156話:魔核の力
辺りの巨木から砲撃手長猿がゾロゾロと降りてくる。
「タスク兄、フェイ、ヘビィハウル!」
カトルの掛け声と共に、俺が右方向、フェイが左方向へと『ヘビィハウル』を発動させ、砲撃手長猿の敵意を取る。
それと同時に砲撃手長猿の吐き出した球体型のブレスが四方八方から俺とフェイを目掛けて雨のように降り注いだ。
「フェイ、ロックウォール! リヴィ姉、エアリアルウォール! ヴィク姉、ホーリーウォール! へス兄、イビルウォール! 一発も通さないでッ!!」
フェイ・リヴィ・ヴィクトリア・へススの四人は防御範囲が被らないように、それぞれが指示通りの障壁を張る。
しかしフェイの『ロックウォール』だけは球体型のブレスを防ぐには<INT>が足りず、いとも容易く砕かれた。
しかし、貫通するであろう事が分かりきっていた俺は、体を張って防ぐフェイを対象に『ライフガーディアン』を発動させ、フェイが食らうはずだったダメージを肩代わりする。
『ライフガーディアン』を掛けた事を知らないカトルは、球体型のブレスがフェイ直撃した瞬間、声を荒らげた。
「フェイ! 大丈夫か!?」
「は、ハイ。全然、痛くも熱くもないデス」
フェイが何事もなかったかのようにそう答えると、察したのかカトルは俺の方を見て小さく頷いた後、指示を出す。
「攻撃開始! ポルとデスビィは左方向! ミャオ姉は右方向! 虎鐵兄は正面! ヴィク姉は後方をお願い!」
「りょーかい!」
「あい、わかった!」
「了解ッス!」
「畏まりましたわ」
カトルに指示された四人と一匹は返事と同時に動き出し、先ずその場から放たれたミャオの『パワーショット』と災害蜂の<飛針>が巨木に張り付いていた砲撃手長猿の頭を貫く。
次いで、黒いドレスを翻しながら飛び上がったヴィクトリアの『マグナム・メドゥラ』が正面の砲撃手長猿の顔面に叩き込まれ、その逆側では同様に派手な着物を靡かせながら飛び上がった虎鐵が『豪ノ型』で砲撃手長猿の首筋を斬った。
そして最後に災害蜂に頭を貫かれた砲撃手長猿の隣の巨木に張り付いていた砲撃手長猿をポルの糸が切り刻む。
アタッカーの四人と一匹に攻撃された五匹の砲撃手長猿は叫び声を上げながら、重力に従って顔から落下し絶命した。
――数分後。
未だ砲撃手長猿の吐き出してくる球体型のブレスを俺とフェイが弾き、アタッカーの四人と災害蜂が一体ずつ砲撃手長猿を仕留めている中、ふとミャオは攻撃の手を止めて叫ぶ。
「あっちから何か来るッス!!」
その報告を聞いたカトルはミャオが指さした方を向き、目を細めてジッと見つめていたかと思うと、顔を青くする。
「タスク兄……アレ、幻想蝶々だよね?」
幻想蝶々とは、これまた俺たちがソルの背中に乗っている時に北の大陸から『麻痺』と『幻惑』の状態異常を引き起こす鱗粉を飛ばしてきていた魔物だ。
「ああ、そうだな」
「ど、どうしよう?」
「アタッカー組を下げさせろ。あの四人は<MEN>が低い。もし幻惑を食らって俺たちに敵対でもしたら死ねる」
「でも砲撃手長猿はどうするの!? まだ居るんだよ!?」
「良いから下げさせて、ソルの背中でしてたようにリヴィのエアリアルウォールで包んどけ!」
「わ、わかった! ミャオ姉、ヴィク姉、ポル、虎鐵兄は下がって!! リヴィ姉はエアリアルウォールをお願い!」
カトルの指示通り四人が戻ってくると、リヴィは四人に加えてリヴィ自身・へスス・カトルを包み込むように『エアリアルウォール』を発動させる。
さーて、ここからどうしようか……。
辺り一帯の空中に鱗粉が漂う中、俺は砲撃手長猿の吐き出してくる球体型のブレスを弾きながら思考を加速させる。
この鱗粉の中でも無事で居られるのは俺・リヴィ・へスス・フェイ・カトル・ソル・災害蜂の五人と二匹だけ。
ソルと災害蜂の魔物コンビにアタッカーを任せるのも一つの手だが、砲撃手長猿と幻想蝶々の数が多すぎる。
そんな中、攻勢に出れば間違いなくタダじゃ済まない。
かといって、このまま『エアリアルウォール』の中に籠城していても、直にリヴィのMPが尽きて倒れる、もしくは他の魔物も寄ってきてより状況が悪くなるとしか思えない。
………………仕方ないか。
最期まで使えるバックラーが出来上がり次第、フェイに渡そうと思っていたんだが……命には変えられん。
使うか。
俺はインベントリを開き、羅列された所持しているアイテム一覧の中から目的のアイテムを探して取り出す。
それは――黒ずんだ紫色をした魔核。
俺はその魔核を“かたいたて”の魔核スロットに埋め込み、呪文を唱えるかの如く、小さな声で呟いた。
「魔核スキル、マナの覚醒……発動」
すると、巨木に張り付いていた砲撃手長猿や鱗粉を撒き散らしながら空中を飛んでいる幻想蝶々を全て巻き込み、俺たちの視界が一瞬にして切り替わった。
そこは、見渡す限りに星々が煌めく宇宙。
天井や壁や床などは無く、あるものと言えば絶えず輝きを放ち続けるている星の群れと、“もう一つの存在”のみ。
誰が見ても神秘的だと見蕩れてしまうような光景にも拘わらず“もう一つの存在”がその場に居る者の視線を独占する。
“もう一つの存在”……それは、人型を模した混沌。
混沌は宇宙空間でただ一人寝そべり、ボソッボソッと何かを呟いては舌打ちをする、といった行動を繰り返す。
そんな中、俺は再び小さな声で呟いた。
「目を覚ませよ。“アザトホース”」
刹那、その混沌は瞳を開いた。
しかし開いた瞳の位置にあるはずの目玉は無く、全てを飲み込んでしまいそうな深淵だけがこちらを覗いていた。
その時、その深淵を覗いてしまったのか俺の背後に居たミャオ・リヴィ・ヴィクトリア・へスス・フェイ・カトル・ポル・虎鐵の方から「ヒッ」と言う小さな悲鳴と、ドサッという地面に何かを落としたような音が聞こえてくる。
同時に砲撃手長猿と幻想蝶々は永劫の眠りに就いた。
そして「クハハハハッ」という混沌の嗤い声と共に視界が元居た北の大陸深部の深い森の中へと切り替わる。
砲撃手長猿と幻想蝶々に加えて巨木の枝葉に隠れていたのであろう様々な魔物の死体が地面に散乱する中、俺が後ろを振り返ると、ミャオ・リヴィ・フェイ・カトル・ポルの五人は涙目になって腰を抜かしており、ヴィクトリア・へスス・虎鐵の三人は顔を引き攣らせたまま直立していた。
ソルと災害蜂はというと体を丸めガタガタと震えている。
恐怖してしまうのは無理もない。
今、八人と二匹が目にした『万物の神アザトホース』は難易度十等級ダンジョンのボス“そのもの”なのだから。
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【かたいたて】(アダマントの大盾)
・製作者:ゼム
・レベル:70~
・<VIT>A
・<RES>A
・<MEN>B
・◆:アザトホース:<MEN>の極大上昇。
魔核スキル『マナの覚醒』:状態異常『即死』の付与。
・◇:なし
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あーあ、一個しか持ってなかった魔核を使っちまった。
まあ、仕方ない! あのまま死ぬよりか幾分マシだ。
魔核は一度でも埋め込んでしまえば、IDO時代の課金アイテムを使う以外の方法で外すことは出来ない。
そして俺はその取り外す課金アイテムを持っていない。
=その内『万物の神アザトホース』と戦う事が決定した。
この世界で戦うとか絶望を感じるけど何とかなるだろ。
どうせ難易度十等級ダンジョンには潜る事になるんだし。
そんな事より、今は――。
「とりあえず、この場から離れるぞ。また追加の魔物の群れが来たら、たまったもんじゃな……い」
あれ……? 力が入らない。
その時、俺の視界がぐらりと揺れた。
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