154話:魔手田鼈
無事、目的の一つであった虹サワン草の採取を終えた。
テアとラシュムの治療用とは別に、ロマーナとヴィクトリア母、序に各国の王たちへのお土産として虹サワン草を五十本ほど毟ってインベントリに放り込み、俺とヴィクトリアはフェイ・カトル・ポルの三人が居る方へと歩いていく。
その途中で三人は今、水虎にやられ気を失っている魔手田鼈と一緒に居ることを、予めヴィクトリアに伝えておいた。
「今し方、聞こえたポル様の声はそういう事でしたのね」
「ああ。俺が駆けつけた時、魔手田鼈が居たから焦ったわ」
「クスッ。本当にタスク様はあの御三方には甘いですわね」
「そうか? そんなつもりはないんだ……がッ!?」
ヴィクトリアと話しながら三人と魔手田鼈の方まで歩いていくと、信じられない光景が俺の視界に飛び込んできた。
ポルが魔手田鼈に跨っている。
気を失っている魔手田鼈にではなく、既に目を覚まし元気そうに歩き回っている魔手田鼈に、だ。
「ごー! ごー!」
「……何してる?」
「あ、タスク兄! デロちゃん元気になったよー!」
「見ればわかる。どうして乗ってるのかと聞いている」
「? 乗せてくれたから?」
「契約はしたのか?」
「ううん。してないよー!」
俺は一部始終を見ていたであろうフェイとカトルの方へと視線を移すと、二人は困惑したように口を開く。
「今さっき魔手田鼈が目を覚ましたんだけど……」
「うん」
「目を覚ましてすぐポルに懐きマシた」
「うん?」
北の大陸の魔物が懐いた? 嘘だろ? 秘策を試してみて知性が既にぶっ飛んでるものだとばかり思ってたんだが。
しかし強き者が活殺自在の北の大陸で知性がカケラでも残っているのなら俺たちを襲ってこないは…………ず。
その時、俺はふと思い出した。
魔物とのエンカウント率が低かった事を。
人の居ない(かもしれない)大陸だから言語能力が身についていないだけで、知性は多少なりあるんじゃなかろうか。
もしそうだと仮定するならば、強さが未知でしかない俺たち人に接触してこようとする魔物は少なくなるはずだ。
それこそ銃弾蜚蠊や熊の編人形、軍隊蟻や茸獅子のような思考停止で数に物を言わせる魔物以外は。
考えてみれば、“群れで強い魔物”には襲われたが“個として強い魔物”には逃げてきた魔手田鼈以外に襲われていない。
打擲麒麟も草を食べてただけで敵対して来なかった。
遊泳土竜も引き摺りこもうとした訳ではなく、ただ地面を泳いでいたところに巻き込まれただけかもしれない。
水虎と夜雀も最初は様子を伺うだけで襲ってこなかった。
俺はパズルのピースが綺麗にハマっていく感覚を覚える。
それと同時に北の大陸のフィールド魔物も他大陸のフィールド魔物と同様、精一杯生きているのだと感じた。
水虎と夜雀には悪い事しちゃったかな。
後で埋めて墓でも作っといてやろう。
そんな事を考えていると、俺のすぐ隣から「ヒッ」という短く小さな漏れたような悲鳴が聞こえる。
声のした方を向くと、魔手田鼈に乗っているポルを見て顔を青くしたリヴィと片目を開いたへススが立っていた。
「……魔手田鼈? ……ポルちゃんが乗ってるよ?」
「大丈夫なのであるか?」
「あれはあのままでいいから放っとけ」
「……うん。……わかった。」
「承知した。それより主、虹サワン草を見つけたのである」
「あー、もうヴィクトリアが見つけてくれたんだ」
「そうであるか」
「すまん」
リヴィとへスス呼びに行くの忘れてた。
まだ探してくれていたとは申し訳ない。
「そういや、ソルは?」
「あちらに居ますわよ」
ヴィクトリアが指さした方を見てみると、水虎が居た泉の畔でうつ伏せに寝そべり、日向ぼっこをしていた。
ここ数日、陽の光も差さないジメジメした森の中で生活していたので、火山に棲むソルには寒かったのかもしれない。
しばらくはあのままにしといてあげよう。
「それで? ポル、どうするんだ?」
「どーするって?」
「契約だ」
「するー!」
そう言いながらポルは嬉々とした様子で魔手田鼈の背中からぴょんと飛び降り、魔手田鼈の顔の前まで早足で歩いていくと握手を求めるように右手を伸ばした。
「デロちゃん、私と一緒に来て」
やはり言語能力は備わっていないのか魔手田鼈はポルの伸ばした右手だけをジッと見つめるだけで反応しない。
「こーするんだよ!」
ポルは魔手田鼈の前でフェイ相手に握手をして見せる。
そしてもう一度、魔手田鼈の顔の前に右手を伸ばした。
「私と来て?」
すると魔手田鼈はポルの伸ばした手のひらの上に前脚を乗せ、「これでいいの?」と言わんばかりに首を傾げる。
それを見たポルは笑顔を咲かせ『テイム』を発動させた。
ポルから溢れ出した光が魔手田鼈を包む。
光は割れることなく、スッと魔手田鼈の中へ消えた。
マジか……『テイム』成功しちゃったよ。
魔手田鼈のHPが満タンにも拘わらずに、だ。
まだ<LUK>が必要ないかはわからないが、今のポルと魔手田鼈を見ている限り必要だとは思えない。
まあ、考えるのは後にして、今はとりあえず……。
「おめでと、ポル」
「うん! ありがとー!」
「名前はデロちゃんでいくのか?」
「もーステータスも、そーなっちゃったし!」
そう言いながらポルが覗いていた魔手田鼈のステータスウィンドウを俺の方へと向けてくる。
――――――――――――――――――――――――
【魔手田鼈】
<名前>デロ
<レベル>1/50
<種族>虫種
【スキル】
下位:<殴打><組付き><口針><飛行>
上位:<見敵><水中呼吸>
――――――――――――――――――――――――
本当に“デロ”になってるよ。
この世界のステータスウィンドウって、マジで謎だな。
というか、こいつ……<見敵>持ってるのかよ。
<見敵>とは、魔物固有のスキルで、相手の頭上に相手のレベルを可視表示化できるというスキルだ。
魔物固有のスキルなだけあって、<能力>スクロールは存在していなかったが、<呪文>スクロールが存在していたため俺自身も何度か使ったことがある。
使ってみた感想は一言――便利。
難易度九等級ダンジョン以上の魔物の中には、体から漏れ出す黒い魔素を隠して弱いフリをする化け物もいる。
そういう奴を相手に<見敵>があればぶっ刺さるのだ。
羨ましいと思いつつ俺がステータスウィンドウを眺めていると、隣でポルが首を傾げながら魔手田鼈に話しかける。
「ねー、デロちゃん? その手で組付きってどーやるの?」
どうやら言語能力の無い魔手田鼈にはポルの質問が命令に聞こえたようで、魔手田鼈はボクシンググローブのような両前脚に返しの付いた無数のトゲをニュッと生やした。
「おおー! トゲが生えたー! かっこいー!」
「おお! 強そうだな!」
子どもというのは変身する事がカッコ良く映るのか、ポルだけじゃなくカトルも一緒になって目を輝かせていた。
気になった俺はもう一人いる子どもに尋ねてみることに。
「フェイも変身するのがかっこいいと思うのか?」
「ハイ。少しだけデスけど」
そんなもんなのか、と思っていると――。
『ガサガサッ』
俺たちの頭上で枝葉の揺れる音がした。
その場にいた全員の視線が頭上に向いたのとほぼ同時に、俺たちの真横へと上から何かが降ってくる。
「ただいまッスー! ……って、何でみんながアタシに武器向けてるんッスか!? 怖いんで下ろして欲しいッス!」
ミャオだった。
「お前、普通に帰ってこいよ。焦るわ」
「え、普通に帰ってきたつもりッスけど……」
「まあ、いいや。で、何かわかったか?」
「わかったッスよ。森の奥の方に凄く大きな木が生えてるんッスけど、そこに一人で住んでるみたいッスね」
「一人? この北の大陸でか?」
「そッスね。他に人影も無かったッスから」
「どんな奴だった?」
「それが……あの子なんッスよ」
もしかして、“あの子”って……。
読んで頂き誠にありがとうございますorz
少しでも良いと思ったらブックマーク登録お願いします♪
評価の方もしていただけたら嬉しいです( *´艸`)
毎日一話ずつですが更新します!




