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インフィニット・ダンジョン・オンライン《Infinite Dungeon Online》  作者: 筋肉式卓一同+α
第三章:《北の大陸編》
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155話:深部【イラスト有】



「ほら、タスクさんの鎖を壊したあの子ッス」


 ……まあ、そうだよな。

 その子以外に“あの子”と聞いて思い浮かぶ奴はいない。


 三日前、巨木の陰から覗いていた背が五十センチほどと低く、種族は不明、植物を操るスキルに加えて、最上位職ヒーラーのスキルを魔物相手にでも使える謎の女の子。


 この北の大陸でたった一人、生きてんのか。

 控えめに言って……面白すぎるだろ、そいつ。


「タスクさん、顔が怖いッスよ?」

「……悪い事考えてる時の顔してる。」


 失敬な。

 悪い事……は考えていない。

 決して悪い事ではないはずだ。

 ふっふっふ。


「そんな事ないぞ?」


 ジトッとした疑いの目を向けてくるミャオとリヴィをよそに、俺は魔手田鼈と遊ぶフェイ・カトル・ポルの方を向く。


「魔手田鼈を治癒してくれた奴の居場所がわかったぞ」

「本当デスか!?」

「本当に!?」

「ほんとー!?」

「ああ。森の奥にたった一人で住んでる女の子らしい」


 俺は「たった一人」の部分を強調し焚き付けるかのように言うと、案の定と言うべきか三人は俯き表情を曇らせる。


「こんな危ない北の大陸で一人か……」

「可哀想デスね……」

「そーだね……」


 するとポルは顔を上げて、俺の方を向くと口を開く。


「ねー、タスク兄? その人に会いに行っちゃダメー? デロちゃんを回復してくれたお礼しなきゃ」

「いいぞ。お前らもいいだろ?」

「……うん。……いーよ。」

「お礼は大事なのである」

「私も構いませんわ」


 リヴィ・へスス・ヴィクトリアの三人が頷く中、ミャオは眉間に皺を寄せながら俺の方を向き、問いかけてくる。


「危なくないッスか? 最初に会った時のあの子、アタシの索敵に引っかかんなかったんッスよ?」


 ……は? マジか。

 だから本当に追うのか聞いてきたのか。

 もし誘い出されてたとしたらヤバかったぞ。

 てか、それなら最初の時に報告しとけよ!


 うーん……でも、どうしよう。

 会ってみたいしな。

 よし、行こう。


「危険はあるかもしれんが、行く価値はある! と思う」

「なんか、“と思う”とか聞こえた気がするッスけど……。わかったッス。あの子が住んでるとこまで案内するッスよ」

「ありがとな。それじゃあ、行くか」


 泉の畔で日向ぼっこをしていたソルと、いつの間にかその隣で寝ていた虎鐵を起こし、水虎と夜雀を埋めた後、俺たちはミャオに案内されながら深い森の奥へと進んでいく。



 歩き始めて二時間ほど経った頃、辺りは一層暗くなり、僅か先の地面すら目視できないほどになっていた。

 そんな暗闇の中、枝葉の揺れる音や虫が飛んでいるような羽音、そして獣のような荒い息遣いが聞こえてくる。


 ここは、北の大陸“深部”と呼ばれる場所。


 先程まで居た場所に比べ、ダンジョンで言う等級が上がっており、魔物の強さも比べ物にならないほど上がっている。

 そのため明かりに魔物が寄ってくるのを避け、ランプの魔道具も点けずに俺たちは暗闇の中を固まって移動していた。


「ミャオ、索敵範囲を出来る限り広げといてくれ」

「…………わかってるッスよ」


 隣を歩くミャオはどこか不機嫌そうに返事をする。

 

「どうした? 何かあったか?」

「何かあったか? じゃないッスよ。何ッスか? これ」

「ん? ああ、ハーネスだ」

「これじゃあ、アタシがペットみたいじゃないッスか……」

「いや、だってハーネスでも付けてないと、この暗闇の中、メルトエアで気配を断ってるお前を見失いかねんからな」

「だからって……ッ!!」


 話している途中でミャオは口を噤み、耳をピンと立てる。


 そして小さな声で一言――。


「木の上に何か居るッス」


 と、囁くように言った。

 

 俺はその場にいる八人とソルに近くの巨木の陰に身を隠すように指示し、俺はその巨木の陰から木の上を見つめる。


 あー、クソ。

 全然、見えねえ。

 かといってランプ点けりゃ、別の奴が来かねんからな。


 その時、見えないながらもジッと目を凝らし続ける俺にヴィクトリアが小さな声で話しかけてきた。


「大きなお猿さんですわね」

「!? お前、見えてんのか?」

「ええ。私、これでも吸血鬼ですわよ」


 この世界の吸血鬼族って暗視能力持ってるのか。

 IDO時代に吸血鬼族を使ってたフレンド……? が居たけど、暗視能力が備わってるなんて話、聞いた事なかったぞ。


「見えてるなら助かる。どんな奴だ?」

「両手足の長いお猿さんの様な見た目をしています。それが巨木を這いつくばるように降りてきていますわ」

「そいつ、顔に特徴は無いか?」

「ありますわ。大きな一つ目に魔砲の様な口をお持ちです」

「やっぱり、砲撃手長猿(キャノンデボン)か」

「アレがそうですのね」


 砲撃手長猿(キャノンデボン)とは、俺たちがソルの背中に乗っている時に北の大陸から球体型のブレスを飛ばしてきていた魔物だ。

 ドが付くほどの遠視で、近くは全くと言っていいほど見えていないため、本来は木の上から降りてくることはなく、北の大陸に近付いてくる船を無差別に襲う習性を持っている。


 それなのに、降りてきた? 俺たちと戦うつもりか?

 砲撃手長猿(キャノンデボン)は“群れで強い魔物”に分類されている。

 俺の仮説が正しいなら俺たちを視認した瞬間、思考停止で撃ってくるはずなのだが……如何せん、俺には姿が見えん。


 このまま見つからない事を祈ってやり過ごすかと考えていると、ヴィクトリアが再び小さな声で話しかけてくる。


「如何なさいますの?」

「やり過ごす。俺には全く見えんから敵意(ヘイト)が取れん」


 俺がそう言うと、話を聞いていたのかフェイが口を開く。


「ワタシが取りマス」

「ん? 砲撃手長猿(キャノンデボン)が見えてるのか?」

「ハイ。ハッキリとは見えてないデスけど」


 暗視とまではいかず、夜目が少し利く程度か。

 まあ、少しでも見えてるのなら敵意(ヘイト)は取れるが……。


「ダメだ。二人だけじゃ危険すぎる」

「アタシも見えてるッスから三人ッスよ」

「某も薄らだが見えている。故に四人だ」


 ミャオはまだわかるが、虎鐵も見えてるのか。

 フェイといい、虎鐵といい、もしかして魔人種は多少なり夜目が利くのか? 確かに、魔人種って聞くと暗い屋敷とか洞窟の中とかで暮らしてそうなイメージはあるけど……。

 

「四人はどうだ?」

「……あんまり見えない。」

「拙僧もである」

「全ッ然、見えない」

「なーんにも見えない」


 リヴィ・へスス・カトル・ポルの四人は俺と同じか。

 今更だが、こういう情報は先に共有しとくべきだったな。


「パーティを組み直す。戦うのは、その後だ」


 俺はインベントリから水晶板を取り出し、全員のギルドカードを預かると、対北の大陸深部用のパーティを組む。


 A、フェイ・ミャオ・ヴィクトリア・虎鐵・リヴィ

 B、俺・へスス・カトル・ポル


 Aパーティは多少なり見えてる四人+バフ役。

 Bパーティは……おんぶにだっこの四人組だ。


 パーティを組み直し終わったところで、リヴィはAパーティの面々に各種『バフ』に加えて『タロットリーディング』を掛け、四人は降りてきた砲撃手長猿(キャノンデボン)の方へと駆け出した。


 刹那、一発の発砲音と共にAパーティの四人を飲み込んだ暗闇を砲撃手長猿(キャノンデボン)が放った球体型ブレスが照らし出す。


 フェイは飛んでくる球体型のブレスの方へとバックラーを構えて弾きながら直進し、その左右からはミャオ・ヴィクトリア・虎鐵の三人が砲撃手長猿(キャノンデボン)の背後を取りに行っていた。


 弾かれた球体型のブレスがフッと消えると、再び辺りは暗闇に包まれ、数秒も経たない内に砲撃手長猿(キャノンデボン)の叫声が響く。

 それと同時に頭上の枝葉がガサガサと音を立てて揺れ、ズリズリと巨木を這う音が四方八方から聞こえてきた。


 群れの仲間が降りてきてるっぽいな。

 流石にこの数を四人で捌ききるのは無理だ。


 そう思った俺はランプの魔道具に光の魔石を突っ込んで起動させると、既に地に倒れ付した砲撃手長猿(キャノンデボン)を囲むように立っている四人の方へと駆け出した。



「全員で迎え討つぞ!」



挿絵(By みてみん)


ペオニア作のミャオ用ハーネスです♪

※本編では武装しているので格好が異なります。



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