で捕らえた?」
「あー、あの子は私のスキルで作った子なんです!」
「スキル……だと?」
「はい! タスクさんに魔物の素材を貰ったので、この二つのスキルを使って私が書いた絵を従魔にしたんですよ!」
<美術家>スキル『クリエイトペイント』:特殊塗料作成。
<美術家>スキル『クリエイトピクチャー』:特殊塗料から作成した絵を従魔とする事が可能。
「それでは、ニャン丸はただの絵という事か?」
「はい! すっっっごく可愛いでしょ! 力作なんです!」
「帰る」
「へ?」
ポカンとするペオニアをよそに、わたしが踵を返して屋敷に戻ろうとすると、テアが白衣をグイッと引っ張ってくる。
「ちょ、ちょっと、待ってください! ロマーナ様!」
「なんだ?」
「ロマーナ様はニャン丸様の事を聞きに来たんですよね?」
「そうだな」
「では、もっとペオニア様にお話を……」
「必要ない。絵ならバラしても絵の具になるだけだろう?」
「え……?」
「ん? テアもバラしてみたかったんじゃないのか?」
「違いますッ!!」
なんだ、違うのか。
わたしはてっきりそうだとばかり思っていたんだが。
「ところで、ペオニア様? ロマーナ様宛のお手紙に書いていた“例の研究”と“魔道具”ってどんな内容なのですか?」
「あー、ロマーナさんに頼んでいる研究の方の方は――」
ニャン丸が絵だと知り興味が失せたわたしは、話に花を咲かせているテアとペオニアをその場に残し、研究室へ戻る。
その途中、ゼムと話すグロース王の姿があった。
「本当なのだ! 確かにミャオが歩いておったのだ!」
「そう言われましてもな……」
ゼムは困ったように頭をボリボリと掻く。
恐らく……いや、間違いなくグロース王が見たというミャオとは、ニャン丸の事を指しているのだろう。
確かに見てくれは似ていると言えば似ているのだが、本物はあんなにペラペラじゃないし、あんなに物静かじゃない。
そんな事を思いながらゼムとグロース王の隣を通り過ぎようとすると、ゼムがわたしの腕をガシッと掴んでくる。
「ロマーナ。タスクたちは帰ってきとるのか?」
「まだ帰ってきてないだろう。帰ってきてるならもっと騒がしいはずだ。特にアンとキラあたりがな」
「そうじゃよな……」
「「キャーーーー!!」」
そのアンとキラの叫び声が遠くから聞こえた。
何事かと思い、叫び声がした方へと向かうと、アンとキラは廊下の端にペタンと腰を落として一方向を見つめている。
そこには、廊下をトコトコと歩くニャン丸が居た。
「!? 何じゃアイツ!?」
「もしかして、北の大陸で何かあったんじゃっ!」
「それじゃあ、もうこの世にはぁ……」
「ミャオ……お主……」
「心配しなくていい。あれはミャオじゃなくてニャン丸だ」
「ニャン丸じゃと?」
「ニャン丸って何ですかっ?」
「ニャン丸って何ですかぁ?」
「ニャン丸とは何なのだ?」
「ペオニアの悪戯だ」
わたしがそう言うとゼム・グロース王・アン・キラの四人は顔を真っ赤にしながら別宅の方へと歩いていった。
するといつの間にか後ろに居たバトラが話しかけてくる。
「ロマーナ様、お戯れも程々に」
「んふっ。すまない。つい面白くてな」
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